91.【今後の予定】
物置棟の大掃除が終わってようやく7月を迎えた。
住んで初めて分かったが名古屋は東京より遥かに暑くて、柊から真夏の栄は40度近くなると教えて貰いこれ以上暑くなるなんて信じられない気持ちでいっぱいだった。
そんなバテ気味の毎日だったが嬉しいこともあり、ついにSSCの部室として生徒会から正式な使用許可が下りたのだ。
どうやら本気で片付けるとは思っていなかったらしく、本来は出来たばかりのサークルに部室なんて渡せないところを教頭が猛烈に後押ししてくれたらしい。
「頑張って片付けてくれたからね、助かったよ」
そう言って現在自分の奥さんである〝あずにゃん〟の写真が入ったピンクの缶を大切そうに抱えてい持っていった。
楓「……あれを見つけたお礼なんじゃないの?」
その時の蓮池の言葉がとてもリアルだったが、建物自体は古いとはいえ2階建てを丸々部室として使えるのはかなり嬉しい。
ようやく広々とした部室を手にして俺達は浮かれていた。
三木先輩が部室に各自好きな物を置いていいと言ってくれたので、柊なんかは早速カートにビーズチェアを乗せて持ち込んだ。
教壇に立つ担任の顔を見ながら俺も部室で好きな時にアイスコーヒーとか飲めたらいいなと夢が膨らむ。
簡易のコーヒーマシンを買って持って来ようかと良からぬことを思い浮かべていると、
小夜「___ところでお前ら、夏休み楽しみたいなら期末ガチで頑張れよ」
4限の終わりに突然担任が含みのある言い方をした。
次が昼休みなのもあって少し落ち着きのなかったクラスが何となく静まり返る。
…………き、期末テスト!?
すっかり忘れていた俺は思わず担任の言葉に固まってしまう。
サークルが楽しいのもあるが、最近ようやく俺の作った弁当を蓮池がつまんでくれるようになり、勉強もせず料理に熱中していた。
今まで大した趣味の無かった俺はどうしても蓮池に美味いと言わせたくて、のめり込むよう毎日色んなレシピに挑戦した。
その甲斐あってついにこの間蓮池はチーズ春巻きに美味いと呟き、隣で頬をハムスターのように膨らます柊といっぱい食べてくれたのだ。
新作の手作りゴマ団子も今日の昼に食べて貰おうと気分は最高潮だったのに、肝心のテストの存在を忘れてしまうなんて……。
中間テストの時よりも遥かに勉強していない自覚がある分少し焦るが、今から頑張れば大丈夫だよな。
後で今回もサークルで勉強会ができないか聞いてみよう。
せっかくだから手に入れた部室でやりたいと考えながら、ふと以前は全てのことに否定的だったのに変われば変わるものだと自分でも驚く。
憂いが無くなったせいか、今は色々なことに挑戦してみたかった。
小夜「期末は追試でダメなら夏休み3日目から1週間補講。その後再テストしても基準点が取れないようなら留年か退学な」
……それだと蓮池が非常に危ないのでは?
担任も同じ気持ちなのか、視線を落とすその先にはいつも通り爆睡している蓮池の姿があった。
今回は追々試がなく即補講……補講期間は夏休みだしさすがに先輩も勉強会は開いてくれないだろう。
蓮池1人で受かるんだろうか?
出来れば追試で何とか終わるように皆に掛け合ってみよう。
余計なお世話かもしれないが、蓮池を留年させない謎の使命感が俺に生まれていた。
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夕太「でんちゃん追__」
楓「まだ決まってないほんと失礼だよね夕太くん」
夕太「追試で受からないとでんちゃんは退学なんだよ、本気で頑張らないと」
昼休みに真剣な顔で柊が担任から聞いた話を蓮池に伝えるが、相変わらずの危機感の無さで俺まで不安になる。
そんな気も知らず蓮池は話半分で聞きながら湯葉のチーズ巻きを頬張っていた。
俺の弁当のコロッケに箸を伸ばし大口でかぶりついた柊は、補講を受けてから追々試の流れで蓮池が受かるわけないと断定する。
夕太「それに夏休みは結構予定詰めてるからな、補講は困るよ」
雅臣「どこか旅行でも行くのか?」
前にフランスがどうのと言ってたのを思い出し、蓮池と予定を入れてるのかを尋ねる。
夕太「違うよ、ほら」
柊は自分のスマホのカレンダーを見せてくれて、覗き込むと綺麗にカラー分けされて夏の予定がぎっしりと詰まっていた。
その中でも、
雅臣「…SSC合宿」
楓「え」
まだ未定だとは思うが、一度も聞かされていないイベントを見つけて俺と蓮池は顔を見合わせる。
夕太「作詞作曲はそこでやっちゃおうと思ってさ!」
楓「この先輩Dayは?」
夕太「先輩と交流を深めようと思って、希望日!」
蓮池の質問にニコニコで答える柊のスケジュールは合宿以外にも本人がSSCでやりたいことでいっぱい埋められていた。
柊もSSCでの活動が楽しいのか、夏休みにまで活動をしようとしてくれているその気持ちは嬉しいが俺達はまだ何も聞かされていない。
希望を書いてるだけとはいえ、今までの様子から柊はやると決めたら必ずやるだろう。
これは今日のサークルでさりげなく先輩方に周知しておかないといけないな。
夕太「まぁでも俺もちゃんと勉強しないと危ないかな…中間の時より範囲多いよね?」
雅臣「そうだな…また勉強会をやりたいって今日言おうと思って」
楓「えー…またやるの?」
前回のスパルタ勉強会を思い出し早くもげんなりする蓮池に応援の気持ちも込めてゴマ団子を差し出す。
雅臣「今度は俺も教えるよ」
楓「どこポジだよそんな余裕ねぇだろ4位が」
夕太「でんちゃんこそどこポジだよ」
本気で言ったのに鼻で笑われてしまったが、ゴマ団子は受け取ってくれた。
雅臣「合宿とか楽しそうだろ?協力させてくれ」
確かに教えてやろうだなんてどこポジかもしれないが、俺は蓮池と柊と一緒に2年に上がりたかった。
それにサークルの皆で合宿や他の予定を楽しむのに、蓮池がいないとつまらないと素直に訴える。
バカに教える時間が勿体ないなんて2度とそんな風に思わない。
勉強会に参加したくないと思っていたのが不思議なくらい、今は先輩や柊達と過ごす時間が楽しみなのだ。
夕太「雅臣、俺もでんちゃんのケツを叩いて何とか追試を回避させるよ!」
柊が生き生きと素振りをする姿に、最近気がついたことがある。
叩いたり、ぶつかったり……。
雅臣「……柊、お前単に叩きたいだけだろ」
えー?と唇を突き出しとぼけ顔をした柊の手を押えて止めた。
どうもこいつは楽しくなると人にぶつかったりして調子に乗る癖があるんだよな。
楓「……ま、通信も__」
雅臣・夕太「「諦めるな!!!」」
既に諦めモードの蓮池に、俺と柊はつい声が被って笑ってしまった。
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