蓮池楓のゲーム日記2
長いことゲームを放置していたせいか俺の島はとっくに雑草まみれになっていて、館の前はバックリフラワーに覆い尽くされている。
中に入るわけじゃないからまあいいと送られてきたあいつのフレンドコードを打ち込んだ。
直ぐにあいつの島が反映され、俺のキャラクターであるマヌルネコが飛行機に乗って移動を開始する。
パラシュートで飛び降りたマヌルネコがいよいよあの陰キャの島へ到着した。
【ようこそ!アルハンブラ島へ】
楓「気取った名前つけやがって」
案内人が陰キャのつけた島の名前を読み上げるが、鼻で笑ってコントローラーを動かす。
お前にはおっとっ島がお似合いだよ。
それ以外ないだろと手始めに陰キャのボックスに適当に素材とアイテム入れておいた。
これであいつは盛大に勘違いして喜ぶだろう。
おお、プレゼント送ったらマヌルネコのレベルが上がったわ。
俺が以前使用していたキャラクターはマヌルネコじゃなくてキタキツネだったんだけど、今回から夕太くんが取ってきてくれたマスコットと同じものにした。
気取ったあいつにはふてぶてしいあのクロヒョウを渡すなんて……ほんと夕太くんってそういうとこあるよね。
適当にコントローラーを動かして散策してみるが例のクロヒョウはどこにも見当たらず島内はやけに静かだ。
……もしかして、ゲーム付けたまま放置してんのか?
それはそれでちょうどいい。
くまなく全部チェックしてやると散策を続ければ初期設定で建っている館はやり始めたばかりのくせに妙にでかくなっていた。
それに館の周りの花壇は1面綺麗なフラワーアートのようになっていて、どこもかしこもピカピカに整地されている。
楓「何だこれ腹立つな」
思い切り顔を顰めて陰キャの作った庭を一通り眺めると花壇に設置してあるスプリンクラーが目に入った。
課金したやつだろこれ。
あいつもこうやって親金で課金してるくせに未だに俺のブランド物をジロジロ見るのは何なんだと急に腹が立つ。
口を出さなくなっただけまだマシだがプールの時も人の鞄をガン見しやがって、挙句陰キャはバスでも俺のスマホを覗き見してやがった。
陰キャ特有のその目つきと見方は治んねぇのかと一言言ってやろうかと思ったが、言い合いになれば一条先輩の手を煩わせるかもしれないとその場は見逃してやった。
それなのにいざ蓋を開けたらこの有り様。
どこもかしこも親金課金アイテムまみれの島だなんて恐れ入ったわと鼻で笑った。
楓「そんで自分もちゃっかりマルジェナの水着着てるなんてアホがよ。てめぇもハイブラじゃねぇか」
俺の着ている服見ては下品な奴みたいな顔するくせに、自分はケツにしつけ糸みてぇなマルジェナ特有のブランドマーク付けっぱの水着を着やがって一体何だってんだ。
あれがハイブラじゃないと思ってるなんてアホ以外の感想しか出てこんわ。
ムカつくからこのスプリンクラーは貰っておいてやろうとそのまま自分のボックスに移動させた。
楓「それに私服もさぁ」
どんなもんかと思えば全身黒のHARMANIで呆れてモノが言えなかった。
俺が去年の夏に三越のショーウィンドウでいいなと思ったTシャツとジーンズを全身そっくりそのまま着ていてマネキン買いがモロバレ。
あいつが普段何気なく買っているものが本当は俺と同じハイブラだっていつ気づくんだあのアホは。
人のハイブラは嘲笑っておいて自分はウニクロ感覚でマルジェナとHARMANIだなんてどういうお笑いだ?
腹が立って目の前にある趣味の悪い銅像をマヌルネコに蹴飛ばさせると胸がスッとした。
楓「割れた、まぁいいわ」
それにHARMANIはどうせとっと(笑)御用達の店なんだろ?
