133.【何故ここに!?】
夕太「まじ!?蘭世先輩なんで!?」
蘭世「プールの話したら採寸だけ別の日にしてくれたんよ、オーナーが後輩も友達も大事にしろってさ」
意表をつかれて驚く俺達の前で得意げな顔をしてここにいる理由を話す梓蘭世を柊が腕を引いてパラソルの中へ迎え入れる。
梓蘭世はレジャーシートの上のたくさんの食べ物見た途端、
蘭世「最高」
と口笛を鳴らし一条先輩の持っていたドリンクをさっと奪ってそのまま飲み始めた。
梅生「ら、蘭世…よくここが分かったね」
蘭世「夕太がストーリー上げてたからこの辺だろうなーって」
余裕で目星がついたと説明する梓蘭世はそのまま一条先輩の横に腰を下ろし、勝手にフランクフルトに手を伸ばしてかぶりつく。
…………というか柊。
あの梓蘭世のインスマを知ってるなんて恐るべきコミュ力、いやそもそも梓蘭世がインスマやってるなんて……。
正直羨ましい気持ちでいっぱいだが、それにしても座ってるだけで絵になるのはさすがだと改めて梓蘭世を見つめる。
プールサイドに突如現れた美貌を拝もうと痛いくらい周りから視線を感じるが、蓮池が機転を利かして自分のストローハットを梓蘭世の頭に被せた。
俺もその身を隠す様にわざと正面に座ると、
蘭世「とっと日除けにちょうどいいわ、そこ座ってろ」
俺だけパラソルからはみ出てしまい背中がかなり暑いがこれ以上目立たせるのも厄介で、日除けにでも何にでもなりますよと座り込んだ。
楓「フランクフルトもカレーも俺のなんですけど」
蘭世「うるせぇな俺に自分で買ってこいってのかよ」
さすがに横暴だろとも思うが売店の行列にこの人1人を並ばせれば結果は見えていて、蓮池の残りを梓蘭世が摘むのがいいだろう。
それを察したのか蓮池はため息をつきつつ梓蘭世に自分のフードを手渡した。
夕太「蘭世先輩がプール来たのミルキー先輩知ってんの?」
蘭世「さぁ?でもチケットくれたし行っていいってことだろ?」
活動休止中とはいえ自社タレントに違反があるかないかは全て三木先輩が管理してるだろうし、プールのチケットを渡したということは楽しんでこいという意味なのだろう。
でもやっぱり、ここに3年の先輩方もいて欲しかったな。
それぞれの顔を眺めながら頼もしい3年生2人を思い出してしまう。
合宿では絶対全員でたくさん思い出を作ろうと、まずはスマホでタピオカを記念に撮った。
ふと一条先輩を見れば膝を抱え込んで座りながら気まずそうに少しずつ体勢を崩して梓蘭世との間を開けようとしていた。
何をしているんだと眉根を寄せれば、
蘭世「梅ちゃんプールどこ入った……って!?え!?あっか!!」
いつの間にか顔まで真っ赤の一条先輩に気づいた梓蘭世は急に落ち着きをなくして親友の腕を掴んだ。
梓蘭世の華々しい登場ですっかり忘れていたが、元々は日焼けの話をしていたんだ。
先程より体の赤みは少し落ち着いているが今は頬が真っ赤で焦ってしまう。
蘭世「俺日焼け止め持ってきたから塗ってやるよ!ほら背中から…」
梅生「い、いや!!大丈夫!!」
蘭世「大丈夫なわけあるかよ!!」
梓蘭世が一条先輩の腕を強く引くも、必死の抵抗を見せて頑なに動かない。
しばらく押し問答する2人を眺めていると一条先輩は立ち上がって梓蘭世の腕を振り払い柊と蓮池の手を掴んだ。
梅生「お、俺本当は日焼けしたいんだよ!!黒くなりたいの!!柊、蓮池スライダー乗るぞ!」
そう言うと2人の腕を無理矢理引っぱって立たせて歩いていってしまう。
夕太「梅ちゃん先輩俺まだ食べ__」
楓「諦めな……おい陰キャ!!」
蓮池が大声で俺を呼ぶと同時に、首にぶら下げた自分の空の防水ケースを投げて寄越す。
