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143.【成り行きとはいえ】



辺りは次第に暗くなってきて、夜の闇にライトアップされたステージがここからだと異様に明るく見える。


カラフルジュエリストの曲も終盤を迎えた頃、柊が両手いっぱいに食べ物の入った袋を抱えて俺達の所まで1人で戻ってきたが蓮池はどうしたのだろうか。



夕太「お待たせ!!はいこれ、梅ちゃん先輩はアイスクレープでー、蘭世先輩はアメリカンドッグと……」


蘭世「馬鹿夕太こんな食えな___」


夕太「大丈夫こっちのはでんちゃんのだから!雅臣はトルネードポテトな。原宿とか行ったことないって言ってたし」


蘭世「え゛」



柊は袋から買ってきた物を取り出し1人ずつ手渡しするが、頼むから一々行ったことないとか強調して言わないで欲しい。


大須で柊から信じられない生き物を見るような目を向けられたが、梓蘭世からも同じ目で見られて何となくいたたまれない。


ただ以前と違って、それを馬鹿にされたとは思わなくなった。


自分がいかにつまらない人生を歩んでいたかを浮き彫りにされただけ、そう思えるくらい今日は充実していた。



夕太「あとでんちゃんから伝言なんだけど、ポテトが雅臣にはぴったりだって」



…………。



クソ、あいつは本当に嫌味を言う天才か。


チラチラと俺を上目遣いで見る柊は精一杯言葉を選んで伝言してくれたのだろうけど、俺にはそれを言った時の蓮池が簡単に想像がつく。


どうせあの野郎は、



『陰キャは原宿のトルネードポテトに憧れるタイプだからお似合いだよ。夕太くんこれ持ってってやんな』



こんな感じで俺を馬鹿にして笑ったんだろうと、脳裏にあいつの声がそっくりそのまま再生されて腹が立つ。


そういやさっき柊も『それいいね』だとか相槌を打っていたよな?


2人のやり取りを思い出して柊を見ればカナリアみたいなふざけた顔をしているのでゲンコツを食らわすフリをする。


柊は笑いながらごめんごめんと慌ててアイスクレープにかぶりつく一条先輩の陰に隠れた。



梅生「蓮池は?」


夕太「カラフルジュエリストに釘付け」



蓮池の居所を尋ねる一条先輩に、柊はもう1つの袋を手にしたままため息をつく。



夕太「でんちゃんってば派手なの好きだから……花火始まる前には戻る!戻れなかったら各々花火見るってことで!また連絡する!」



連れ戻しに行くと言うが早いか、柊は再び特設ステージ前へと人混みの間をぬって走っていた。


それにしても蓮池がアイドルに興味があるとは知らなかった。


実はミーハーだったとは意外だが、礼儀正しい蓮池のことだから三木先輩に招待された以上はきちんと見てるのかもしれない。



蘭世「でんアイドルとか好きなのかよ」


梅生「物珍しいんじゃない?こう…バンド見るみたいな感覚?」



一瞬でクレープを食べ終えた一条先輩は欠伸をしながら梓蘭世に答えると少しだけと言って目を閉じた。


プールで俺達のお守りをして更に遊園地で遊んだ上に糖分を入れ、急に疲労に襲われたのだろう。


重力に逆らえずグラつく一条先輩の頭を梓蘭世は自分の肩に凭れさせるとすぐにすーすーと寝息を立て始めた。



蘭世「……え梅ちゃん?まじ?……落ちたわ」



マジかと梓蘭世がその頬をつつくがいくらつついてもむにゃむにゃ唇を動かすだけで起きる気配がない。


あと少しで花火が始まるというのに一条先輩は体力の限界を迎えたらしい。



雅臣「起こし…ます?」


蘭世「花火の音で起きんじゃね?今日めっちゃ張り切ってたからしゃーないわ」



梓蘭世は肩を預ける一条先輩をそのままにして寝かしてやれと微笑んだ。


毎度のことながら謎に彼氏面してあなたは一体一条先輩の何なんですかと言いたくなるのを何とか堪える。



蘭世「こーいうの慣れてないのにバスの場所調べたりどこに何があるか調べたり…俺に聞いてきたり?」



自分を頼りにしたことが嬉しいのかドヤ顔で語る梓蘭世は放っておいて、一条先輩が俺達と遊ぶことを本当に楽しみにしていてくれたのを知り嬉しくなる。


それにこの話を聞く限りやっぱり2人はとても仲が良いんじゃないかと言いたくなった。



雅臣「先輩達は何だかんだ言ってしっかり友達ですよ」


蘭世「……だといいけど?てか夕太たちこんな人多くて戻って来れんのかね」



カラフルジュエリストの出番はとっくに終わって今はステージから実力派シンガーソングライターのバラードが聞こえてくる。


先程まで入場待機していた人達が一気に芝生広場に集まり始めて2人がここに戻ってくるのは難しそうだ。


特に目印となるものもなく戻って来る気配のない2人に連絡だけしておこうとスマホを開くと、俺より先に梓蘭世が今どこにいるのかを確認していた。



蘭世「ま、最悪花火はどっからでも見れるしいいか」



そう言って梓蘭世は特設ステージの歌手に目を向けるが、じっと見ている割にバラードに聞き入ってるようには思えなかった。



雅臣「……この歌手より梓先輩の方が上手いと思います」


蘭世「梅ちゃんもお前もマジで買い被りすぎだわ」



もしかして芸能界にいた頃のことを思い出しているのだろうか。


プールで本人から芸能界での葛藤を聞いたのもあり励ますように感想を伝えるが、梓蘭世はコーラを飲みながら苦笑するだけだった。



雅臣「梓先輩の歌も聞きたいです」


蘭世「また部室でな?」



ストレートに本音を言えば濁されてしまう。


それでも合唱部では歌いたがらなかった人がこうやって俺達にだけ譲歩してくれることに凄まじい優越感を感じる。


成長したこの人の声を聞ける権利は物凄く特別なギフトのようで、まるで俺達にだけ心を許してくれてるみたいで最高に嬉しかった。



蘭世「何かやっぱSSCって気楽だわ。最初梅ちゃんが入るとか言うからマジかだったけど」


雅臣「成り行きすぎましたもんね」



その言葉の通り柊の思いつきで始まったSSCは何だかんだで未だに続いている。


あんなに嫌だったサークルも今は皆と楽しくやれていて、今に至ってはあの梓蘭世と一緒に花火が上がるのを静かに待っている。


ボッチだった俺が友達や先輩と夏休みにプールに遊びに来ていて、しかも人の悩みまで聞くようになるなんて……。


自分の凄まじい成長ぶりに俺もマジかと何だか笑えてきた。



梅生「ん……」


雅臣「先輩?」



声がして一条先輩が起きたのかと覗き込むと少し体勢をずらしただけだった。


全てが成り行き任せとはいえ先輩達が合唱部を辞めて居なければここにいることもなかっただろう。



………。


…………………。



やっぱり何故この人達は合唱部を辞めたのだろうか。


幾度となく浮かんだこの疑問を直接聞くのは駄目か……いや聞くなら今なのか?


そもそも聞いていいのだろうかとぐるぐると同じ疑問が頭の中で回る。


最近になってようやく人付き合いに慣れてきたとはいえ、相手とのちょうど良い距離感が掴めない俺は何処まで突っ込んで聞いていいのかが分からない。


しかも今日は梓蘭世に色んなことを聞きすぎている自覚もある。


でも学校でこんなに先輩と話す機会なんてないし、眉間に皺を寄せながらどうしようかと心臓が鼓動を早めた。



読んでいただきありがとうございます。

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