五道転輪王
蓮が鬼録室を出てすぐに、五道転輪王の側近から鬼録が必要だと連絡が来た。
五道転輪王は亡者の最終審判を行う裁判官で、三回忌の審判で罪が定まらなかった亡者を裁くそうだ。裁量は亡者や遺族の思いが中心だが、最終なだけあって鬼録も参考にすることがあり今回呼ばれたのだろう。
ある亡者の鬼録を持ち鬼録室を出る。
鬼録を見ると、この亡者は自ら命を絶っている。精神が不安定の中、身内に対し暴力を振るってしまい自責の念から絶ってしまったそうだ。側近の話によれば本人は振るってしまったことを酷く反省しており、遺族も彼の状態をわかっていたからこそ、せめて死後は心身共に楽になって欲しいという願いが強かったそうで、裁判が決まったそうだ。
「亡者の鬼録をお持ちしました。」
「ありがとうございます。転輪王が確認後すぐお返しますので、裁判所内までお願いできますか?」
茜は分かりましたと返事を返し、側近の後ろを着いていく。ちょうど裁判中らしく、酷く憔悴した男が俯いたまま五道転輪王の前に正座している。
この数日間、鬼録室と閻魔殿で仕事をすることが多かった茜は、閻魔殿とはまた違う最終審判の重々しい空気感に飲まれそうになっていた。
「転輪王、鬼録が届きました。」
「ありがとう。」
優しそうな青年に側近が声をかけ、渡した鬼録を青年が確認し始める。青年ーー五道転輪王は暫くすると、こちらをちらりと横目で見てきたため、茜は頭を下げてから転輪王の傍に寄った。
「鬼録ありがとうございました。もう大丈夫です。」
「はい、失礼いたします。」
茜は転輪王から直接鬼録を預かり、側近の方へと帰っていく。審判の結果が気になるが、鬼録室の管理人の仕事は済んだため戻らなければならない。
そんな茜の様子が伝わったのか、転輪王に呼び止められ優しく笑いながらその場に残るよう言われた。
「あなたは刑場でも自分の罪にしっかりと向き合い、三回忌までの間、遺族の方々はーー」
転輪王の優しい声音が裁判所内に響く。転輪王から遺族の思いを聞いた亡者はその場で静かに泣き始め、言葉に詰まり何度も頭を下げている。
行き先が決まり亡者は側近に連れられ裁判所を後にした。裁判所内は転輪王と茜だけになり、茜は亡者の後ろ姿を見届けたあと転輪王の方へと向いた。
「貴重な裁判を見させて頂きありがとうございました。」
「いえいえ。新しい獄卒の方なら裁判の様子も気になるだろうと思いまして、ここに来たからと言って必ずしも極楽行きとは限りませんが、このような審判もあるのですよ。」
そのためにも鬼録は大事なのですと、転輪王は優しく微笑み、茜はありがとうございましたと再び頭を下げた。




