132.【プールサイドでのランチ】
と、とんでもない量じゃないか!
あの馬鹿これを持っていく身にもなってみろ!!
先輩には俺と2人で注文した方をお願いして蓮池から鬼のようなオーダーを受けたトレーをウェイターの如く持ち上げる。
梅生「大丈夫?」
雅臣「いけます……というか一条先輩払って貰ってすみません」
梅生「気にしなくていいって、でも蓮池には半額返して貰おうかなぁ?」
ウソだよと屈託なく笑う一条先輩だが金額が金額なので非常に申し訳ない気持ちになる。
一条先輩はなんとお小遣いを貰ったからと俺達の分まで全部奢ってくれたのだ。
最初俺が注文する際店員の女の子はあまりの量にすごく嫌そうな顔をしていたけれど、一条先輩が丁寧にお礼を言った途端手のひらを返すように笑顔を見せた。
俺の注文の仕方が悪かったのだろうかと柊のくれたふてぶてしいクロヒョウを思い出し口角を上げてみるが、そんな心優しい先輩に大量のフードを持たせるわけにはいかない。
出来上がったものから順に俺のトレーに乗せたが、何故か注文していないドリンクが置かれていた。
雅臣「あ、これ違___」
梅生「藤城、それは俺から」
雅臣「え!?」
よく見るとそのドリンクの中には黒いビー玉のようなものがたくさん入っていて………。
雅臣「タピオカ……」
梅生「2人には内緒な?たくさん話してくれたから」
楽しい時間をありがとうと言われて俺は舞い上がってしまう。
実はタピオカは一度飲んでみたいと憧れていたもので、まさかのここで飲める喜びに興奮が隠せない。
鬼まんじゅうをくれた時のようにさり気ない気遣いを見せる一条先輩に羨望の眼差しを向けながら、俺は来年この人のようになれるだろうかと考える。
俺も来年、後輩ができたらこうやってさりげなく……。
なりたい自分や目標がどんどん増えて、家に帰ったら手帳に纏めようとまずは目の前の大量の食べ物を気合を入れて運んだ。
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夕太「梅ちゃんせんぱーい!!!雅臣ー!!!」
トレーを両手に戻ると柊がパラソルから出て大きく飛び跳ね手を振っていた。
夕太「買ってきてくれてありがと!見てよ、俺のスマホ生き返った!!」
ドヤ顔で見せつけてくる柊のスマホは無事電源が入ったようで、はいチーズとトレーを持つ俺らの写真を証明代わりに撮ってくれた。
楓「すみません重かったですよね……全部この陰キャに持たせて良かったのに」
雅臣「俺の両手見ろよ!」
蓮池はさっと一条先輩のトレーを受け取るがその気遣いができるのに何故、何故俺には……!!
つい恨みがましい目で見てしまうが今更そんなことで怒っても仕方がない、まずは落とさず持ってきた自分を自分で褒めよう。
梅生「ほんと蓮池はよく食べるよな」
楓「いくらでした?レシート…」
梅生「いいよ、今日お小遣い貰ってきてるから全部俺の奢り」
夕太「えっまじ!?じゃあ後から食べるかき氷とかアイス代は俺が出します!姉ちゃんに軍資金貰ってきてるから!」
3人の会話を聞きながらパラソルの下のシートの上に全部トレーを置くとようやく腕が解放されて血が巡る感覚がする。
しかし目敏い蓮池が一条先輩が俺の為に買ってくれたタピオカを直ぐに取ろうとしたので思わずその手を叩いてしまった。
雅臣「これは俺のだ」
楓「はぁ?タピオカも飲んだことない陰キャはこれだから……」
雅臣「何とでも言え、これだけは絶対に駄目だ」
語気が荒く意志を貫く俺が余程珍しかったのか蓮池は舌打ちして手を引いた。
その姿を先輩と柊は笑って見ていたが、早く食べようよと俺達に箸を回してくれる。
夕太「いただきまーす!!」
梅生「いただきます」
手を合わせる2人を眺めながら俺もいただくことにするが、プールサイドで何かを食べるだなんて初めてでドキドキしてしまう。
普通の焼きそばやフランクフルトなのに物凄く魅力的に見えるのはプールマジックか?
