89.【見つけた宝箱】
蘭世「あーーーえらい、もう無理」
全ての物を中に運んでいい感じに再配置し終えると、梓蘭世が綺麗になった机に突っ伏すがその気持ちも分かる。
いくら涼しそうなこの場所でも蒸し暑さが無いわけじゃないし、しかも数時間動きっぱなしで体力という体力が削がれていた。
三木先輩は片付けが終わったと同時に報告と顧問に部室獲得の連絡を兼ねてすぐに出て行ったが、あの人は疲れてないんだろうか。
その間俺らは綺麗になったこの部屋でしばらく待機することになった。
相変らずエアコンは変な音を立てているが、フィルターも掃除した甲斐があって涼しくて天国だ。
夕太「でもめっちゃ綺麗になったしここで活動できるなら……」
ふっふっと含み笑いをしてまた何か企む柊と違い、蓮池はじっと本棚の中を凝視している。
雅臣「蓮池、どうした?」
楓「本とか資料とかだけ残しとけばいいんだろ?この大量の色違いの缶は捨てていいんじゃないの?」
蓮池が指さすのは棚のガラスから見える大きな長方形の色違いの缶だった。
元はお菓子の缶か何かだろうが、軽く10個以上あるから本棚の中のかなり場所を占領している。
楓「ここまできたら徹底的に片付けたいじゃん」
夕太「でんちゃん結局こだわるから……」
こんなん邪魔だよと睨みつける蓮池に呆れ顔の柊を見て、俺が裏まで捨てに行こうかと提案するが、
梅生「一応中見た方がいいんじゃない?何かさ、それ若干重かったし……」
雅臣「それもそうですね。運ぶ時なんかガサガサって音がしたし…」
俺の一言に、全員の視線が集まった。
……な、何だ?どうした急に。
夕太「……ガサガサ」
楓「ガサガサねぇ」
雅臣「な、何だよ」
蓮池と柊がものすごく顔を顰めるので不思議に思う。
どうせ紙や小物が入ってるだけだと思ったのに、2人が想像するものは何か違うようだ。
蘭世「……虫とかってことか?」
___む、虫!?
梅生「えぇ……」
蘭世「クソ暑くて中で繁殖してたりな」
リアルに想像したのか一条先輩が気持ち悪さに腕をさする。
せっかく綺麗にした部室でそれは流石に嫌なので、このまま直ぐに捨ててしまいたい衝動に駆られる。
蘭世「開けたらぶわーっと、な」
脅かすようにケラケラと笑う梓蘭世の胸元を一条先輩はやめろと肘で押した。
楓「キモ、鳥肌立ってきた、やっぱこのまま捨てよ」
蓮池はすぐに棚の扉を開けると次々缶を取り出して机の上に置いていく。
雅臣「待て待て、一応確認は……」
楓「じゃあお前が開けろよ」
止める俺に蓮池はほら、と差し出すので渋々受け取るが、虫の可能性があるのに率先的に開けたいわけがない。
しかし面白いのか梓蘭世が早くしろと急かすので、缶を手にした俺が開けざるを得なくなってしまった。
………まじか。
蓮池に柊、一条先輩は薄情にも虫に備えて入口まで移動し始める。
後ろで梓蘭世が背中を叩くので、意を決して素早く缶の蓋を開けて急いでその場を離れる。
恐る恐る見れば特に何かが飛び出したりしてくるわけでもなく……。
夕太「……何これ」
梅生「写真?」
俺から離れていた3人が何も出てこないと分かった途端にわらわらと近寄ってきた。
楓「卒アルといい写真ばっかだ…な、」
裏返しに入っていた写真を1枚取り出しひっくり返した蓮池の歯切れが何故か急に悪くなる。
雅臣「どうしたんだよ」
楓「何だこの陰キャが好きそうな写真」
そう言ってぴら、と俺に向けると、
雅臣「なっ……!!」
ひらひらしたミニスカートの女の子がローアングルで撮られた写真だった。
な、何だこれ!?
ガサガサと鳴った正体がこれなのか!?
蘭世「趣味悪ぃ…え、てことは全部…」
目の前のまだ閉まっている缶の蓋を梓蘭世が開けていくがどれも似たような写真ばかりが入っている。
夕太「うわー、えぐ。こっちはパンツ見えそうだし、こっちなんか衣装でも何でもないよ布切れだよ」
あまりにえげつない衣装を着たアイドルっぽい女の子達の写真に俺らは言葉を失った。
元は資料室だというのに何でこんなものが大量に置いてあるんだ。
夕太「へぇー、この派手なピンクの缶の中は全部…あずにゃん、って書いてあ__」
チラ、と視線を移す柊よりも早く梓蘭世はその頭をぶん殴った。
……俺も〝あずにゃん〟からつい梓蘭世を連想したけど本人を見なくて正解だった。
夕太「いってぇ!!あずにゃん先輩暴力だ!」
蘭世「誰があずにゃん先輩だ!!てか何だよこれ!!」
胸を撫で下ろす俺の横で言い合いを始める2人を横目に、それにしてもと1枚手に取る。
あずにゃんとサインの印刷された写真の女の子はピンクのフリルがたくさんついた衣装を着ていて、黒髪のツインテールでマイクを持ってウインクをしている。
少し古い感じの衣装が珍しい、いつの時代だと可笑しくて別の缶からも1枚取り出してみる。
楓「これだから陰キャは……」
芋が好きだな、といつの間に俺の背後にいた蓮池に写真を覗き見して馬鹿にされた。
芋とはお前な…と言おうとしたその瞬間、入口の扉が開いた。
三木「報告完了……ってお前ら何してるんだ?」
夕太「ミルキー先輩見てよこれ!!パンチラ写真ばっか!!」
何枚か写真を持って詰め寄る柊に、三木先輩は受け取った写真を満遍なく眺める。
うわ、三木先輩って意外とこういうの見るんだな……。
くだらないと一括すると思ったのも束の間で、
三木「巨乳じゃないなら意味が無い」
見る価値もないと柊に写真を返した。
…………。
え……っと……??