楓「スライダー終わったら連絡する!!それ貸してやるからワンコールで出ろよ!!」
2人は一条先輩に手を引かれてスライダーの方へ向かってしまった。
蓮池と柊のスマホは先輩の大きな防水ケースに一緒に入れてもらうのだろう。
もし俺が梓蘭世とプールに行くなら必要になると見越して貸してくれたその視野の広さだけは見習いたいと受け取り首にかけると、
蘭世「梅ちゃんなんか焼いたって赤くなるだけなのにアホだな、あれ絶対痛くなるのに」
しょーがねーなと梓蘭世がぼやいた。
きっと一条先輩は色白すぎて男らしい焼けた肌に憧れているのだろうけど、あんなに元が白いと焼いたところで黒くなるわけもないと俺も頷いた。
そのまま残ったフードを再び物色し始めた梓蘭世だが、よく見たら蓮池も柊もほとんど食べ切っていて程よい量になっている。
あの量をほとんど1人が食べるとは知らない店員が最初から箸やスプーンを多めに付けてくれたので、さりげなく新しい箸を渡すと素直に受け取ってくれた。
蘭世「……」
雅臣「……」
口で割り箸を割る梓蘭世と2人の空間は先程までの騒がしさが嘘のように静かだ。
以前の俺ならこの静寂を気まずく感じただろうけど、今日一条先輩と話すことが出来たおかげでもうそれも苦ではない。
互いに無言でも相手が気まずいとは限らないと学んだ俺は何ならこの静かさを楽しむ余裕まであるぞと初タピオカを飲んだ。
タピオカはゼリーを固くした食感でもちもちとしていてとても甘い。
果汁100%ジュースかコーヒーばかりだった俺はタピオカとミルクティーの相性の良さにずっと人気で好まれる理由を身をもって知った。
__が、タピオカを楽しめたのは一瞬のことだった。
蘭世「おい、何か気遣って話せよ」
雅臣 「す、すみません」
1年生の性でつい条件反射で頭を下げて謝ってしまったが果たしてこれは俺が悪いのか?
俺に来年後輩ができたら絶対にこういうことはしない、桂樹先輩や一条先輩のような優しい人の心を持った人に___。
蘭世「はよ話せや」
雅臣「は、はい……」
胡座をかいて素っ気ない声を出す梓蘭世に陽キャは理想を夢見る暇も与えてくれやしないのかと久しぶりに肝が冷える。
パラソルの下に2人きりにされて非常に居心地が悪く、先程までの余裕はどこへやら……。
最近ようやくこの人を前に怯えることはなくなったが、人の本質は変わらないと我儘王子を眺めて何となく居住まいを正す。
梓蘭世は俺が食べようとしていた残りの焼きそばを取ってしまいそのままズルズル啜っているが、この人こそ自分と共通の話題なんて1つもない。
当たり障りの無い会話で切り抜けるしかないと晴れた青空を見た。
雅臣「……あの、晴れて良かったですね」
蘭世「天気の話はセンスなさすぎ。もっとおもろい話にしろ」
雅臣「じゃあ何を話せばいいんですか!」
せっかく気を遣ったのに一刀両断され腹が立ってつい言い返してしまったが、何も響かないのか蓮池のように鼻で笑われた。
蘭世「あーあ、梅ちゃんならそんなこと言わねぇのに」
雅臣「あんた一条先輩となら天気の話でも何でもいいんでしょう……俺だって一条先輩と話したいです」
蘭世「陰キャのくせに随分強気だな?大体先輩が面白い話しろって言ったらするもんなんだよ」
あまりにも横暴すぎる……。
この人のたまに出る体育会系のノリは芸能界特有のものだと思うが、柊や蓮池はこれをいつも何気なく躱して会話に繋げていて自分にはまだまだ遠い世界だと項垂れた。
苛立ち反論しても全く意味がなく、蓮池同様に俺がこの人に口で適う訳もないと段々と諦めの境地に入ってきた。
雅臣「面白い話って言うなら先輩がお先にどうぞ」
蘭世「じゃあとっと、てめぇ何しにわざわざ名古屋なんかに来たん?」
何故、何故今それを聞く!?