早速頼んだ焼きそばを1口食べると濃い味付けが疲れた体に染みて異常に美味く感じるが、俺の横に座る蓮池はとても味わって食べてるようには思えない。
楓「先輩美味しいです。買ってくれてありがとうございます」
梅生「俺蓮池が食べてるとこ見るの好きだしいいよ。ほらもっと食べな?」
泳ぎ疲れて朝の分を消化したのか蓮池はたった3口で焼きそばを食べ終えて次から次へとフードを口に運ぶが本当に情緒がないな。
せっかく先輩が買ってくださったんだから大事に食え……と見つめていると思い切り睨まれそっと目を逸らし空を見上げる。
めちゃくちゃ晴れたせいもあってプールは大盛況でどの人達も帰る様子がなくとても賑やかだ。
ふと俺達の隣のパラソルの下で眠たくてグズる子供が騒いてるのに気づく。
その子をあやす家族連れを見て、俺にはあんな経験が無かったからこそ今のこの瞬間がより大切に思えた。
夕太「カレーうま!そうだストーリー載せよ!」
昨夜もカレーだったというのに柊はプールで食べるカレーは全くもって別物だと自論を展開し、口にいっぱい詰め込みながらスマホを俺らに向ける。
それぞれ食べ物持ってと指示があり、俺もフランクフルトを持てばはいチーズとまた写真を撮ってくれた。
夕太「いい感じ、夏って感じ!」
梅生「柊インスマやってるんだ。アカウント教えてよ」
楓「先輩もインスマやってるんですか?」
盛り上がる3人に俺は気づかれないようにそっと目を逸らす。
全員が今流行りのインスマグラムをやってるなんて、1人やっていない俺は気まずくて仕方がない。
いたたまれない気持ちがバレないように黙々とご飯を食べていると、視線を感じて隣りを見れば蓮池がいやらしく左口角を上げてニヤニヤとこちらを見てる。
楓「さすが___」
雅臣「陰キャはインスマもやってないのか、だろ?今まで載せるものがなかったんだから仕方ないだろ」
お前の言うことは手に取るように分かるとばかりに今回は先に言ってやると、柊は雅臣1本!と旗を上げるフリをして笑った。
梅生「俺もそんなに載せてないけど、色んな写真見れて楽しいよ?藤城も始めてみたら?」
楓「鍵垢作って監視しても無駄だからな。どうせ気取ったユーザーネームですぐ分かる、即ブロしてやる」
心優しい先輩の一言でやってみようかと思う気持ちが蓮池の言葉で秒で台無しにされた。
蓮池の話す言葉は相変わらず理解不能だが、俺がインスマを始めたところでフォローする人を考えると何となく遠い目になってしまう。
多分柊と一条先輩と…桂樹先輩くらいしかフォローを返してくれないだろうし、始めたら始めたでやはり蓮池の格好の餌食になる未来がもう想像がつく。
一条先輩に後で入れてみますねと一礼して検討することにした。
夕太「……にしてもミルキー先輩ってさぁ」
柊がため息をつきながらじーっと大きな目で1点を集中して見つめるので俺らも自然とその方向を向いてしまう。
……が、あからさまに目の前を歩くビキニの2人組の女性をガン見しているのでゴンと軽く小突いた。
楓「何、夕太くんあのえぐいビキニがいいの?」
夕太「いや俺は下スカートのやつがいいな。プール入ると捲れる感じが……いって!!雅臣いてぇよ!!」
あまりに下世話な話に俺は再度ゲンコツを食らわせたが、うるさいせいか女性達がこちらを見ている。
楓「陰キャてめぇもさっきからチラチラ見てんだろ、自分だけ棚に上げて偉そうにきめぇな」
雅臣「見てねぇよ!!」
梅生「いいんじゃない?綺麗な人多いし」
さり気なく手を振る一条先輩の一言に満足した2人組は、「高校生はやばい」と意味深な言葉を残して去っていった。
