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93.【選ばれし歌声】



古びた部室だというのに、先程からずっと梓蘭世にだけスポットライトが当たっている感覚に襲われる。


芸能人だからとかじゃない、選ばれし歌声の持ち主の完全なる1人舞台だった。


発声の時にも思ったが合唱部が梓蘭世にソロを任せたい気持ちが良く分かる。



……ただここまで1人だけ際立つのは合唱としてどうなんだろう。



ソロならそれもありなのかと考えていると、柊の伴奏と梓蘭世の歌声に惹かれた一条先輩が下のパートを歌い始めた。


一条先輩も元合唱部員だけあって普通に上手くて、落ち着いた声は梓蘭世の声と相性がとてもいい。


梓蘭世がそっと一条先輩に目をやると親友の歌う姿に力を得たのか慈愛にすら満ちた歌声はフィナーレに向かって一層大きく響き渡る。



蘭世「君の憂いに寄り添い喜びを分かち合おう__」



歌が終わって柊が鍵盤から手を離すと、入学式で味わうことのなかった感動で胸がいっぱいになった。



梅生「ら、蘭世、歌ってくれてありがとう!!」



1番に拍手をしたのは半分涙目の一条先輩で、その言葉に親友は余程人前で歌うことをしなかったんだと分かる。



雅臣「2人ともすごく上手でした」


梅生「俺は別に……でも、蘭世は本当に上手いんだ」



感動をそのまま口にすると、一条先輩は嬉しそうに梓蘭世に微笑みかけた。



蘭世「……梅ちゃんは俺を持ち上げすぎだって」



そう言いつつも親友に褒められるのが1番嬉しいようで、歌い終えた梓蘭世は照れ笑いしていた。


楽しそうな2年を見て、何故2人とも合唱部を辞めてしまったのかいつもと同じ疑問が浮かぶ。


特に梓蘭世はどこポジと言われようが埋もれさせておくには勿体ない存在だ。


これをきっかけにまた少しずつ歌ってくれたらと願わずにはいられなかった。



素晴らしい歌に全体が高揚感に包まれる中、



楓「何だよ、俺だってそんくらい歌えるわ」



音痴と呼ばれた蓮池が眉根を寄せてムードを台無しにした。



夕太「もー……でんちゃんどこポジだよ。恥かくから余計なこと言わない方がいいよ」


楓「うるさいな、歌えるって」



柊の言葉にムカついたのか、こんな感じだろと強気で歌う祝福の歌の出だしが見事に外れていて梓蘭世が吹き出した。


す、すごいぞ蓮池、全部半音ずつズレている。


最早別の曲に聴こえてきてつい俺も笑ってしまったが、目ざとい蓮池はすぐに気がつき思い切り頭をぶん殴った。



雅臣「いって……!!」


楓「笑ってんなよブサイク」



梓蘭世といい蓮池といい、ここは割とすぐ手が出る輩が多いよな。


久しぶりのブサイク呼ばわりに懐かしさを覚えたのも一瞬で、一緒に叩きたいだけの柊が楽しそうに近づいてくるのを見て慌てて避けた。



三木「柊、ピアノを習っていたのか?習っていたにしては……」



ナイスタイミングで柊の気を逸らしてくれた三木先輩の言葉に確かにと頷いた。


梓蘭世の歌声にばかり気を取られていたが、柊のピアノは習っていただけのレベルとは思えないほど卓越していた。



梅生「入学式で聴いただけだよね?楽譜もなかったし…」


楓「夕太くんのお父さんピアニストだからね」



俺に逃げられて不貞腐れる柊の代わりに蓮池がその秘密を教えてくれた。



夕太「そう、俺の父ちゃんは天才なんだけどヒモなの」


楓「夕太くんって隠し玉が多いよね」



少しむくれながらも柊は再びピアノの前に座り鍵盤を叩きながら謎めいたことを言う。


蓮池はあーやだやだ、と呟いて柊の持ってきたビーズチェアに座るが天才でヒモでピアニスト……?


出てきた単語が上手く結びつかなくて先輩達も頭にはてなが浮かんでいる。



雅臣「柊のお父さん、有名なのか?」


夕太「えー、言ってもわかんないと思うけど…ジャン=クリストフ・コルトーっての」



聞き慣れない名前に以前父親がフランス人のハーフだと言ってたのを思い出すと、梓蘭世は目を見開いて突然目の前に座る蓮池の頭をぶん殴った。



蘭世「ば、馬鹿か!!その人ピアニストでもヒモでもねぇよ!!有名な作曲家じゃねぇか!!」



会ったことあると梓蘭世が興奮気味で蓮池の肩を揺さぶるその様子から、柊の父親はかなりの著名人と伺える。



夕太「父ちゃん知ってるの?」


蘭世「タイガーキングの作曲!全般あの人じゃん!」



そ、それはかなり高名な人なのでは………?


梓蘭世が子役時代に出演したミュージカル『タイガーキング』の歌は俺でも知っているくらいだ。


天才作曲家と言われる父親譲りなのか、そういった環境もあって道理でピアノが上手いワケだと納得がいった。



夕太「へー、父ちゃんって有名なんだ」



しかし柊は自分の父親が何をしてるのかあまり興味がないようで、ピアノの椅子からぴょんと降りた。


その後ろ姿を梓蘭世が真剣に見つめるのに気づいた柊は何?と首を傾げる。



蘭世「……にしてもお前、全然似てねぇな。あの人めっちゃデカいしスタイルいいだろ」


夕太「しっっっつれいな先輩!!」



しみじみとそう言う梓先輩に向かって柊は突進する。



夕太「俺は母ちゃんに似たんだよ!!蘭世先輩だって梓志保似じゃん!!」


蘭世「まぁそれもそうか」


夕太「どーせ俺はチビだよ」



ふん、と黄色いカナリアのように口を尖らせ顔を背ける柊を見て皆で笑っていたが、蓮池1人だけ表情が浮かないのに気づいた。


それは以前桂樹先輩相手にキレた時の表情と同じで、何故か少し辛そうにも見えた。


蓮池はキツく歪んだ顔をして梓蘭世が柊の頭をガシガシと撫でる様子を見ているが、何が蓮池の気に障ったんだろう。


声を掛けようかと注意深く窺っていると、



三木「そうだ、藤城も中々良かったぞ。お前は声質がいいな」


雅臣「えっ」



突然三木先輩に褒められて焦ってしまう。



蘭世「とっとは声勝ちだわ。それにあんなにでんが外してもお前そこまで釣られてなかったし」



芸能に携わる2人に褒められるとは思っていなくて、つい蓮池から気が削がれてしまった。


声質がいい、声勝ちだなんて言われたことがないと嬉しくて顔が綻んでしまう。



楓「……陰キャは絶対音感とか好きだもんな、はいはいどうせ俺は音痴ですよ」



俺が褒められたのが気に入らないのか、先程とは打って変わって不貞腐れただけの蓮池が俺を煽る。


さっきのような表情は浮かべていなくて、上手い具合に蓮池の気が逸れたのかあの時のようにキレることも無く安堵した。



夕太「てか蘭世先輩歌えるんじゃん、どっか悪いのかと思ってた。これなら文化祭___」


蘭世「いや夕太、……盛り上がってるとこ悪いけど俺は歌わないから」



はしゃぐ柊を見つめて、梓蘭世が言いづらそうに口を開いた。




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