1年生の放課後2
覚王山駅を下りた一条先輩の後を急いでつけると、東山線から本山駅で降りて、名城線に乗り換える。
新しい弁当箱を買いに行った時にICカードをチャージしておいて良かったと胸を撫で下ろすが、全ての路線に不慣れな俺は柊と蓮池に黙ってついていくのが精一杯だった。
一条先輩が降りた先は八事という駅で、3番出口を出て地下からそのままショッピング施設に入っていく。
もしかして彼女とかじゃなく普通に買い物に来ただけなのでは……?
1回担任が病院に連れて行ってくれた時も八事を通ったのを思い出し、俺1人では確実に迷う広い施設の中を地元に詳しい2人について縫うように歩いていく。
雅臣「…………ここは」
夕太「コメナ珈琲だね」
一条先輩の入った喫茶店は名古屋で人気のカフェチェーン店らしい。
カフェに来たならお洒落して彼女と待ち合わせと断定する蓮池が当たってるような気もする。
外観を見ながら柊が名古屋ならコメナはどこでもあるよと教えてくれる横で蓮池が舌打ちをした。
楓「八事のコメナじゃなくていりなかのコメナが1番量も多くて美味いのにセンスないな」
ここは湿気てんだよと眉根を寄せる蓮池に柊はため息をつく。
夕太「コメナなんかどこも同じだよほんとでんちゃんって___」
楓「デブとでも何とでも言いなよ、これだけは譲れないからね」
いりなかのコメナじゃないと、と絶対譲らない蓮池だが、正直俺も柊に完全同意でチェーン店に大した差なんてないと思う。
そんな俺の顔を見て考えていることが分かったのか、蓮池が膝で太もも辺りを押してくる。
楓「……何だよ陰キャてめぇ疑ってんのか」
雅臣「疑ってるわけでは…って、ほら、彼女確認したいんだろ?早く入って横の席取ろう」
面倒なことになる前に2人を店に押し込むと2階のお好きな席へと店員に案内される。
一条先輩は見た限り1階には居らず、静かに階段を上がると窓際に向かい俺達に背を向けて座っていた。
一条先輩の席から少し離れた仕切りのある席へ向かって座るが、ここなら向こうが覗き込まない限りバレることはないだろう。
俺と向い合わせに2人が並んで座ると柊は早速メニューを開いた。
夕太「何頼む?」
楓「俺味噌カツサンドとピザトースト、ホワイトノワールにアイスココア」
……今日は蓮池にしては品数が少ない方だな。
蓮池はメニューも見ずに自分の分を決めていくが写真を見る限りどれもそこまで大きくない気がして量が足りるか心配になる。
もっと頼むか聞こうと思うがよく考えれば夕飯前で、俺も毒されて随分感覚が麻痺してきたなと笑いそうになった。
雅臣「俺はアイスコーヒーとミックスサンドかな」
楓「アイスココアにしろよ」
小腹が空いたので俺も軽く食べようとするが、何故か蓮池がメニューを指定してくる。
雅臣「何でだよ好きなの飲ませ___」
夕太「2人ともうるさい!バレるって」
小声で静かにしろと柊は睨み、テーブル下の俺らの足を蹴りつけるとボタンを押して店員を呼んだ。
声のトーンを落として注文するがバレてないかが気になってしまい、少し背を正して一条先輩のテーブルを覗いてみる。
見れば今はイヤホンをしながらスマホを見ていて、これなら少し騒いだくらいでは気づかれなさそうだ。
楓「アイスココアのソフトクリーム分けてやらないからな」
雅臣「……あのなぁ、欲しいなんて言ってないだろ。というか、ソフトも乗ってるのか?」
夕太「うん。ソフトはコメナが1番美味いと思う」
グチグチ文句を言い続ける蓮池につい言い返してしまうが余程美味しいらしい。
東京でもコメナの看板を見た事はあったが家の近くにはなく実はこれが初コメナだった。
しかも学校帰りに誰かとカフェに寄るなんて経験はぼっちだった俺にある訳がなく、密かに楽しんでいると早速店員が俺達の注文した飲み物を持ってきて…………。
………………。
雅臣「___で、」
夕太「デカいよ。コメナは全部デカい」
おい柊、そういうのはもっと早く言ってくれよ!
