閻魔大王
張り詰めた空気の中、凛の後ろを静かに着いていく。
この先にあの有名な閻魔大王がいるのかと思うと、怖さと緊張で自分の心音がうるさくなる。
何が起きるのか分からず不安なまま歩き続けると、男女の言い争う声が聞こえてきた。
「凛が居ないなら裁判も休み!」
「ダメ!大王も見たっしょ?大王が休んだらあの亡者達どうすんのさ」
「蓮だってこの間、衆合地獄で女獄卒と遊んでたって聞いたぞ。僕だって遊びに行きたい!!」
「遊んで無いって!呵責の相談受けてただけだし」
よく見ると裁判所内で小さい女の子と、ガタイのいい男の鬼が言い争っていて誰も止められなくなっている様子。凛は何も言わずにニコニコしたまま歩いているが、その様子は背後からただならぬオーラを纏っていた。それを察したのか、小さい女の子がハッとして速やかに裁判所の高い席へと戻っていく。
「蓮、閻魔大王。お仕事はすすみましたか?」
「すすんだように見えるか?」
蓮と呼ばれた男の鬼は凛のオーラを気にもせず、ため息をついて片手で頭を掻き毟ってみせた。蓮が男の鬼ならば、どうやらこの小さい女の子が閻魔大王らしい。閻魔大王は席に座って足を組み、傍らに置いてあった巻物に目を通し始めている。
ふぅと凛が小さくため息をついてから閻魔大王へと声を掛けた。
「またいつもの怠け癖何でしょうけど…それは後にして、今はこの獄卒についてお話よろしいでしょうか?」
「獄卒??」
気配だけで逃げていた閻魔大王は、凛の後ろにいた男にまでは気が付かなかったのだろう。怪訝そうな顔をして巻物から目を逸らし、凛と男の方へと向いた。
黒く長い髪を頭のてっぺんでひとつに結い、赤い目のとても閻魔大王には見えない少女。僕とは言っていたが顔立ちや声、凛と並び姉妹だと言われても頷ける容姿をしている。
「変わった獄卒だね。どこで拾ってきたの?」
閻魔大王の言葉に、凛が先程までの経緯を話し始める。転生や記憶が無いこと、自分のことなのに凛に頼りっぱなしで申し訳なさを男は感じるが、凛の方が状況をわかっているのだから仕方がない。
閻魔大王に男の処遇を求めに来たことを告げると、簡単じゃないか!と閻魔大王は得意げにその場に立ち上がる。
「僕に着いてくるがいい!」
そう言うと颯爽と裁判所内から出て行ってしまい、男は慌てて閻魔大王の後を追った。




