118.【急遽決まったお泊まり会】
時間も忘れてしばらく話し込んでいたが、窓越しに差し込む日差しもいつの間にか和らいだ。
2人で差し入れを決めた後、ゲームが届くまで数日かかるからと〝とび森〟スマホ版を試しにダウンロードすると柊が俺に似てるクロヒョウをキャラクターに設定してくれた。
好みの家具を配置できるゲームはとても楽しくて教えて貰いながら熱中していると、
夕太「……あ、でんちゃんから電話だ」
柊にかかってきた蓮池からの着信音で、もうこんな時間かとローテーブルの上の置時計を眺める。
あっという間に半日過ぎてしまい、1人でいる時よりも断然時の流れが早い。
柊はポップコーンを貪って粉まみれの手でスマホを掴もうとするのでそっとウェットティッシュを差し出した。
綺麗に手を拭かせて、柊が電話に出ると、
夕太「もしもし?稽古終わった?…え!!今日カレー!?行く行く!」
どうやら蓮池の家の晩ご飯はカレーのようだ。
1人だとつい作りすぎてしまうのでカレーの機会が中々ないんだよなと、以前作ったはいいが飽き飽きしながら最後まで食べたのを思い出す。
夕太「量ってどんくらいある?寸胴?……おっけー、20分後に着くから玄関開けといて」
想像するだけでカレーの口になって困るが、もしかして本当に寸胴鍋で作ったんだろうか?
何杯分出来るのか分からないが蓮池が1食3杯食べるとしたらそれくらい鍋は大きい方がいいのかもしれないな。
そろそろ柊も帰るだろうし空のグラスをシンクに運びテーブルの上のを片付けていると、
夕太「雅臣、今日一緒にでんちゃんの家泊まりに行こ?」
雅臣「___え!?」
突然の誘いに他人の家に寝泊まりした事の無い俺は驚いてしまう。
蓮池に何の許可もなく俺達で勝手に決めていいんだろうか?
雅臣「いや、勝手に泊まりに行くなんて……」
夕太「あ、おばさんはもう伏見のマンションに帰るんだって。夜はでんちゃん1人だけだから大丈夫だよ」
夜だけあの広い敷地に1人で住むなんて、蓮池には優しい家族がいるのに何故その形を取っているか未だに不明だがそんなことよりも本当に俺が行って大丈夫なのか?
最近割といい感じに話せるようになってきたとはいえ許可もなく……しかも柊が連れてきたとなれば蓮池は嫌でも断れないだろう。
夕太「明日プール行くじゃん?雅臣名駅の金時計分かんないだろうし一緒に行こうぜ」
雅臣「金時計の場所ならもう知ってるぞ?」
事前にグループチャットでプールの待ち合わせ場所は名古屋駅の金時計前と決まっていた。
東京からこっちに来る時に見たあれが金時計ならと承諾したが柊の言いたいことは違うらしい。
夕太「金時計って人によって違うから俺らはまとめて行った方がいいよ…あ、雅臣トイレ貸して」
雅臣「出て左だ」
人によっては違うとは、実は金時計は名古屋に何個もあるのだろうか?
疑問が浮かぶがこの隙に一旦蓮池に確認だけしようとこっそりチャットを開く。
〝蓮池の家に俺も泊まろうと柊に誘われたんだが、行っても大丈夫か?〟
珍しくすぐに既読がついたが、もちろんそのままスルーされた。
………これはどうやら大丈夫そうだな。
テストの要点を送った時に発見した法則だが、蓮池は既読スルーの時はほぼOKの意味で、反対に嫌な時はDead…と睨みつける悪魔のスタンプが大量に送られてくるのだ。
ということは、俺が泊まりに行って良いと言うことだろう。
明日の準備がまだ出来ていない為慌てて用意していると、柊がトイレから戻ってきた。
夕太「何してんの?」
雅臣「いや、泊まりに行くなら明日のプールの準備も持って…って、柊荷物は?」
夕太「俺はもう大分前からでんちゃんの家に置いてあるんだよね、持ち物は財布とスマホだけ!」
今にも走り出しかねない勢いを見るとすっかり体調も戻ったようで、ここで映画を見ながら休ませたのが正解だった。
早く早くと急かす柊に急いで鞄に1式詰め込み、戸締りをして2人で蓮池の家に向かった。
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夕太「でーんちゃ─ん!!来たよー!!」
コンビニで飲み物などを買ってから1本道を下りていくと、蓮池の豪邸が見えてくる。
