109.【再び成績開示】
三木「全員成績表見せろ」
………しまった。
三木先輩は笑顔で掌を出すが、圧迫面接並の威圧感を感じる。
期末テストも終わっていよいよ来週からは夏休み。
開放感に満たされていたが最後の関門をうっかりしていた。
今日は蓮池の追試勉強会、そして合宿の日程だけ先に決めてしまおうと珍しく三木先輩から招集がかかったが、全員の成績開示の目的もあったのかと渋い顔になる。
エアコンの効いた部室に1年2年が集まり三木先輩が来るまでそれぞれのんびり寛いでいたが急に室内に緊張が走る。
そうだよな……。
まず蓮池の成績を確認しないと何を勉強するのか決められないもんな。
ただそうなると俺らも必然的に成績表を見せることになるわけで、避けられない道だと俺は大人しく鞄から成績表を取り出した。
雅臣「あー…じゃあ俺から…」
楓「てめぇやけに強気だな」
___何とでも言ってくれ。
前回の経験から先に見せた方が恥ずかしくないと学んだ俺はサッサとみんなの前で成績表を広げて見せた。
蘭世「おー!!!クラス3位じゃん!!」
梅生「え!数学が98点!?すごいよ藤城!」
少しだけ上がった順位と点数を2年が声高に褒めてくれて素直に嬉しい。
今回の期末は難しい科目もあったのでどうなることかと思いきや煩い事がないせいか前回より成績が上がっていたのだ。
短い時間で集中したのが功を奏したようで、これも勉強会のおかげだと伝えようとした瞬間横から成績表が奪われた。
夕太「えっ……さ、3位なの!?雅臣が!?」
俺の成績表をくまなく確認しそれでも目を疑う柊だが……。
雅臣「柊の方が頭いいんだから別に驚くことないだろ?」
楓「さすが、ナチュラル嫌味」
椅子に座って左口角だけ上げて鼻で笑う蓮池に、いや事実だろと窘める。
三木「藤城頑張ったな、この調子ならクラス1位も狙えるぞ」
雅臣「あ、ありがとうございます。勉強会凄い助かって……あの、またお願いしてもいいですか?」
図々しすぎかと思いながらも頭を下げると、分かりやすく俺の成果が出たからか三木先輩は笑顔で引き受けてくれた。
1年残り2人も早く出せよと三木先輩は言うが、成績表を手に握る柊が珍しく渋るので梓蘭世が上からひょいと奪い取った。
蘭世「げ、夕太5位かよ!下がってるしとっとより下じゃん」
___柊が、5位?
梓蘭世の大袈裟な言葉に目に見えて柊は嫌そうな顔をしているが、それならさっきの俺の言い方は嫌味に聞こえてしまったかもしれない。
三木「柊、お前気を抜いたな?期末の方が全体的に難しいからこの順位が全てだぞ」
夕太「……うるさいな、次は俺が1位取るし」
柊は新しいゲームなんかやりこまなきゃ良かったと項垂れている。
可哀想なくらい落ち込む柊は、さらっとこなしているようで実はかなり負けず嫌いと知った。
勉強会でもそこまで真剣にやってるようには見えなかったが影で努力してたんだ……と柊と目が合えば頬を膨らませ物凄いジト目でこちらを見ている。
当たられる予感を察知して敢えて目を合わせず次の蓮池の成績表に集中すると、文系科目は全て赤点の1.2点上、ギリギリセーフだが理数科目が惨敗だった。
もし補講になったら夏の予定も台無しで色々詰んでしまうから何とか追試で食い止めてやらないと……。
夕太「でんちゃん!俺が何としても退学させないから!」
蓮池は平然としているが自分の成績に落ち込んでいた柊がそれどころではないと騒ぎ出した。
雅臣「柊、俺も手伝うよ」
夕太「雅臣ぃ!」
見かねて俺も助けたくなり声をかけるが不安なのか柊はヒシと俺の腕にしがみつく。
楓「26位キープなんだから褒めてくれてもいいのに」
けっと忌々しそうな顔の蓮池の次は2年生の成績となったが2人とも前より少しだけ成績が上がって何も心配がなかった。
成績開示も終わり蓮池の追試特訓のスケジュールを三木先輩が組んでいるが、それぞれジュースを飲みながら喋ったりして合宿の話題になかなか移らない。
雅臣「……あの、ちょうど全員いますし聞きたいんですけど、いつがいいですか?」
夕太「ぬぅあにがぁ?」
意を決して部長らしく日程を決めてしまおうと尋ねるが、おやつのあんドーナツを頬張り始める柊の呑気な声が部室に響いた。
砂糖まみれの柊に机に置いてあるウエットティッシュを1枚引き抜いて口を拭くよう渡しながら、
雅臣「合宿だよ。顧問に聞いたら布団の貸出とかもあるし、もうそろそろ決めろって」
三木「蓮池この公式だけまず覚えろ。……藤城、ありがとうな」
早くしないと数が確保出来ないと先日顧問から言われた事だけを皆に伝えると、早速蓮池を指導する三木先輩に進行を変わってもらう。
蘭世「何泊予定してんの?」
夕太「2泊3日かな!」
ドーナツを食べ終えてテンションも上がってきた柊が希望の日数を伝えるが、作詞作曲もするしその位の時間は必要だよなと眺める。
三木「そうか、それなら出校日から2泊3日にしようか?申請書は俺が書いて顧問に出しておく」
そのままさらっと日程が決まりそうだったので慌てて俺は少し待ってくださいと三木先輩を引き止めた。
雅臣「蓮池、お前日程は大丈夫なのか?」
楓「はぁ?合宿に来んなってことかよ」
勉強が嫌すぎて既に殺気立っている蓮池は俺を睨むが、そうじゃないと断りを入れる。
雅臣「仕事とか稽古とか…その日に被ってたら難しいだろ?」
楓「……あぁ、大丈夫、8月なら展示も終わってるから結果さえ出せばジジイも文句言わないだろ」
そう言ってシャープペンを左手に数式を暗記し始める蓮池を見てほっとした。
蓮池1人仲間外れにするわけにはいかないもんな。
皆で合宿だと言うのに蓮池だけ来られないのは寂しいとも思っていたので余計に安心した。
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