蓮池楓のゲーム日記3
ルームツアーでもしてやるかと花壇の前に造られた館に進めば外観があいつの住んでるマンションそっくりだった。
これを本気で造ったのならさすがに鳥肌もんだわと扉を開けると、
楓「きっっ……」
中に見事に再現されたSSCの部室が現れ危うく本音が出そうになる。
三木先輩に部長を命じられたからか、どえらい調子こいとんな。
いつの間にやらあいつにとってサークルが楽しいものに変わってたんかと手始めに部室と同じ場所に置いてある地球儀を壊しておいた。
SSCに名前だけ貸していた頃は目に見えて嫌悪しとったくせに、すっかり飼い慣らされて平和ボケしてやがる。
………そうだ。
今度夕太くんにもこいつの作った部屋を教えてやろう。
とっと(笑)が建築士なだけあるって笑うはず___。
……………。
…………………。
最悪、無しすぎる。
夕太くんに言われたからとかではなく自分からあの陰キャのことを考えていたことに気がついてしまい大きなため息が出た。
夕太くんに電話するならもっと別のことでかければいいのにこんなことを思いつくなんて俺まで陰キャに侵食されてるみたいで気持ち悪い。
でも悔しいけどあのアホがいると俺と夕太くんが微妙な空気感にならないというか……。
やっぱり2人の間が持つからなのか、あいつがそこに居るのを許してしまう。
それに陰キャも最初の頃に比べれば遥かに態度がマシになってきて、憑き物が落ちたかのように笑う姿にいつの間にか俺も馴染んでしまった。
今でも見る度にイライラすることが多いがあの陰キャの良さを強いて1つだけ言うならば……、
楓「本当にしつこくてめげねぇとこか?」
これじゃ完全にあいつを認めたみたいで腹立つな。
ちょうど目に入ったゲーミングチェアを自分のアイテムボックスに移動させた後、スマホを手にグループチャットを見れば俺が設定した間抜け面のあいつが見えた。
普段の気取り散らかしてる態度を台無しにしたアイコンを見てほくそ笑む。
あいつはつつけば面白いくらい簡単に怒り狂ったり動揺したり百面相の如く顔が変わる。
本当に本当に、アホだわぁ……。
夕太くんも悪ノリして揶揄ったりしてるのにそれを全部許していて、あれも将来ハゲるんじゃねーのとマヌルネコを進めると部室の奥に別の扉を見つけた。
楓「何だこの扉?」
 
開けてみると隠し通路のようになっていて、そこを真っ直ぐ進めば陰キャ野郎の住んでる部屋とそっくり同じ部屋が現れてその精巧な造り具合にゾッとした。
………このゲーム、ほんとプレイヤーの性格が出るな。
夕太くんの1番上の年増ファンシー姉貴もこのゲームが好きでこうやって凝りに凝っていたのを思い出す。
マヌルネコを陰キャの部屋に移動させるとあいつのマンションで俺が座ったカッシーナのソファが同じ形に作って置いてあった。
ゲーム内とは思えないほど精巧な造りでとっと(笑)の血を引きまくってんな。
キッチンに移動すればこれまた全く同じ位置に冷蔵庫が配置されていて、あのアホが俺の持ってったアイスをまだ取ってあると言ってたのを思い出す。
マヌルネコに冷凍庫を開けさせると見事にアイスがパンパンに詰まっていて、どこまで再現してんだと口角が引き攣った。
ほんと底知れぬ陰キャっぷりでこんなん引くを通り越して感心するわ。
まだ奥に2つ扉が見えるのが気になるが1つは部室、1つは自室で……後は何だ?
とりあえず左側の扉開けると現れたのは、
楓「……俺の家じゃん」
突如和室が現れて、そこには掛け軸や花まで飾ってあた。
縁側の外には俺の家と同じ日本庭園まで再現され、マヌルネコを下ろして見れば池には赤い鯉が泳いでいた。
畳の上には机も置いてあって3羽のインコが入った鳥籠が同じように置いてある。
ふと鳥籠の中のインコを眺めて、夕太くんにインコが入れ替わっていることがバレてなくて良かったと胸を撫で下ろす。
夕太くんにはもう辛い思いをさせたくない。
どこかで本当は夕太くんにバレてるんじゃないかと怯えていたけれど、あいつの言う通り全部同じに見えるなら大丈夫だとホッとした。
陰キャもたまには役に立つな……。
それならもう1つの部屋は何だとマヌルネコ移動させれば、こちらはまだ大して手をつけていないのか一見殺風景な普通の部屋に見える。
でも俺にはあいつが何を考えているのか手に取るように分かる。
ここを夕太くんの部屋にしたいんだよな。
床にはネコのぬいぐるみが5匹転がっていて、ラスクやゲームと一緒にグランドピアノまである。
夕太くんの好きなアイテムばかりで埋め尽くされた部屋は途中やりなのかまだ完成していなかった。
マヌルネコを和室に戻して小さくため息をつけば、机の上にあるのは鳥籠だけでなくカレーまで3人分置かれていることに気がついた。
楓「……アホが」
このゲームには性格だけじゃなくてそいつの人生まで現れるんか。
これがあいつの全てを表してるかと思うとあまりの世界の狭さにこれ以上悪態をつく気も失せる。
全てがその人で埋め尽くされる感覚は分かるが、どう見てもあいつの中には俺らしか存在しない。
自分と夕太くんと俺、そしてSSCしかあいつにはなくて、それに付随する場所が1番大切でゲームにまで作ってしまうなんて寂しさは人を狂わすってのはほんと当たってんな。
カッシーナのソファをマヌルネコに押させて和室に移動させながら、こんなにも堂々と自分の大切なものをさらけ出すのはあまりにも愚かだと笑った。
____俺なら、絶対そんなことはしないね。
大切なものは全部全部心の中で誰にも見せずに鍵をかけて閉まっておくんだ。
誰にも明かすことはない、俺だけの大切な場所。
楓「………よく見とんなぁ」
もう一度日本庭園を見ればご丁寧にあの欅の切り株まで作ってあった。
楓「さすがは週刊誌の記者、こんなとこまで再現しやがって……」
俺と夕太くんの間にある垣根を、あいつはいとも簡単にどちら側にも飛び越えて入ってくる。
想像以上にあいつは俺達に影響を与えていて、何かが少しずつ変わり始めているのかもしれない。
元々は俺達の間の緩衝材みたいな役割だったのに、いつの間にかあいつ自身が歯車となって俺と夕太くんの全てがゆっくり動き出している気がする。
俺と夕太くんはあの頃に戻るのか、戻らないのか。
それとも……もっと先に進むのか。
楓「おっと」
クロヒョウ
【や、やめろよ!!だれだおまえ!?】
おーおー、ようやく気がついたか。
陰キャのお出ましだとあいつの慌てっぷりに気が逸れて変に笑えてきてしまう。
夕太くんのことを考えるとつい奥へ奥へと引きずられるような感覚もこいつがいると不思議とマシになる気がしてワザと花壇のバラを引っこ抜く。
クロヒョウ
【はすいけ!おまえはすいけだろ!!】
最高のストレス発散方法を見つけた俺はこれからもこのゲームでイタズラしてやろうとマヌルネコを駆け回らせあいつの花壇を踏み荒らした。
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楓くん視点、いかがでしたか♪
明日は夕太くん視点の小話です!
お姉さんたちも登場するかも…!?お楽しみに!
 




