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107.【似た者同士】




俺はまた余計なことを聞いてしまったんだろうか。


柊に嫌な思いをさせていないか顔色を伺う。



雅臣「そ、そうか……」


夕太「うん、えーっとね…ロシアフランス___」



気まずさを感じながら相槌を打つが、柊は何とも思わないのかそれぞれの父親がどこ出身かを話し出した。



…………あれ?



お姉さん達はさておき、そういえば柊って何で()なんだ?


ふと、お姉さん達の父親の話からとんでもないことに気がつき青ざめる。


柊の父親は確かなんとかコクトーなわけで、その理論なら夕太・コクトーになるんじゃないか?



…………。



ダメだ、これは深堀してはいけない気がする。



夕太「遠く離れていても、俺の家族は皆いい人ばっかりなんだ」



俺の疑念を払拭するようにハッキリとそう告げる柊の顔に嘘偽りはなく、とても誇らしげだった。



………そうだよな。



両親がどんな関係かなんて1番どうでもいいことで、目の前の柊が明るく語れるのは幸せな証拠だ。


例え出自が怪しかろうが柊は柊で何も変わりがなく、血の繋がりなんて俺には関係ない。


俺が知りたいのは柊自身で、この天真爛漫で不思議な魅力を持つ柊はその家族がいてこそだと目の覚める思いがした。


それによくよく考えれば、この話に触れることに気まずいも何もなかった。


本人がこれだけペラペラと家庭の事情を話せるのはあまり気にしていない証拠で、他人にどうこう言われる筋合いもない。


むしろ俺が変に気を遣う方が失礼な気さえする。


柊の多国籍な家族をおかしいと言うのなら俺の家庭も大概おかしいし、悔しいが蓮池の言う通り俺の金銭感覚だって大分おかしい。


ついでに3人とも割と値段のするアフタヌーンティーに制服のままポンと来れるのもおかしな話なのだ。


周りの女性は真剣に写真を撮って大切そうに食べてるというのに、俺らはバクバク食べ散らかして……。


蓮池はもちろん柊の家庭の事情をよく知っているからか、俺達の会話に特に反応することもなく静かに紅茶を飲んでいた。


ラウンジシャルダンは午後3時を過ぎても賑わっていて、それでも男子高校生が平日のこの時間にいることは明らかに違和感がある。



多分俺達は3人とも恵まれているが、全員どこかズレていておかしいのだ。



柊1人がおかしいんじゃない、俺も蓮池も、そして誰もが見えない歪さを抱えて生きていると思えば何も感じなくなった。



雅臣「……柊のお父さんフランス出身なんだろ?それならフランスに行ったことあるのか?」



以前作曲家と聞いたお父さんはフランス人と記憶していて、柊の楽しい話が聞けたらいいよなと質問してみた。



夕太「え?…あぁ、うん。今年はまだ決まってないけど、毎年家族で行ってる」



少し間が開いてから答える柊に、本当に仲の良い家族で羨ましくなる。


俺は家族旅行なんてしたこともなければ、写真を撮った記憶もなんて数える程だ。


大した会話もしていないと思い返せば本当に酷くて苦笑してしまう。


笑顔の写真を残せる柊の方が自分より遥かに良く思えて、幸せの形は沢山あるのだと知った。



雅臣「柊が英語も得意なのはお父さんのおかげか…」


楓「バカかよ、あのお父さんほぼフランス語だよ」


夕太「俺が英語できるのはいちねぇの父ちゃんがアメリカ人で、今でも一緒に遊びに行くから。それに家では皆英語だったり…色々話すし」



家族が多国籍で海外に例年行くなら柊が英語が得意なことに納得がいったが、どうやら何ヶ国語もできそうで驚いた。


色んな言語が飛び交う柊家のあまりにワールドワイドな環境に、己の日本人ならではの小ささを思い知る。



雅臣「そうか、英語もフランス語も覚えられていい環境だな。だから柊は色んな人と話すの上手いんだな」



素直に感想を伝えると、柊は驚いたように俺をじっと見つめる。


次第にその大きな目がどんどん見開き、柊は綻ぶように笑った。



夕太「……へへ、そうかな」


雅臣「羨ましいよ、俺もそうなりた___」


楓「お前は転生しても無理だよ」



しかし蓮池が突然意味不明の言葉で俺を遮り鼻で笑った。


____て、転生?


何だそれは、今そんな話だったかと眉根を寄せる。



雅臣「転生って何だよ?」


夕太「……ねぇ、でんちゃん。さっきから思ってたんだけどなんか変なものでも読んだの?ていうか、雅臣弄るために何か調べたんだろ」



へっと左口角を上げご名答と言わんばかりに蓮池は偉そうな態度で鼻で笑う。



楓「陰キャのこいつにピッタリなのを見つけてね」



スマホを手に最近得た知識を語っているが、もし柊の言う通り俺を弄るためにわざわざ調べてきたならその意欲はぜひ勉強に回してほしいものだ。


意味不明なことばかりを言う蓮池の顔はニヤニヤしていて嫌な予感しかしない。


柊はそんな幼馴染に呆れ顔だが、せっかくだから紅茶を全部制覇するついでに話を聞こうと手を挙げて店員を呼び止めた。





____________



__________________





あれから紅茶の種類を一通り制覇した柊は満足したのか飲みすぎたと椅子の背にもたれかかった。


俺も腹が限界だと音を上げる中、蓮池は1人まだ黙々と味わってゆっくり食べている。


帰りは暑くても少し動かないと消化できないと入り口付近を眺めると、ロビーに大きな華が飾ってあることに気がつく。



雅臣「蓮池、華展ってあんな感じのやつを作るのか?」



俺の質問に蓮池が食べる手を止めどれと振り返って眺める。



楓「名観はうちじゃないけどまぁ、あんな感じ」



違う流派の名前を出して教えてくれるが、あんなに大きなものを目の前の蓮池も生けるのかと驚いてしまう。



雅臣「……ヒマワリしか分からないな」



黄色が鮮やかなひまわりはとても夏らしく、蓮池は少し目を細めて見ると、



楓「ウイキョウ、茎が細くて先端が花火みたいな花で夏だからヒマワリと合わせたんか」



事も無げに言い当てるので思わず俺は目を見開いた。


確かに華道家なら分かるものかもしれないが、素人の俺からしたらとんでもない事でぱっと見ただけで分かる蓮池をまじまじと見てしまう。



雅臣「す、すごいな蓮池」


楓「一応跡継ぎだもんでね、にしても小さく纏めやがって……流派出るなほんと」



ブツブツと考察し始める蓮池に、そういえば合唱部の大会と蓮池の華の展示会は同じ日でしかも一緒の会場でやるのを思い出した。



雅臣「蓮池、華の展示会俺も見に行ってもいいか?」


楓「は?何しに来るんだよ」



突然の申し出に蓮池が訝しむが、蓮池が作る生け花を俺は一度も見たことがなくどうせなら見てみたいと思ったのだ。







読んでいただきありがとうございます。

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GW限定2話更新です!

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