104.【真夏の味噌煮込みうどん】
俺達はお馴染みの東山線に乗って伏見駅まで行くと、8番出口から蓮池について味噌煮込みうどん屋に向かう。
伏見は初めて来る場所だが街にスーツを着た人がやけに多く、どうやらオフィス街のようだ。
5分もしないうちに〝山川屋本店〟と書かれたお店が商業ビルの1階に見えてきて、暖簾を括ると夏ということもあって直ぐに席に案内してもらえた。
俺の向かいに蓮池と柊が並んで座ると同時にどれにしようかとメニューに悩む。
俺は名古屋飯らしく〝名古屋コーチン入り味噌煮込みうどん〟をタブレットから選んだのだが、
楓「天ぷらトッピングしてご飯もつけろよ」
蓮池が勝手にボタンを押して追加するので腹が立った。
雅臣 「何でだよ、そんなに食えないし好きな量を頼ませ__」
夕太「俺かしわ入り単品ー!名古屋コーチンちょっと硬いんだよねー」
しかし俺が否定する間に柊が勝手にピッと合計ボタンを押して注文を通してしまった。
雅臣「おい!勝手に注文するなよ!」
楓 「じゃあキャンセルしてこいよ」
早く行けと蓮池が店員を顎で指すが腹が減ってるせいかいつもより数倍気が立ってるように見え、わざわざ店員を呼んでまでキャンセルするのは面倒なので仕方ないとそのままにした。
しばらくしてそれぞれの前に1人用の鍋に入った味噌煮込みうどんが置かれると、蓋がしてあってもぐつぐつと煮える音がして味噌の良い香りが室内中に充満する。
蓮池の前にはいつの間に2つ頼んでいたのか天ぷら味噌煮込みうどん以外に九条ネギときつねの乗ったものまで一緒に出てきた。
店員が蓋を開けてどうぞごゆっくりと去って行くと、さすが名古屋飯代表なだけあってどう見ても濃そうな茶色に食べていなくても喉が渇く気がした。
楓「…ここ米も漬け物もおかわり無料じゃなくなったのかよ」
蓮池は文句を言いつつ早速箸でうどんを鍋蓋に乗せて冷ましながら食べるが、これが取り皿代わりなのかと瞠目する。
俺も真似して食べようと箸で麺を掴めば、箸から伝わる尋常ではない麺の硬さに動揺してしまう。
これ、もしかして煮えてないんじゃ………?
楓「はよ食えよ」
蓮池が平然と麺を啜るのを見て、やはり俺のだけまだ煮えてないのかと疑ってしまう。
雅臣「いや……、これまだ煮えてないぞ?」
夕太「あー!雅臣それさ、味噌煮込みってこの麺の硬さがマストなんだよ」
だから大丈夫と柊は嫌いなネギの青い部分をせっせと蓮池の鍋に移しながら俺の疑問に答えてくれた。
しかしネギの代わりに人の鍋からかしわを抜き取ろうとするので怒った蓮池が箸で抑えるが、どちらも行儀が悪いったらありゃしない。
夕太「交換だよ!でんちゃんのデブ!」
雅臣「そんな言い方するなって、ほら俺のやるから」
膨れっ面の柊の蓋に硬くても我慢しろとコーチンを乗せると、柊はパチパチと瞬きしながら俺をじっと見て大人しくなった。
ついでに自分も鍋蓋に麺を乗せていざ啜ってみるが、硬すぎてよく咀嚼しないと喉につかえそうだ。
硬めの独特の食感に最初は戸惑ったが癖になりそうな濃い赤味噌味に自然と米が進み、もう1口啜れば蓮池と目が合う。
雅臣「初めて食べたけど美味いなこれ」
楓「そんなに食えないとか抜かしてたのはどこのどいつだったかな」
夕太「味噌煮込みいけるなら、あんかけパスタもいけるね!」
蓮池の言い方にはカチンときたが、素直に感想を伝えれば他の名古屋飯も紹介されて俺の初の名古屋飯がこの2人と一緒で良かったと嬉しくなる。
しかもこんな風に席を囲むのはコメナに続いて2回目で、この蓮池の言い方だとあんかけスパもいつか一緒に行ってくれそうだ。
楓「米おかわりしよ」
夕太「でんちゃん食べ過ぎだよ」
柊はまた勝手にタッチパネルで米を追加しようとする蓮池の手を止める。
普段の蓮池をからしてこの量じゃ足りないよな。
雅臣「……俺も食おうかな」
夕太「えっ」
柊のデブ罵倒が始まる前に急いで俺は蓮池の分と共に2つ追加した。
柊は蓮池にやたらデブデブと心無い言葉を吐くが、俺らと体格が違い過ぎて食べる量の感覚が分からないのかもしれない。
今日だって柊はうどん単品のみで、小柄な身体に見合う分量だと眺めるが、
夕太「雅臣……本当にいいの?」
雅臣「あぁ、腹減ってるからな」
本当に?としつこく繰り返す柊に、何かダメなのかが全く分からない。
楓「じゃあさっきのもったいぶったアレはなんだったんだよ」
雅臣「こんなに米が進む味とは知らなかったんだよ」
余程俺が注文に文句をつけた事が気に入らないのか蓮池はしつこく煽ってくる。
最近は忘れていた…というか蓮池の煽りに慣れてきてたが意識するとダメだな、こいつの言葉は本当に一々腹が立つ。
夕太「本当に?この後アフタヌーンティー行くのに?ねぇでんちゃん」
雅臣「__は?」
……アフタヌーンティー?
そんな話は出てなかったぞと蓮池を見れば当たり前だろと呆れ顔で白米をかき込んでいる。
楓「隣の名観のホテルでね。どうせ伏見まで来たんだから食わないと」
雅臣「先に言えよ!!」
ほらね当たったと言わんばかりに柊は胸を張っているが、お前もその予測がつくならどうして店に入る前に言ってくれなかったんだ。
コメナの時も思ったが蓮池は食べるものを強要してくるし柊は量を伝えないし……。
アフタヌーンティーは知っているが、あれを食後のデザートというには量が多すぎる。
それにまた甘いものばかりと青ざめると、
楓「あんなん軽いデザートだよ、デザート」
夕太「言うと思った…まぁ俺も姉ちゃんにアフヌン写真撮ってこいって言われてるし」
柊の〝本当に〟はそういうことかと気がつき、己の見込みの甘さに項垂れる。
アフタヌーンティーに行きたがるであろう蓮池を見越して食事量を制限させつつ、柊は最初から調整して食ってやがったんだ。
気づいた時にはすでに遅くて、目の前にはこんもりと盛られた白米が店員に2つ置かれてしまう。
楓「はよ食えよ、腹減ってんだろ」
いやらしく笑い余裕綽々で2つ目の味噌煮込みと2杯目の米に手をつける。
こ、この野郎……。
もういい、ここまで来たら食い尽くしてやると覚悟を決めて飯をかき込んだ。
読んでいただきありがとうございます。
ブクマや評価していだだけて本当に嬉しいです!
いただけると書き続ける励みになるので、ぜひよろしくお願いいたします♪♪
皆さんは味噌煮込みうどん食べたことありますか?
とっても美味しいので機会があればぜひご賞味あれ!




