124.【プールへレッツゴー!!】
「起きろー!!!起きろってば!!!」
耳元で聞こえる大声で目を覚ますと自分の家とは違う和室で天井の格子が見えた。
夕太「雅臣ー!!おはよー!!」
そうだ、昨日は蓮池の家に泊まったんだ……と寝ぼけ眼で大声の主である柊をぼんやり見つめる。
あれから花火をやると張り切っていた柊は疲れていたのか布団に転がった途端に眠ってしまった。
明日はプールということもあって蓮池がそのまま寝かせておこうとタオルケットを掛けたんだっけ……。
夕太「ほらプール行くんだろ!!朝だよ、起きろよ!!起きろってー!!」
起きたばかりで思考が上手くまとまらないが、俺の上掛け布団を引っぺがす柊を見てうっかりアラームをかけ忘れていたことに気づく。
雅臣「ごめん…起こしに来てくれたのか」
夕太「そう!起きた?」
柊はヤンキー座りで俺をのぞき込むが、スマホで時間を確認すればもう7時30分を過ぎていた。
慌てて体を起こすと、
夕太「雅臣は隣の部屋のでんちゃん起こしといてくんない?俺朝ご飯の準備するから」
雅臣「あ、あぁ分かった」
頼んだぞ、と柊は忙しく足音を立ててキッチンの方へ行ってしまった。
思わず引き受けてしまったがこの騒がしさでも隣の部屋で起きる気配がしない蓮池にどう声をかければいいのか。
立ち上がりながら、昨夜ジャンケンで勝った蓮池の後に風呂に入ろうとすると何故か湯が抜かれているという嫌がらせを受けたことを思い出す。
結局俺は簡単にシャワーで済ませて風呂を磨いておいたのだが、その間に蓮池がちゃっかり俺の布団だけ隣の部屋に敷いたので非常に不愉快な思いをして眠りについたのだった。
頼まれた以上は仕方がないとそっと襖を開けると、畳に敷かれた敷布団の上に寝息を立てて静かに眠る蓮池がいた。
雅臣「……蓮池」
普段行儀が悪い癖に眠る時は仰向けで真っ直ぐなのかと肩に手を当て何回か揺さぶるが、起きる様子が全然しない。
俺が寝させて貰った部屋もこの部屋も客間なのかすっきりとしていて、床の間にかかる掛け軸と高価な花瓶が飾ってあるだけだった。
明かりを取り込めば目を覚ますかと障子を上にあげても蓮池は身動き1つしない。
仕方なく今度は強く揺すってみると俺の手が痛いくらいに跳ね除けられた。
………こ、この野郎、無意識とはいえムカつくな。
本当は起きてるんじゃないのか?と苛立ちながら睨むが、反対方向に寝返りを打った蓮池はまだすやすやと寝息を立てたままだ。
当たった蓮池の手があまりにもざらついていて一瞬クリームでも塗ればいいのにと思うが、そんなこと考えている場合ではない。
俺も準備しないと間に合わないし柊だけに朝飯の準備をさせるわけにもいかないよなと、
雅臣「蓮池!!蓮池、起きろって!!」
先程より強く揺さぶっていい加減にしろと声をかければ、また寝返りしたと見せかけて思い切り蹴とばされた。
雅臣「いっ…てぇな!!」
体勢を崩して畳に倒れ込んだ俺は思わず声を上げるが、いつもの倍目つきの悪い蓮池に睨まれて少し怯む。
楓「……触んなよ気持ち悪ぃな」
雅臣「お、お前が起きないからだろ!!」
文句を言われつつ寝る時まで和装なのかと寝間着の胸元がはだけた蓮池を見るが、そんな俺を無視して蓮池は立ち上がった。
夕太「おいでんちゃん早く……って!でんちゃん起きたの!?雅臣サンキュ!どんな手使ったんだよ!」
戻ってきた柊と入れ替わりで蓮池は枕元に置いてあった眼鏡をかけるとそのまま部屋を出ていってしまった。
……ったく。
寝起きだと態度も目つきも普段の倍悪いと知り、昼間の方がまだマシだなんてとため息をついた。
