柊夕太の友達日記1
夕太「でんちゃんってば本当にしょうがないなー」
冷蔵庫から残り少ないペットボトルのミルクティーを取り出してそのまま口につけて飲めば疲れが吹き飛ぶような気がした。
久しぶりにゲームをしたせいで疲れた…とかじゃなくて、雅臣の作ったとび森の島がでんちゃんにぶっ壊されて一緒に直すのに疲れたってのが正解。
夕太「あんなのただの破壊神だよ、破壊神」
首をコキコキ鳴らしながらキッチンの椅子に座って机の上に置いてあるガラスボウルの蓋を開ける。
そこからしぃちゃんお手製のレモンクッキーを摘んで食べるとようやく一息つけた。
大体でんちゃんなんかに本気でフレンドコードを送るなんて、口に出すのははばかられるけど雅臣って本当にバカなんじゃないのと言いたくなる。
夕太 「むぅさおみって、ほんとぬけてるっていうか…」
姉ちゃんと出かけてた俺は遅れてゲームに参加したんだけど、いざ雅臣の島に行ってみれば既にマヌルネコのでんちゃんが到着していてビックリした。
それはまぁいいとして、あのでんちゃんがじっと大人しくしてるはずもない。
俺が到着した時には雅臣が緻密に作り上げた島の全てをマヌルネコがルンルンで壊していて、それをクロヒョウが半泣きで止めていた。
華道家のくせに花壇からバラを何本も引っこ抜くマヌルネコを見てちょっと遠い目になっちゃったよ。
生き生きとどこもかしこも蹴散らして暴れるその姿に、いくらゲームとはいえ花を愛でる心が無さすぎるというか……。
良心が痛まないのかなと蓮池流の行く末が心配になったくらいだ。
まぁ多分、今のでんちゃんは華展のプレッシャーとストレスが限界値を超えちゃってるんだろうね。
口も態度も最高に悪いけど意外と繊細な所がある幼馴染は雅臣をオモチャにすることで溜まったストレスを解消してたんだと思う。
一通り荒らして気が済んだのか、しばらくするとでんちゃんは華展の準備に戻っていった。
でもその後の雅臣を慰めながら島を直すのがほんっとーに大変だった。
夕太「まじで雅臣ってこだわり凄いんだもん」
ついでにもう1つのガラスボウルに入ったラベンダークッキーも取り出して摘みながらため息が出た。
位置が1マスズレてるだとか花の種類が違うだとか、とにかくうるさいのなんの。
最初は可哀想に思って雅臣の島の花壇や部屋を一緒に直してあげてたんだけど、あまりの口煩さに辟易してつい用があると嘘をついて退出してきちゃった。
ハマるかなって思ってはいたけどあの調子だと雅臣は多分バカになる。
ゲームのやりすぎで夏休みの宿題や勉強が手につかない姿がもう見えるもん。
夕太「今までゲームしたことないって言ってたしなぁ」
3枚目のクッキーをくわえながら、あんなにどハマりしてるのを見ると親が子供にゲームを制限する気持ちがよーく分かる。
それにしてもさっきまでみぃ姉ちゃんの買い物の荷物持ちさせられて、帰ってきて直ぐ雅臣のゲーム手伝って……今日は手伝いする星回りなのかな。
「夕太ー!!ねぇー!!洗濯畳んどいてよー!!!」
やっと自分の時間が取れそうだったのに、にぃなちゃんの大声が家中に響き渡って椅子からズリ落ちそうになった。
夕太「近所迷惑ー!!!」
にぃなちゃんの店は昨日が締め日で浴びるようにお酒を飲んで何とかNO.1の座をキープしたらしいけど、明け方べろべろに酔っ払って帰ってきたんだよね。
何故か俺に貰ったチップをまるごとくれたんだけど覚えてんのかな?
まぁ思い出したところで知らんぷりするんだけどさ。
とりあえず洗濯物を取り込もうと庭に出れば、相変わらず大きい隣のでんちゃんの家が見える。
こっちの家は覚王山の家よりも何倍も広くて今はほとんど稽古場として使ってるんだよな。
……そうだ。
いつか雅臣が瀬戸に遊びに来た時はでんちゃん家を見せてあげよう。
マンションの家具やとび森のこだわり具合から雅臣の興味のあるものがよく分かったんだよね。
でんちゃんの覚王山の家でも部屋を楽しそうに見渡してたし、雅臣はきっと家にまつわる物が大好きなんだと思う。
雅臣は物だけじゃなくて本当にどこもかしこもジロジロ見るから失礼極まりないけど、そのおかげででんちゃんの癇に障りまくって大助かり。
物干し竿にかかってる洗濯物を次々取り入れながら、
夕太「ふふっ」
また雅臣でストレス発散をするでんちゃんを思い出して笑えてきた。
姉ちゃん全員分のブラをピンチから丁寧に取り外すして今度はパンツに手をかける。
しっかし、いくらド田舎だからってさすがに下着泥棒が入ったら大喜びなくらいパンツの量がやばい。
……ていうか、にぃなちゃんのこの下着は何なの?
