管理人
赤黒い空と鬱蒼と覆い茂る黒々とした竹林、その真ん中に伸びる苔むした石畳の階段。
遠くから亡者の呻き声が聞こえ、まるで怪談のような雰囲気が漂うが、目の前で嬉しそうに明るく鼻歌を歌う少女によってその雰囲気もぶち壊しになっている。
少女は腕をおおきく振り着物の袖をなびかせて階段を登っていき、数段登った先でくるりと後ろを振り返った。
「ちょうど良かったよ!亡者が増えて大変なんだ」
「…はぁ」
少女の後ろにいる男は困惑した様子で返事をし、階段の先に目を向けた。
閻魔殿から遠くないこの場所、竹林に囲まれひっそりと佇む寺院のような建物。門に掲げられた札には鬼録室と書かれている。
鬼録室ーー俱生神が亡者の名前や生前の善行、悪行を漏らすこと無く記録した「鬼録」を保管している場所だ。
俱生神とは人が生まれると同時に生まれ、両肩に乗り全ての行いを記録する女神と男神のことを言う。
右肩に悪行を記す女神 同生、左肩に善行を記す男神 同名。彼等は亡者の裁判の際に、鬼録していた内容を報告する役目だ。
先程少女が言った通り、昔に比べると昨今は亡者が増え、裁判は渋滞が当たり前、鬼録室の整理も追いつかなくなっていた。
「僕だけじゃなくて他の十王達も鬼録を確認する機会が増えたからさ、その度に部下達に鬼録を探してもらうのは大変だったから助かるよ」
俱生神は基本、閻魔大王に報告後 役目を終え次の役目のために転生を迎える。
そのため閻魔大王の後に控えている他の十王たちの元へは、鬼録が必要になった時に閻魔大王の部下達が報告に行くことになり、仕事が増えてしまう。
「僕の裁判で全て済めばいいけど、シラを切り通す亡者がいるとどうしても鬼録がないとね〜」
「……それで、俺はここで何をすれば?」
少女ーー閻魔大王は鬼録室の門の下で腰に手を当てると、胸を張って得意げに下段に立つ男の方を見た。
「『特別』な君にはこの鬼録室の管理人になって欲しいんだ!」