散らかった2人分の布団と自分の分を畳んで部屋の縁に寄せておくかと手を掛けると、柊も一緒に手伝ってくれる。
夕太「ありがと雅臣」
雅臣「いいよ、朝飯の準備大丈夫か?」
夕太「おばさんが俺達が寝てる間に作って置いてってくれたよ」
雅臣「え………!?」
挨拶をしようにももうとっくに居ないと聞いて、いつの間に来て帰ったのか早業すぎて驚く。
蓮池はこれを毎朝やって貰ってるのかと思うと正直羨ましいくらいだ。
夕太「着替えたら昨日の部屋で朝飯な。8時20分にはここ出るから荷物も持ってこいよ!」
再び廊下を走って行ってしまう柊に、朝からこんなに騒がしいことがあるのかと一旦そのまま腰を下ろし息をつく。
……着替えるか。
蓮池に蹴飛ばされたところを摩りながら上のTシャツに手を掛けた。
_________
_______________
夕太「これなら5分前には着く!梅ちゃん先輩に連絡入れとこっと」
柊を先頭に俺達3人はいつもの覚王山駅から東山線のホーム来た電車に乗り込むが、少し休憩を挟んだとはいえ腹がはち切れそうに苦しい。
それにしても豪華すぎる朝食だったな……。
漆塗りのお膳に1つずつ用意された完璧すぎる和朝食は焼き鮭に納豆、温泉卵、煮物が入った小鉢3種にしじみの味噌汁と薄く切って盛られたメロンまで完璧だった。
こんなに作って貰ったのに朝はそんなに入りませんなんてとても言えずに覚悟を決めたが、いざ食べ始めるとあっさりした味付けが美味すぎてつい完食してしまった。
その結果腹が重くて、心なしかジーンズのウエストがきつい気がする。
食べた分をプールで泳いで消化させたい俺とは反対に、蓮池は米を3杯もおかわりしたのに余裕そうだ。
楓「何だよ」
雅臣「いや……」
食後に柊が入れてくれたほうじ茶を飲みながら、昨日見た写真の中の真ん丸な子供と現在の蓮池が重なって見えたのは秘密だ。
柊にデブと言われるのもしょうがなく思えてしまう程の食いっぷりで思い返すだけで気持ち悪くなってくる。
そんな事を考えながら胃を撫でている間に電車は名古屋駅に到着した。
サラリーマンと学生が一気に降りるせいかホームはものすごく混雑していて一瞬2人を見失いかけるが、
楓「おい!どこ見てんだよ!」
蓮池の怒鳴り声を聞いて見れば頭1つデカい……というか今日のこいつはよく目立つ。
まずルイピトンの黒のスクエアサングラスが角張っていていかついのと、アナグラムが全面に施された揃いのウィンドブレーカーとバケハがとにかく派手だ。
黒のショートパンツまで同じブランドで決めているが、蓮池の相変わらずの口の悪さと相まってこの人混みだと目印代わりになり非常に助かる。
蓮池はロゴの入ったかごバッグを肩にぶら下げているが、アレに濡れた水着を入れて帰ってくるつもりか?
神経を疑うがさすが生粋のボンボンは違うと眺めていると、
夕太「でんちゃんは前見て着いてこいって言いたいんだよね」
雅臣「柊……大丈夫だから離してくれ」
柊が人混みに紛れないよう背後で俺のシャツの裾を引っ張った。
夕太「迷子になるよ、雅臣鈍いから」
生地が伸びるので手を離させようとするが、上目遣いで余計に引っ張る柊に苦笑してしまう。
雅臣「お前のその象の鞄を目印にするから大丈夫だ」
柊の持つ象の形をしたカゴバッグはピンク色でコロンとしていて可愛らしい。
2番目のお姉さんに買って貰ったらしいが小柄な柊にピッタリのサイズだった。
とっくに改札を出た蓮池がサングラス越しに俺達を睨んでいる気がして2人で急いで後を追った。
読んでいただきありがとうございます。
ブクマや評価していだだけて本当に嬉しいです!
いただけると書き続ける励みになるので、ぜひよろしくお願いいたします♪♪
 




