113.【正式な訪問者】
夕太「おっじゃましまーす!!」
雅臣「どうぞ」
自宅のマンションに案内すると柊は靴を脱ぎっぱなしにしてお構い無しにリビングへ直行する。
夕太 「わー……なんか……」
着いて早々リビングのソファに深くどんと座った柊は天井をぐるりと見渡して惚けた顔をした。
靴はきちんと揃えたのに小姑の如く一部屋ずつチェックして見て回った蓮池とはまた違った図々しさだと思いながら2人分の靴を揃えた。
夕太「雅臣んちって…モデルルームみたいだな」
ソファの上のクッションを抱きしめながら柊はキョロキョロと落ち着かない様子だが、俺も内心は非常に落ち着かない。
初めて他人を部屋に招き入れたのは蓮池だったが、あいつは見舞いに来てくれただけだ。
今回は家で一緒に映画を見るという実に友達らしい理由で来てくれて嬉しくてつい笑顔になる。
蓮池も仕事が終わったら遊びに来ないかなと考えながらシンクで手を洗い飲み物を勧めることにした。
雅臣「柊、何か飲むか?」
夕太「そのマシーンってさ、アイスキャラメルラテとかできるの?」
柊が指差すのは例のコーヒーマシンで、もし次に誰が来ても色々ともてなせるように事前にネットで色んな味を揃えておいて大正解だった。
雅臣「出来るぞ、作ろうか」
マシンにカプセルをセットしようとすると、柊は立ち上がってアイランドキッチンの対面越しにやってきた。
夕太「これめっちゃ本格的だけどどうやって使うの?」
雅臣「あぁ、これは__」
柊がやりたがったので電源を押して氷の入ったカップをセットさせる。
コーヒーが出来上がる間に俺はミルクフォームを作り買っておいた市販のキャラメルをかけてやると柊は大喜びだ。
ストローを刺してグラスを渡せば店さながらの出来具合に柊は目を輝かせると、余程喉が渇いていたのか一気に半分を飲み干した。
夕太「うまー!!!」
雅臣「何杯でも作れるからな」
そう言って自分も同じものを作り1口飲むと、キャラメルラテは結構甘いが中々美味かった。
普段はブラックばかりだからたまにはこういう甘いのもいいよな。
夕太「あ、そだお昼何作る?」
俺が飲んでる間にグラスをカウンターに置いた柊は今度は勝手に冷蔵庫の中を物色し始める。
雅臣「昨日買い物しておいたから割と何でも作れるぞ?冷凍庫にシーフードもあるしパスタでもオムライスでも___」
夕太「えぇ、迷っちゃうなー」
その言葉にどんな具材があるのか気になったようで、柊はガタッと音を立てて冷凍庫を覗き込むとピタリと固まった。
夕太「……雅臣ってアイス好きなの?」
大量に入っているアレを見つけた柊は何度も瞬きながら1つ手に取る。
夕太「しかもバニラばっかり…雅臣バニラ好きなの?」
雅臣「あぁ、それ蓮池が持ってきてくれたんだ」
蓮池が以前見舞いに来てくれた時に持ってきた大量のバニラアイスを実はまだ取ってある。
せっかくあの蓮池がわざわざ俺の為に持ってきてくれたのだから、何かいいことがあった時用にと1つずつ大切に食べていた。
雅臣「バニラ以外も奥にあるぞ、抹茶とストロベリーと…このシリーズ美味いよな」
夕太「でんちゃんはバニラが好きなんだよね……俺は本当は抹茶が好きなんだけど」
冷凍庫の中にバニラアイスを戻して扉を閉めると柊は静かに呟いた。
夕太「でんちゃんさ、自分が小さい頃からずっとバニラ一択だからって未だに俺がストロベリーが好きだと思ってんだよ」
おかしいよねって振り返る柊は困り眉で少し悲しそうに笑う。
幼馴染なだけあって柊も蓮池のバニラ好きは知っていたようだが、何故そんな顔になるのか。
雅臣「そんなもんじゃないのか?幼馴染って言っても2人でアイスなんて食べる機会そんなにないだろ?知らないだけだよ、蓮池も」
少しフォローしつつ、後でデザートにその抹茶味食べていいぞと勧めてやるが柊はぼんやりとしたままだった。
夕太「……もー!でんちゃんったらより甘いものを求めてすぐ___」
雅臣「バニラが大好きなんだろ?いいじゃないか」
気を取り直したような柊の言葉の先が何となく予想できたので敢えてワザと被せて口を開いた。
柊が意地悪だとかそんなつもりじゃないのは分かっているが、また酷い言葉を使う気がしたのだ。
多分幼馴染のノリとかイジりみたいなものなんだろうけど、今ここでそれを言われたら蓮池が持ってきてくれた優しい気持ちを貶される気がして俺が嫌だった。
夕太「……俺シーフードパスタがいいな、これおかわり自分で作ってみてもいい?」