明らかに一条先輩に対する秋波を感じて意外と1番モテるのはこういう人なのかもしれないと眺める。
夕太「ミルキー先輩絶対男兄弟だろ…スレンダー巨乳はいなかったって教えてやろう」
しばらくキョロキョロと三木先輩の好みのタイプを勝手に探していた柊はあれも違うこれも違うと駄目出しばかりするので、
雅臣「そうか?そんなことも…」
夕太「なー雅臣、あの4人どれが偽乳だと思う?」
そこにいるじゃないかと目の前を通り過ぎる女性を見れば柊の爆弾発言に飲んでいたタピオカを吹き出しそうになる。
〝偽乳〟のワードに動揺する俺を蓮池が馬鹿にしたように笑っているが、多分今俺は顔が真っ赤になってると思う。
梅生「どれが偽物だなんて分かる?俺にはどれも本物に見えるけど……」
夕太「左から2人目が偽物だね。本物は谷間がアルファベットのIみたいになるから」
本当にその見分け方は正しいのかとつい左から2番目の女性を見てしまう。
慌てて目を逸らすがどう見ても本物にしか見えないぞと頭の中が疑問符でいっぱいだ。
しかし姉の多い柊の言葉は何故か説得力があり信憑性が高い気がしてしまった。
楓「それほんとかよ」
夕太「ほんとだって!にぃなちゃんが言ってたもん…って、え!?う、梅ちゃん先輩!?」
蓮池に反論しようとした柊が突然大声を上げて一条先輩を指差した。
ん?とドリンクを飲みながら首を傾げる先輩を見て俺もギョッとしてしまう。
雅臣「ま、真っ赤ですよ!?」
楓「日焼け止め塗らなかったんですか?」
普段透き通るくらい白い一条先輩の背中が真っ赤で明らかに熱を持ってるように見える。
酷い焼け具合にさすがの蓮池とて目を見開き自分の持つ氷の入ったドリンクを先輩の肌に当てた。
梅生「一応塗ったんだけど、そんなに赤い?」
夕太「焼けやすいんだよ!!俺が日焼け止め塗り直してあげる」
梅生「いや、この際焼いちゃおうかなって」
驚く俺達とは違い一条先輩はあまり気にしていない様子で首を後ろに回して確認しようとしているが、これは帰ってから痛みそうだぞ……。
俺は焼けても割とそのまま黒くなるだけだが、初めてこんなに赤くなる人を見てさすがに心配になり売店に氷を貰えないか聞こうと立ち上がった。
楓「羨ましいですよ焼けないの」
雅臣「そんなこと言ってる場合かよ。先輩、俺氷貰ってくるんで少し待っ……」
___何だこの周囲から聞こえるざわめきは?
ふと後ろを振り向くと辺り一帯の女性が色めき立ち興奮した様子を隠しきれない。
正面にいた女子達も立ち止まり目配せし合っていて、何かあるのかと視線を追えば何故かある1点からモーセの如く海が割れるように人が退いていくのが分かる。
人集りの中心でランウェイを闊歩するショーモデルのように歩く人物には見覚えがあった。
梅生「……え」
夕太「うわ」
楓「うーわ」
雅臣「あ、あ……」
相変わらずの脅威の等身と華やかなルックスでプールサイドにいる人達全ての注目をかっさらってこちらに向かって来たのは、
雅臣「梓蘭世………」
今日ここにはいるはずのない梓蘭世だった。
パステルピンクのスイムショーツにCHANELAのブランドロゴがプリントされた同色の揃いのラッシュパーカーを羽織る姿は明らかに一般人では出せないオーラを纏っている。
夏の間に伸びた銀髪を緩くマンバンにして颯爽と登場した梓蘭世は誰よりも目立っていた。
蘭世「よぉ、見つけた」
呆気に取られる俺達を見て梓蘭世はサングラスのフレームを右手で上げるとイタズラが成功した子供のように笑ってみせた。
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