きょ、巨乳?
俺の聞き間違いか?
いや、出来ればそうであって欲しい。
蘭世「出た、三木さんの巨乳好き。…桂樹さんいなくてよかったぜ」
ゲーと舌を出して心底嫌そうな顔をする梓蘭世に、何それ教えてと柊が楽しそうに駆け寄る。
正直桂樹さんがそういう話をするのは想像がつくが、三木先輩は意外すぎて俺もつい気になり耳を傾けてしまった。
梅生「はは……定期的に論争してたんだよね、胸か尻か足かで」
一条先輩から品のいい顔に見合わない単語が出てきてギョッとするが、話を聞くと合唱部では定期的に3年の先輩達で好みのタイプについて真剣に論争を繰り広げていたらしい。
蘭世「1年に教えてやれよ三木さん、アンタのタイプ」
三木「俺はスレンダーな巨乳一択だ」
眼鏡のブリッジを上げて堂々とする三木先輩はそれ以外認めないとさも正論のように言い切るが、絶妙にかっこ悪い気がする。
夕太「ミルキー先輩って頭良いのにバカだな、スレンダーで巨乳なんかいないよ!理想高すぎ!」
姉ちゃんに言ったら殺される、と柊までもが呆れ顔だった。
男だから下ネタに心が動かされるのも分かるが、ちゃんと存在すると真顔で答える三木先輩に俺の中のイメージは崩れ去っていく。
精悍で真面目、そして男らしい三木先輩は何処へやらで、柊が見せる写真に対して次々辛口の点数をつけている。
三木「ちなみにリオはケツがいいと言って聞かない」
蘭世「ガクさんが足な、ほんとしょうもない」
要らない情報を提供しながら三木先輩と梓蘭世は2人で写真を物色しているが、
楓「じゃあそういう梓先輩のタイプは?」
蓮池がストレートに切り込んだ。
何の躊躇いもなく梓蘭世にタイプを聞く勇者はお前くらいのものだと妙に感心してしまった。
蘭世「えー?そんなん顔。まず顔だよ、顔一択」
しかし返ってきた最低の答えに俺は知りたくなかったと額を押さえた。
いいのかそんなことを言って、あんたは仮にも芸能人だろ。
三木先輩も巨乳なんか必死に漁ってないで止めろ。
夕太「えーじゃあ巨体の美人もイけるってこと?」
蘭世「却下」
雅臣「それは顔一択とは言いませんよ…」
柊の質問に即答した梓蘭世は俺の言葉が気に入らないのかすぐさまうるせぇな!と蹴り飛ばした。
男子校さながらの会話で部屋が一気に盛り上がる。
突然の女の子の話題に面食らいながらも、今までこんな会話に加わったことがない俺はとても楽しかった。
梅生「じゃあ何キロまでならいいの?」
蘭世「えー、今俺が52だから…」
普段静かな一条先輩もやっぱり女に興味があるんだと思うが、梓蘭世の体重を聞いたらそんなのどうでも良くなるくらい思わず目を見張った。
夕太「ご、ごごご52!?体重が!?身長は!?」
蘭世「何だよ、この前の健康診断では176?とか」
驚きのあまり大きな目が飛び出そうになってる柊が確かめようと梓蘭世を持ち上げようとしている。
…………う、嘘だろ?
俺とそこまで変わらない身長なのに10キロ以上違うだなんて信じられない。
前々から細いなとは思っていたがまさかそれ程だとは思わず、つい咎めるように三木先輩を見てしまう。
蘭世「俺は節制させられてねぇっての」
でも俺の内心はバレバレだったようで、梓蘭世にごん、と頭を殴られた。
楓「え、てことは何?理想のタイプに自分の体重以下とか入ってくる感じですか?」
女性は多少ぽっちゃりしてるものだろうに、蓮池が恐ろしいことを言う。
もしそんなだとしたら、梓蘭世の好みのタイプは自分よりも遥かに華奢で美人になるじゃないか。
それこそそんな人間はこの世に数人いるかいないかだ。
三木「……蘭世は随分好みがうるさいな」
蘭世「何も言ってねぇだろ!!てかスレンダー巨乳ばっか言い張るアンタに言われたくねぇよ!!」
反論する梓蘭世の言葉に思わず全員吹き出してしまって、一気に室内は騒がしくなった。
夕太「あずにゃん先輩は拗らせすぎ、ところで梅ちゃん先輩の好きなタイプは?」
柊が静かに微笑む一条先輩のタイプを聞くと、
梅生「ん?俺は特に……その時好きになった人かな」
お手本の様な回答に思わず小さく拍手してしまう。
しかし梓蘭世は気に入らないのか一条先輩をヘッドロックし始めるが、離してと無理やり押し退ける。
蘭世「はぁー?梅ちゃんだって美人がいいだろ?巨乳がいいだろ?」
梅生「そりゃいいに越したことはないけど…見ただけじゃ優しいかどうかとか分かんないし」
大切なのは中身だよ、と至極素晴らしい真っ当な意見に俺達1年は3人で大きく拍手してしまった。
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