あいつにとってのハイブラは分かりやすく名を馳せてるものだけで、とっと(笑)の店はただの質が良いものと思ってるなんてバカかよ。
てめぇの親父も大のハイブラ好きじゃねぇか。
マンションの家具もハイブラ、私服もハイブラ、陰キャ特有のイキりたさがよう出とる。
あのアホはそれも知らんと自分も真似して買っとんだろ。
派手でロゴが全面に押し出されてるものは下品みたいなアホさ加減はとっと(笑)譲りですか?
本当にアホだわぁ………。
…………にしてもとっと、息子に甘すぎるだろ。
楓「うーわポルシェだ。これ東京でとっとが乗っとるやつだろ」
あいつが課金して買ったポルシェにマヌルネコに乗せて操縦させると、いきなりカーブして車庫に追突した。
あいつが精巧に作ったであろう車庫はバラバラと音を立てて崩れていくが、そういえば俺はマリゴーとかそういう系のゲームが苦手だったことを思い出す。
……で?何だっけ?
あーそうそう、とっと(笑)の話だ。
息子にポンと生活費30万出してカードは使い放題させてるなんてやっぱあたおかじゃね?
息子がハイブラの服買ってもゲーム課金してもなんも言わねぇんだろ?
クレカの明細見てるくせに何を買っても放置してるってことは、息子に対して罪悪感に苛まれ始めたってとこか?
楓「おっと」
今度はポルシェが川に突っ込んでしまい、慌ててマヌルネコを飛び降ろすとそのまま車が沈んでいくのを眺める。
まぁでも一応大金かけて大切に育ててきた一人息子が自分の性欲きっかけで名古屋で一人暮らしだなんて、冷静に考えたらどれ程異常な行為かそろそろ現実見えてきたんだろ。
やっぱ果てしなくアホだわぁ………。
嫁が死んで直ぐに愛人の存在を打ち明けるなんて、とっと(笑)も陰キャだから浮かれてハシャいだとしか考えられん。
陰キャ特有の恋という名に隠した性欲が大爆発してとち狂ったんだよな?
まぁ、どちらにせよそれなら息子が月額最高50は使っても文句言えんわな。
楓「お、ラッキー」
そのままマヌルネコを動かすと壊れた車庫の下から埋めてあった宝箱を見つけ、開けたらコインが50枚入っていた。
これも俺が貰っておいてやろう。
楓「てか陰キャは俺に感謝するべきだろ」
とっと(笑)に罪悪感なく開き直って課金できるようになった誰のおかげだと思ってんだ。
そもそもやっぱり何度考えてもあいつがハイブラをハイブラだと思ってないことが1番腹が立つ。
とっと(笑)も恋に浮かれとらんとしっかり息子に教育しとけ、お前が着てるHARMANIもマルジェナも超一流のハイブラだってな!!
楓「大体さぁ、〝もし時間があれば話したいことがある〟ってなんだよ。俺にはねぇわ」
さっきもチャットに詳しく要件も書かずに俺から連絡してくるのを待つだなんてほんと図々しいなあの陰キャは。
まずどうしても俺に話したいことがあるなら結論から書けよまどろっこしい。
結局我慢しきれなくて自ら電話かけてきたと思ったらとび森のお誘いでしたって……本当にあの陰キャ最近調子こいとんな。
プールの時も思ったが、何でも都合良く捉えるめでてぇ頭はどう育てられたら爆誕すんだ?
一通り心で愚痴を吐きながらコントロールボタンを連打し、今度は花壇に咲いていた花をむしり取る。
庭にどこもかしこもバラばっか植えて病気かよと花壇から花を引っこ抜くと恐ろしくスッキリした。
ついでに俺の島で育成失敗したバケモンみたいな花と植木を食いつくす虫も置いといてやろう。
楓「陰キャが調子こくからこーなるんだわ」
一面荒らしきったところで更に胸がスっとした。
腕を上げるマヌルネコがレベルアップしたところで、次はあいつご自慢のルームツアーでもしてやるか。
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明日で楓くん視点の小話はラストです!