人の古傷を抉ることを平気で言いやがって!
我ながら上手く躱したつもりだったのに寄りにもよってそれが面白い話なのかと無理やり上げた口角が引き攣ってしまう。
気を落ち着かせるために飲んだタピオカが何個も通過して噎せそうになるが、グッと飲み込み応戦してやると気合を入れた。
雅臣「あんたあの場にいたでしょう!何で今更聞くんですか……というかあれを面白いと思ってたんですか!?」
蘭世「キャンキャンうるせぇな……あんな話皆真剣に聞いとらんて」
あ、あんな話って………。
確かにあんな話ではあるが人の悩みをそうやって簡単に片付けないで欲しい。
逆にあの時俺の話を聞いてくれた蓮池こそが本当に良い奴なんだと確信に変わった。
梓蘭世はもう腹が満たされたのか膝を立てて座る体勢に変えるとこちらを見ることなくスマホを弄り始めた。
蘭世「梅ちゃん落ち着かせてたし、その後の噂も尾ひれ付きすぎて大喜利みたいで寒かったから飽きたし……でも何もない名古屋にわざわざ来たのは気になるし?」
………。
……………。
韓ドラと称した優しい一条先輩が心底偉大に思えてきた。
この人相手に神経を張り巡らせるなんて無意味だ。
きっと蓮池と同じで俺が何を言ったところで態度を改めることもない。
それなら前から止めて欲しかったことをこの際だからハッキリ言ってしまおうと決意した。
雅臣「あの、それならとっとも大喜利の派生なんでとっと呼びやめてくださいよ」
蘭世「語呂いいから無理。それにぴったりだし却下。そういやとっとお前吃らんくなったな」
再び衝撃な事を言われてひっくり返りそうになり目を見開いた。
雅臣「突然何ですか!俺吃ってなんか__」
蘭世「あっあっ、とか、おっ、おっ、俺は!とか言ってたじゃん」
あれはウケたと軽く笑う梓蘭世に急に頬が熱くなる。
確かに吃ってたかもしれないが、わざわざそんな事を言う必要があるのかとジト目で見ながら呼吸を整えた。
雅臣「あれは話す内容とか考えてて……ていうか先輩、芸能界戻る前に1度会話の仕方を学び直した方がいいですよ?本貸しましょうか?」
蘭世「会話なんか本で学んでも意味ねぇよ、著者陰キャだろそれ」
こ、これだから陽キャは……!!
そう言いたいところを拳を握りしめて耐え凌ぐ。
そんな事を言おうものなら俺がまるで本物の陰キャみたいで、会話するだけで蓮池と話す時とは違う緊張感が走る。
それに俺なりの精一杯の嫌味が1ミリも通用しない。
サラッと流しつつ本だけにフォーカスを当てしっかりカウンターを効かせる嫌味は蓮池のように悪意全開ではないが高度にギリギリのラインを攻めてくる。
梓蘭世自身は思ったことを淡々と口にしているだけなのだろうけど、言われてる身としてはかなりきつかった。
雅臣「俺はめっちゃ悩んでたんですよ……ぼっちで陰キャでコミュ障で……」
呟くようにそう言うと、梓蘭世は数回瞬きした後吹き出して手を叩いて大笑いし始めた。
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