ほぼ紐というか凧みたいな下着をつまんで眺めるけどこれでどこの何を隠せるのと不思議でしょうがない。
いちねぇは未だに苺柄のデカパンだしにぃなちゃんは紐か総レースのちっさいやつ、みーちゃんはローライズのボクサーでしぃちゃんはシームレスパンツ。
ここは下着屋かと言いたくなるほど多種多様なそれらをカゴに次々とぶち込んでいくと、雅臣がブラとパンツ如きで狼狽えていたことを思い出す。
あの様子だと東京にいた時は何もやってなかったんだろうなぁ……。
雅臣って無自覚ボンボンだから家事全般ほとんどしてこなかったみたいだし…、というか全部電化製品がやってくれるからスイッチ押すだけだったんだろうね。
マンションに初めて遊びに行った時に見た電化製品は全て最新のピッカピカで、あまりの金持ち具合に唖然としちゃった。
あのドラム式の洗濯機なんて洗濯物ポンと突っ込んでボタンピッで終わり、掃除は自動掃除機にお任せで冷蔵庫も外国製の大きなものでモデルハウスみたいな暮らしぶりだった。
テレビの値段なんかもあんま詳しく知らないんだろうけど、あれでゲーム繋いでるのは勿体なさすぎると今度はバスタオルを取り入れた。
夕太「にしても、でんちゃんってばやっぱ目敏いな」
確かにあれはとっとが建築士ってだけじゃとても養えないレベルだもんね。
とっとの実家がよっぽど太いのかそれとも投資かなんかで稼いでんのか知んないけど、雅臣があの生活を世間一般的だと思ってるのはさすがに親として注意した方がいいとは思う。
でんちゃんはあの雅臣の一般的な金銭感覚とズレてる感じもいちいちイラッとくるんだろうな。
夕太「でも雅臣が名古屋に来たのは一応とっとのおかげでもあるよなー」
とっとにほんのちょびっとだけ感謝しないとと思うくらい最近のでんちゃんは少しずつ雅臣に慣れてきて前ほど嫌悪する感じも見せなくなった。
パッと見相性が悪そうな2人だけど俺は何かしらタッグを組んだらもっと仲良くなれるんじゃないかなって密かに思ってる。
ベランダの洗濯物を全部取り込み終えて空を見上げながら、ふとタッグと言う言葉で作詞作曲のことを思い出した。
どーせ2人とも曲なんか作りゃしないんだから俺が纏めてサクッと作っちゃえばいいんじゃないかな。
……作っちゃ、……作っちゃいな?
夕太「つくっちゃいな……」
最高にいい歌詞が閃いた!
俺ってばやっぱ天才かもしれない!!
カゴをその辺に放置して俺は急いで自分専用のピアノ部屋へ走って行った。
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夕太「タン……タタンタ……ジャーン」
ビロードのような音色で美しく多彩な色を持つグランドピアノはパピーが俺用に買ってくれたものだ。
あ、間違えた、もうパピーって言わないんだった。
雅臣がとっとと呼んでたのを聞いて俺もパピーって呼ぶのがなんか猛烈に子供っぽくてやめることにしたんだよね。
夕太「タンタン……ジャジャーンって感じ」
早速椅子に座って思いつくままに音を鳴らすと案外いい感じに曲が出来てくる。
俺がこのタイミングで弾いてでんちゃんと雅臣がここら辺で入ってきたら面白そう、と五線譜に歌詞と曲を書きながら鼻歌を歌う。
俺ってば一応父ちゃんの血継いでたんだなーと今はフランスで暮らす父ちゃんを思い出した。
ひたすら俺に甘い父ちゃんにもいつか雅臣のことを教えてあげたい。
リズムを取りペンを走らせながら音痴な幼馴染にどこを歌わすかを考えるけど、あれででんちゃんは堂々と歌うタイプだからきっと雅臣はつられて失敗するだろうな……。
___そうだ!
いっそラップにしちゃうのはどうかな?それならでんちゃんでもイケそうな気がする。
どんどんイメージが湧いてくるけど俺達1年のテーマは友情だからそれっぽい要素もいるんだよね。
雅臣の聴いてた曲からテーマを引っぱってきたけど、あの時もでんちゃんは最高にいやらしい顔をしていて本当に雅臣のことが気に入らないんだなって思った。
でんちゃんは俺の狙い通り出会った当初からずっと雅臣が目についてずっと癇に障りまくってるけど、最近はオモチャにして遊べるくらいには気を許し始めてるよな。
4月の頃の気取り散らかした雅臣と今の10倍口調の強いでんちゃんを思い出して、また俺は笑ってしまった。
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明日も夕太くん視点!続きます!




