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6−5

「………ん??」

この状況には、必死の形相で突入した3人も目を丸くして周囲をキョロキョロと見回した。

アレルの手は何かを受け取ろうとしたような形になっており、その足元には濡れた原因であろう液体が溜まり、何かの破片のようなものが散らばっている。

「み、みんな何してるの?」

アレルは怒りや驚きやちょっとした喜びのような、あらゆる感情でごちゃ混ぜになったような顔をして問いかける。その向かいに立つサイサリスが、キョトンとしている3人を見て軽く笑った。

「おいおいおい、呼び鈴にしちゃちょいと過激じゃないかい?」

「えっ…お、おう……」

ジュードが慌てて猟銃を背中に隠すと、アレルがあっ、と声を上げる。

「何か飛ばしたのジュードだったの!?危ないじゃん!俺当たるところだったよ!」

「うお、マジか…すまん」

「ハハ、俺が魔法で防いでなけりゃ魚人が蜂の巣になる奇術が見られたのになァ」

冗談を織り交ぜるサイサリスに、ジュードが気まずそうに顔を伏せた。そしてその後ろにいたミランダに気付き、パッと顔を明るくした。

「ミランダさん!町に来てたの!?」

「む、う…まあ……」

アレルの明るい笑顔に対し、聞いていた状況と危機感があまりにも違いすぎることに困惑するミランダ。どういうことだ、とフレッドに目配せしようとしたが、当の本人は険しい顔でアレルを見ている。

「……っ」

「フレッ…」

「お前!あんな消え方したらそりゃ拉致されたって心配にもなるだろ!」

2人の様子をよそに、ジュードは吠えるようにアレルに訴えかけた。

「消え…ってなんのこと?俺、痛みで気を失って倒れたところをサイサリスさんに助けてもらったんだよ?」

「あ?」

「ジュード、遠くから見てたから見間違えたんだね」

あっけらかんと笑いながら言うアレルは、サイサリスの事を疑うという思考はないようだ。本当にその状況だったならば、サイサリスより先にジュードが助けていたはずだということに気付いていない。

「しかしよ、神父さん。アンタの銃のせいで溢れっちまった薬はどうしてくれる?」

「あっ、そうだよ!今痛み止めもらおうとしてたのに!」

朝の出来事が尾を引いているのか、ジュードに対して責めるような口調で言う。だがジュードの視線はサイサリスを捉え、疑いの色を増していく。

「…ッバカ!こっち来い!」

突然フレッドがアレルに駆け寄り、そのままジュードとミランダのもとに戻った。アレルを庇うように立ち、サイサリスを強く睨んだ。彼はその様子を、鋭い視線で眺める。

「…サイサリスさん、その瓶…」

重々しく口を開き、少し言い淀む。小さく息を吐いてキッと睨み、意を決したように声を出した。


「その瓶は、こいつをここに連れ込んで飲ませる予定だった毒薬ですよね」


サイサリスはぴくりと、わずかに指先を震わせた。

その場が凍り付き、全員の視線がフレッドに注がれる。

「…フレッド?」

「おいおい、言い掛かりにしても酷かァないか?見分けがつかないからって毒薬はないだろ?」

あくまでしらばっくれるつもりのサイサリスの表情はほとんど分からない。しかしその声は微かに怒りの色を滲ませる。

フレッドは手を強く握りしめた。怯まないよう、自分を鼓舞するかのように。

「オッサン、ミランダさん!そいつ連れて逃げ───」

「おっとそりゃ困る」

その言葉を聞いたミランダがいち早くアレルとジュードを抱えて入り口へ向かおうとした。だが、シュルシュルと黒光りする蛇が素早く集まり、入口を塞いでシャアッ、と威嚇した。鱗と牙がギラリと光り、誰一人として通すまいと立ちはだかる。