机に置かれた飲み物の大きさに言葉を失い目を見開いてしまう。
まず蓮池の頼んだアイスココアのグラス自体もかなり大きいのだが、その上に4回程巻いたソフトクリームが乗っていて更に高く見える。
柊のクリームソーダは可愛らしい長靴型でも底が深くこれまた明らかにデカい。
俺の頼んだアイスコーヒーが唯一普通のサイズで、飲みものの大きさに驚き周りもそうなのかとつい見渡してしまう。
よく見ると一条先輩も蓮池と同じアイスココアを頼んでいて、美味しそうに上のソフトクリームをスプーンですくって食べていた。
アイスコーヒーを片手に蓮池と一条先輩の2人とも甘党で味覚が似てるよなと眺めていると、キツく眉根を寄せた蓮池が一条先輩を指差した。
楓「……ねぇアレさ。彼女来る前に飲むかね?普通」
夕太「暑いし先飲んで待っててって言われたんだろ?小姑かよでんちゃん」
一条先輩を疑う蓮池にケラケラ笑いながら柊は答えるが、俺の家に見舞いに来た時も小姑のようだったと吹き出しそうになる。
それが気に入らないのか蓮池はテーブルの下で俺の脛を思い切り蹴ったので、あんまり痛くて笑いもどこかへ吹き飛んだ。
店内のエアコンは名古屋が連日35度を超える暑さなのもあって効きすぎなくらいだが、外から来たので冷たいコーヒーがとても美味しく感じる。
夕飯前でも子連れの主婦やサラリーマンに学生と店内は賑わっていて、メニューの豊富さも人気の秘訣なんだろう。
しばらくして俺達の真横を2人の店員が通過して一条先輩の席の方へと向かうが、そのトレーの上の物に3人とも目が釘付けになった。
雅臣「……まさか、アレって」
トレーの上には山のようにソフトクリームが乗ったデカいデニッシュパンが2つあって、1つは期間限定なのかフルーツソースもかかっている。
さらにコーヒーゼリーがジョッキグラスに敷き詰められたものと、ミルクに小豆が入った甘そうな飲み物までケーキと一緒に2人掛りで運ばれて……。
案の定店員は一条先輩の席で止まり、机の上に全て置いていった。
夕太「……彼女がまだ来てないのにあんなに頼んだのかな」
どう思う?と柊が俺を見て怪しい目付きをするが、あの人まさか自分1人で食うつもりなのか?
できれば彼女に〝すぐ着くから私の分も頼んでおいて〟と言われたとかであって欲しい。
しかし大須に一緒に行ったから分かるが、一条先輩はこれくらい1人で軽く平らげる気がして仕方がない。
夕太「ねぇ、でんちゃんほんとに梅ちゃん先輩デートだと思う?」
楓「馬鹿だな夕太くんは、BALENTIAGAだよ?デートだって」
しかしあの量の甘いものを見ても蓮池の意見は全く揺るがず彼女一択でしかなかった。
確かにかっこいいパーカー姿を彼女に見せたいのかもしれないが…そっと覗くと一条先輩はもくもくと目の前の甘味の山を平らげている。
何となく違うような気がするのは俺だけか?
夕太「えぇ……あの量先に食って?デート?」
楓「彼女来る前に食っとかないと足りないんだよ、俺は分かるね」
絶対デートとだと言い張る蓮池だが、1人で嬉々とした顔で食べる一条先輩にどうも人を待つ素振りがない。
この後彼女が来るかもしれないという気持ちと本当に1人であの量を食べるのかという気持ちがせめぎ合い、チラチラと何度もこっそり覗き見するのは失礼だとは思いながら結局見てしまう。
お待たせしましたという俺の背後から聞こえる店員の声でやっと意識を目の前に戻すことが出来たが、
雅臣「でっ……!」
夕太「デカいよ、コメナは食べ物は特に」
だから先に言っておいてくれ!!
自分の目の前に置かれたサンドイッチのデカさにまたもや目を見張る。
茹でて潰した卵ペーストがはみ出るくらいに詰められたサンドイッチは食べ切れるか不安になってくるサイズだ。
皆で頼んだものが次々と置かれていくが蓮池のピザトーストなんて顔と変わらないくらいの大きさがあるし、味噌カツサンドはカツとキャベツが溢れそうだった。
蓮池にしては頼む品数が少ない理由があったんだ……。
俺にはこれが今夜の夕飯代わりだな、と手に取ったサンドイッチの重みに覚悟を決めた。
読んでいただきありがとうございます。
ブクマや評価していだだけて本当に嬉しいです!
いただけると書き続ける励みになるので、ぜひよろしくお願いいたします♪♪
明日で小話はおしまいです♪




