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17.【金髪の伴奏者】


「おい!三木!!」


あれからずっと走って探していたのかその人は息も荒く膝に手を当て、マジでしんどいと呟いている。


陽に透ける明るい金髪を見て、音楽室で三木さんと揉めていた伴奏者だとすぐに気がついた。


遠目に見ていたからあまり気にしていなかったが、近くで見ると美形の一言に尽きる人だった。


シャープな輪郭に高い鼻梁、二重幅がはっきりとした大きな目。


これでピアノまで弾けるなんて、まるで女の子が夢に見る王子様のようだ。


三木さんと変わらない身長で腰の位置も高く、独特の色気がある容姿に見とれていると目が合って見入っていたのがバレる。


三木さんの様に何か言われると思い反射で少し構えたが、伴奏者は気にしていないようで口角を上げ微笑んだ。


そんな伴奏者の肩に三木さんは手をかけ、驚いたように話しかける。



三木「リオ、追いかけてきたのか?」


「当たり前だろ、まだ話し合いは終わってない。三木が辞めることなんてないだろ」



トントン拍子に進んだサークル設立の話も伴奏者に聞こえていたんだろうか。


もしそうだとしたらあまりにも気の毒すぎる。


あっさり部活を辞める宣言をした上に、もう次の道を探している同級生だなんて信じられないよな。


俺と同じで頭が追いつかないだろう。



三木「そろそろ受験もあるしな。潮時だろ」


「いや、お前さ…なんでそんな簡単に…ってか!三木に辞められたらほんと困るって!」



淡々と取ってつけたみたいな理由を述べる三木先輩に、伴奏者は呆然としている。



三木「それから最後に。リオ、蘭世抜きの2年の中でもう一度誰がソロに適任かをよく考えた方がいい」



頭に手を当てため息をつく伴奏者に、三木さんが追い打ちをかけるようにそう告げる。


少しの静寂の中、しばらくして押し殺したような声をあげたのは伴奏者だった。


「最後って…三木も蘭世も、本気で辞めるのかよ。それに三木、お前は部長だぞ?こんな時に辞めるなんて信じらんねぇよ…これでも一応3年間一緒にやってきただろ?」



憮然とした面持ちで口篭る伴奏者に、本当に言いにくそうな表情の一条さんが静かに近づく。



梅生「か、桂樹先輩。あの…俺も合唱部辞めます」


桂樹「……え、…何?クーデター?まじ?」



躊躇いながらも凛と告げる一条さんに伴奏者は虚をつかれたように瞠目し、信じらんねーと呟きながら頭をガシガシと掻いた。



桂樹「いやだからさ、ほんと、全員で1回話し合おうって」



先輩は必死の表情で訴えるが、3人の意思は変わらないのか誰一人として先輩の思いは通じないようだった。



蘭世「話し合いしたところで俺の意思は変わんねーよ…桂樹さん、俺みたいなのを合唱部に置いてくれてありがとな。でももう辞める、それだけだから」



梓蘭世の眼光の鋭い双眸が揺るぎなく伴奏者を見据え、そのまま踵を返しどこかへ行ってしまう。



梅生「ら、蘭世……あの、失礼します」


桂樹「一条、お前は戻りたくなったら何時でも戻ってこいよ。うちはその辺融通効くからよ」



絞り出した伴奏者の言葉に一条さんはこくりと頷き、梓蘭世の後を追って行ってしまった。



三木 「俺もそろそろ行くぞ。じゃあなリオ、合唱部は頼んだぞ」



駄目押しの三木さんの声が信じられなかった。


一連の流れを気にぜず身を翻し、三木さんまでもが足音を立てて去って行く。


いや!!この状況でなんで行けるんだよ!?


ぼんやりと辺りを見渡せば柊も蓮池もいつの間にかこの場から居なくなっていて、伴奏者と取り残された俺はこの気まずい空気に耐え兼ねる。


今すぐにでも逃げ出したいが俯く先輩に、何て声をかけてこの場を去ればいいのか思いつかない。


静寂の空間でため息を吐きながらしゃがみ込む伴奏者に、不意に話しかけられた。



桂樹「……お前、さっきも会ったよな」



懸命に平静を装いつつ頷くと、伴奏者はいやー、参ったなと立ち上がって俺に微笑んだ。


こんな状況でも俺を気遣い話しかけてくれているというのに、やはり何をどう言えばいいのか分からずただ黙ることしか出来ない。


伴奏者は胸ポケットから出したスマホを差し出した。



桂樹「あのさ、連絡先交換してくんね?」


雅臣「え」


桂樹「………サークル、作ったんだろ?」



やっぱり聞こえていたんだ


視線を上げ目が合うと、先輩は困ったように笑う。



桂樹「三木は意思が固いからな。…色々キツいんだけどあんなんでも1番仲いいんだよ。気になるから普通に様子教えて欲しいんだ」



頼めるか?と3年に頭下げられて断れる訳もなく、差し出された先輩のスマホを受け取り俺のアドレスを打ち込む。


桂樹「藤城雅臣?かっこいい名前だなー」


登録した俺の名前を見て、


雅臣「せ、先輩もいい名前だと思います」


素直にそう思い伝えると、伴奏者とはいえ合唱部なだけあってよく通る声で笑われる。



桂樹「どこがだよ?カタカナでリオンなんて逆にだせぇだろ」



イケメンは名前すらも魅力に変えるんだなと思う俺を置いて、桂樹先輩が軽く手を上げじゃあなとその場を後にする。


そんな先輩の後ろ姿を眺めるもどっと疲れを感じ、ようやく帰れることに安堵した。


読んでいただきありがとうございます。

読んでくださってる事がわかるととても嬉しいです!


活動報告に、1.2.3年生のキャラクターデザイン&プロフィールのイラストが載っていますのでこちらも見てくださると嬉しいです♪♪

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