……俺の気持ちを少しは察してくれたんだろうか。
昼飯のメニューに話題を切り替えたので頷くと、柊はグラスを手にカプセルタワーからコーヒーをどの味にしようか悩み出した。
少し静かになる柊が何だかいつもより小さく見えて、
雅臣「トマトかクリームどっちがいい?」
敢えて明るくそう問いかけると、柊はうわ!と同じ様に明るい声をあげて待って待ってとより真剣に悩み始めた。
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夕太「うま!!!何これめっちゃうまい!!!」
決めきれないと頭を悩ませ続けた柊の為に、俺は2つとも用意することにした。
1つはシーフードのペスカトーレ風パスタ、もう1つは鶏肉とブロッコリーのクリームパスタにミニサラダとバケット添えという何とも豪華な昼食になった。
ついいつもの弁当の感覚で蓮池も含めた3人分の分量を作ってしまったが、この調子なら大丈夫そうだと安心した。
それにしても美味い美味いと柊は次々口に運んでいるが口周りがすごいことになっているな……。
ゆっくり食べろとウエットティッシュを差し出しつつ、焼いた薄切りバケットにバターを塗ってやる。
夕太「いやー、雅臣の料理の腕がここまで上達するとはね……」
柊は受け取ったバケットにトマト味のペスカトーレソースをつけて頬張った。
雅臣「やってみると意外と楽しくてさ。夏休み明けの弁当はBLTサンドとかもいいよな」
夕太「それいい!サンドイッチパーティーとかおにぎりパーティーしようよ!でんちゃんにはおばさんに頼んでおかずめっちゃ作ってきてもらってさ!」
柊の楽しそうな提案に、いつもアイデア力が満載ですごいと感心する。
いつもは1人だけの静かなダイニングも柊がいるだけで賑やかになり、まるで太陽みたいな存在だ。
雅臣「柊は料理とかするのか?」
2枚目のバケットにたっぷりとバターを塗る柊にそう問いかけると、
夕太「んーん、俺は基本洗濯担当、料理は姉ちゃん」
大きな口でバケットにかぶりつく。
……そうか。
お姉さんが4人もいて柊、ご両親となると家事を分担する方が効率がいいのかもしれない。
雅臣「洗濯とか量が多いと大変だろ?俺は1人分だから想像がつかないな」
夕太「やばいよ、姉ちゃんのパンツとかブラばっか…って……雅臣!大丈夫かよ!もー慌てて飲むから!」
洗濯内容に飲んでいたアイスコーヒーが喉に詰まってむせる俺に柊はティッシュを渡してくれるが、動揺が隠せなかった。
雅臣「ま、まさか柊がお姉さん達の下着まで洗濯するのか?」
夕太「当たり前じゃん、洗濯担当なんだから。汚れたシーツとか重なった日にはもう」
静かに目を閉じてため息をつき首を振る柊に、女性ならではの事情を目の当たりにして姉がいるのも大変なんだなと同情してしまう。
俺はそんなことまでしたことがなかったが……。
ふと入院していた母親の洗濯物はどうしていたんだろうかと考える。
いつも親父が洗濯機を回していて、入院している母親に届けて欲しいものは予め紙袋に纏めてあって1番上は必ずタオルが被せてあった。
病院から洗濯物を持ち帰った日も親父はそこに置いておきなさいと言うだけでまた同じことの繰り返し。
その中には柊の言うように下着なんかも入っていたはずで……。
もしかして親父はそういうところは俺に気を使ってくれていたんだろうか。
俺の知らなかった親父の一面に気がついて、あんな事さえなければ俺はそこまで親父を嫌いにはならなかったかもしれない。
夕太「ごちそうさま!!そうだ!映画さ……ん?」
雅臣「どうした?」
少し考え込んでいた俺を横目に、柊は食器を運ぼうと皿を持って立ち上がったがもう1度椅子に座り直した。
腰が痛いのか手でさすりながら少し首を傾げているが、明らかに痛そうだよな?
雅臣「大丈夫か?」
夕太「うん?…うん」
少し顔を歪める柊の顔を以前にも見たことがあると、たこ焼きパーティーの買い出しを思い出した。
雅臣「柊、気にせずそこで一旦横になれよ」
不安になった俺は立ち上がってソファを整え来いと勧めるが、
夕太「いや、大丈……ちょっとだけいい?」
雅臣「あぁ、もちろん。でもここよりベッドの方がいいよな…歩けるか?」
かなり痛そうな気がして、ソファよりもベッドの方が安定していいよなと俺は寝室へ案内した。
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