「ッ!!」

「もうちょっとだったのに酷ぇなあ、フレッドよ」

へらへらと笑いながら、蛇が這うようにズリズリとサイサリスが近付いてくる。

「俺は、魚人族の身体があれば親父さんの治療薬が作れると教えただけだ。その兄ちゃんに友達面して近づいて、騙してここに連れ込もうとしたのはお前さんの考えだろ?」

「!?」

サイサリスの言葉に、3人の視線が一斉にフレッドに向いた。

「お前ッ本当か!?」

「…それは…っ」

ジュードの深い怒りを混じらせた声に、フレッドが肩を震わせた。特にアレルのことを気に掛けているジュードは眉間のシワを一気に深くする。ミランダは哀れみを含んだ顔をしており、アレルの顔は恐ろしくてとても見られず、顔をそらしてしまった。

「兄ちゃんもお人好しが過ぎらぁな。此奴の事を一瞬とも疑わなかったのか?」

サイサリスがケタケタと嘲笑する。その笑いはアレルに向けられているはずなのに、自分のことのようにフレッドの胸がじくりと痛んだ。

「…本当です。まだ地上に来たばっかみたいだったし、親しい人もそう居ないだろうし…最初は罪悪感なんかなかった。父さんが助かればそれで良かった」

「フレッド、やっぱり…」

アレルの声。木陰で話を聞く、といった時の彼の顔が浮かび、唇が震える。あの時打ち明けていたら、なんて後悔は今更すぎた。

「でも、俺は…もうコイツに嘘をつきながら一緒に過ごすのは嫌だ!ちゃんと…っアレルと、ちゃんとした友達になりたい!」

腹のあたりをぎゅっと掴んで、押し出すようにして言葉にする。サイサリスへの、苦し紛れの抵抗だった。

「ふむ、成る程なァ。お前さんの考えはよォく分かった……が、だ」

フレッド達が逃げられないことを良いことに、サイサリスは悠々と椅子に腰掛けて脚を組む。

「つまりお前は、親父さんのことは見捨てるって事で良いんだな?」

「…………」

ギリ、と奥歯が軋んだ。

アレルを裏切らないという選択は、父の治療薬を諦めるということ。フレッドの心中を嘲笑うように、サイサリスがにんまりと笑う。

「そうだよなァ、親父さんも大事だろ?まさかこのまま見殺しにするつもりか?」

「…み、殺し…」

「耳を貸すな!」

動揺するフレッドの前に、ミランダは低く唸りながら庇い出た。

「黙って聞いていればしゃあしゃあと…!何様のつもりだ!!」

牙をむき出しにして憤るミランダ。今にも飛び掛からんとする迫力に対しても、サイサリスはおお怖い、と冷ややかに笑うのみだ。

「アンタ、名前からしてミランダテイラーだろ?確か本店のオリビアテイラーの店主が事故で亡くなったんだっけか。

フレッドに同情してるみてェだが、此奴はアンタと違って自ら…」

「黙れッ!!大切な人が危険な状態になって、必死になっている人の心が分からんのかッ!!」

「必死になってりゃ、他人を騙して殺そうとしても妥当だと?そりゃ随分道徳的な理論だなァ」

「貴様…!!」

いよいよミランダが飛び出そうとすると、その前にジュードが躍り出て猟銃を構えた。

「やめろミランダさん!職人の手を汚すんじゃねぇ…俺がやる!」

「神の使徒こそ教えに背くべきではないだろう!」

「あーーーもう我慢ならねぇ!」

「「こいつは許さん!!」」

2人が揃ってサイサリスに襲いかかる気配を見せ、サイサリスも応じるように蛇を一斉に纏い迎え撃とうとしている。

「やれやれ、血の気の多いのばっかりだなァ」

蛇たちが金色の瞳を輝かせて、まるで久しぶりの肉だと言わんばかりにシャアッと大口を開けた。

そんな渦中で、アレルは大きく息を吸い込む。


「みんなストーーーーップ!!!」


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