立派すぎる日本家屋の門を潜って着いた早々柊がまるで自宅のように蓮池の家を案内してくれるがとにかく広い。
さっきまでは突然泊まることに対して迷惑じゃないだろうかと悩んでいたが、今はそれどころではなかった。
学校行事以外で他人と寝泊まりするのは初めてで、俺は人生で初めて友だ……いや、知人の家に上がるどころか泊まることに慄いていた。
中学の修学旅行ではクラスメイトがトランプをしていても俺は誘われず1人静かに本読んでいたのだが本当に酷い話だ。
今考えるとどうしてそれで良しとしていたのか、何故ボッチの自覚がなかったのか黒歴史以外の何物でもない。
緊張しながら柊の後をついて渡り廊下を歩くが、こんなに広い屋敷に蓮池は1人ぼっちでいるのかと思うと何となく寂しい気持ちになった。
蓮池の家は広い敷地に平屋が2棟建てられ、間を庭に面した渡り廊下で結ぶ構造となっている。
離れを稽古場として、母屋は蓮池が寝泊まり出来るようリノベーションされていてどちらも美しい庭園を味わえる住まいとなっていた。
母屋に入ってふと横を向けば流石華道一家なだけあり雪見障子から丁寧に手入れされた日本庭園が見え更には年代物の石灯籠が何個もある。
その素晴らしい景色に圧倒されていると、柊は池の鯉を覗きに勝手に縁側に出て置いてある外履きに履き替え行ってしまった。
こんなに蓮池の家の内情を知っているということはそうとうここに遊びに来ているのだろう。
楓「___おい」
その声に振り向けば真後ろに蓮池が立っていた。
今朝ステバで会った時とは違う着物を着た蓮池は稽古で疲れているのか気怠げにゴキゴキと右に左に首を鳴らしていた。
夕太「あ、でんちゃん!そういや花器って決まった?」
幼馴染を見つけた柊は飛び石をぴょんぴょん1個飛ばしで踏み戻ってきて尋ねると、
楓「ジジイの気に入ってる器2個ぶん取ったったわ」
夕太「良く貸し出したね……あ!これコンビニで花火買ってきたから夜やろう、俺スーラータン見てくる!」
花火の入ったビニール袋を蓮池に押し付け、今度は慌ただしく廊下をバタバタと駆けていった。
雅臣「悪いな突然押しかけて…お邪魔します」
俺と蓮池は縁側に取り残されてしまったので一応挨拶をと頭を下げる。
楓「てか何だよこの花火どこでやんだよ」
雅臣「柊がお前んちの庭ならできるって…まぁ、無理だよな」
てっきり敷地内にどこか花火でも出来そうな場所があるのかと思えばそんなことはなかった。
玉砂利の敷かれた日本庭園は稽古場としても最高の雰囲気で異なる角度から楽しめるように計算され、よく手入れされた木も天然石も全て価値あるものばかりだ。
楓「火だるまにする気か」
蓮池の言う通りで、裏庭までこの調子ならどこかに火が燃え移ったら火事になるとちょっと考えれば分かるはずなのに……。
ここに来る前にコンビニで花火を見つけた柊はそれは楽しそうに家の庭でやろうとたくさんカゴの中へと放り込んでいた。
俺は今まで1度も友達と花火なんてしたことがないのでその時ついはしゃいで半額出してしまったのだ。
きっと柊はここで花火をしたことがないから出来ると判断したんだろうが、大体この恐ろしく手の込んだ家で花火だなんて価値を分かっていなさすぎると呆れてしまった。
楓「まぁ…裏の三ツ池公園ならできるか」
雅臣「公園って花火していいのか?」
楓「手持ち花火くらいならいいだろ」
幼馴染がやりたいと言い出したことを汲み取った蓮池はため息をついて歩き出すので慌てて後ろをついて行く。
………にしても、本当に広い家だな。
今まで外観しか見たことがなかったが、蓮池について廊下を歩くと和室が連なり伝統的な技術や自然素材を生かした美しい部屋ばかりだ。
その一室の奥の襖を開けて、突然柊がひょこっと顔を出すと、
夕太「雅臣!!こっちこっち」
来いよと手招くので蓮池に行ってくると声をかけた。
蓮池は頷くとそのまま別の部屋に行ってしまったので、とりあえず柊さえいればこの広い日本家屋で迷子になることはないだろうと手招かれるがまま俺は柊の案内する場所へと向かった。
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