6−4
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フレッドはフロワ、パン屋、マーグホフトのもとへ訪れ、アレルの行方を尋ねる。そしてどこに行っても、「さっきまで居た」と返されて消沈するという流れを繰り返していた。
ただ、シャロという少女が寄越した情報はすべて正しいらしい。しっかりアレルが辿った道取りを追いかける形で行動できており、距離は確実に縮まっている。
「何者なんだアイツ…」
汗を拭ってひとりごちた。その心中で、大きな懸念が蜷局を巻く。
「あとは…サイサリスさんのところだ」
彼に会う前になんとか止めたかったが、手遅れになってしまったことにフレッドは強くその手を握った。
ポケットから時計を取り出す。長針が5分を指しており、フレッドは忌々しげに舌打ちした。
サイサリスの部屋は、やたらめったらと来客がないように扉を通れる時間が決められている。日中は0分、30分から3分間、夜は0分のみの1分間。それ以外の時間は扉自体が魔法で隠され、魔力の高い者であればともあれ、魔力の少ない者は扉を見つけることも叶わない。そして出現する場所もその日その日で微妙に変わるため、フレッドが彼に合う時は彼自身からその都度教えてもらっていたのだ。
幸いまだ日中ではあるが、あと20分の待機時間がある。しかしそもそも、アレルがサイサリスと接触しているかどうかも分からない。
(でも…考えてる余裕はない!)
広場の方へ駆け出した時、何か大騒ぎしている者がおり人だかりが出来ていた。
「こんな時に……」
「誰か、魚人の坊主を見たやつは居ねえのか!?神に誓って正直に教えてくれ!」
その声に聞き覚えがあり、人だかりの中を覗く。その中心に、猟銃を掲げたジュードが立っていた。周囲の人々は奇異な目でそれを見て、「テロか?」「衛兵呼んだほうが」などと耳打ちしているようだ。
「……っ、どいて!」
通り過ぎようかと思ったが、人手は多いほうがいい。人だかりを掻き分けて進み、ジュードの猟銃を掴んで降ろさせた。
「うおっ!?おま…確かフレッド!?」
「オッサン一緒に来て!アレルを助けに行く!」
「…居場所知ってんだな、分かった!」
フレッドの眼差しに事情を察して、ジュードはフレッドを抱え上げた。人混みの前に立つと、群衆は関わりたくないと言わんばかりに怯えた顔でサッと道を開ける。
「どいたどいた!騒がせたな、失礼!」
それをいいことに、ジュードはドタドタと中心地をあとにする。少し離れた場所でフレッドを降ろし、銃を担ぎ直した。
「道を歩いてた最中に、蛇の群れみたいなのに襲われて居なくなったんだ。多分あのサイサリスとかいう野郎のとこだよな?」
「うん、案内する。付いてきて」
フレッドはジュードを誘導しながら時計を見る。長針は15分を指しており、まだ扉は現れていないだろう。
「クソ……」
路地裏には到着したものの、やはりそこに扉はない。あと15分、何もできずに待つしかないのか。
「おい、何してる!?アレルは…」
「うるさい!ここなんだ!でも、まだ時間が…」
「時間?」
急かすジュードに、フレッドは扉の制限に関して伝えた。ジュードはなるほどな、と呟きながら歯軋りする。
「俺も魔力はそう高くねえ。…ッ時間を待つしかねえのか…!」
「魔力が必要なのか?」
立ち尽くす2人の背後から、ぬぅっと大きな影が覆い被さった。
ジュードはバッと振り向き銃を構え、その姿を認識すると顔をサッと青くする。自分の身長より遥かに大きい、フードに身を包んだ人物に警戒の色を強めた。
「な、な、なっ何だお前!!」
「………」
フードの人物は慣れた反応のようで、はぁ、とため息をつく。わざと猟銃の銃口を握って下げさせると、フレッドの方に向き直った。
フードの下に覗く赤い瞳に、フレッドが目を見開いた。
「ミランダさん!」
「ミランダ………ミランダっ!?」
「昨日ぶりだな。何があったか教えてくれ」
フードを取り去ってふわふわとしたたてがみを揺らし、赤い瞳が親しげに緩んだ。間に挟まれたジュードがミランダテイラーの主の正体に驚いているのを気にも留めずに、フレッドは信じられないという面持ちで彼女を見ている。
「何で…」
「爺さんがやたら焦りながらうちに来たんだ。あの小僧が危ないとか…怪しい奴に捕まったんだったか?そいつは?」
ミランダはキョロキョロと辺りを見回して元凶の人物を探している。
アレルの危機と聞いて、嫌な思い出が多いであろう町に降りてきてくれたのか。フレッドは震える唇をきゅっと結び、顔を上げた。
「アレルを攫ったのはサイサリスって人で…」
なるべく簡潔に、2人に状況説明する。彼がどんな人物なのか、何が目的なのか。
彼から聞いた、『魚人族の心臓は万病に効く』という噂。アレルは今、命を狙われているのだということを。
「獣人のミランダさんなら、サイサリスさんの部屋の扉を見つけられるかもしれない。魔法で隠された扉がないか探してくれませんか?」
「分かった」
静かに頷いたミランダは、姿勢を低くして鼻をひくつかせる。路地を進みつつ、目を凝らして周辺を注視する。
すると突然ミランダが左を向いて何かを掴んだ。
「此処だな。巧妙に隠している…そのサイサリスという奴、なかなか手強そうだぞ」
「…はい」
今まで近くで彼を見てきたフレッドは、その恐ろしさを知っている。認識できただけでも、サイサリスは30匹以上の蛇を操り、その目を通してあらゆる物を監視している。そして今も、蛇の群れを操ってアレルを拉致した。扉にかけた魔法や生き物を使役する魔法、それだけでも彼の実力を物語っている。
「やはり開かないな…どうする?」
「 通れるようになるまで、まだ10分くらいはあります。ここからは、待つしか…」
「えぇいまどろっこしい!」
2人が話しているところに割って入ったジュードは、ドアの蝶番部分に銃を向けた。
「ミランダさん、下がってろ!」
「な、銃で扉を壊す気か!?」
「待てってオッサン!中のアレルに当たったらどうするんだよ!」
「大丈夫、日々の善行は神の目に留まってる!アレルにもご加護があるから当たらんはずだ!多分な!」
確証もないのに自信ありげに言いながら、ジュードは上の蝶番に2発、下にも2発と止める間もなく弾を放った。
「うわーッ!本当に撃った!」
「魔法で封じられている扉を物理的にこじ開けるとは…」
「うるせぇ突撃だ!!」
叫びながらジュードが蹴ると、いとも簡単に扉は部屋の中へバタン!!と倒れる。そのまま無遠慮に突入するジュードに続いて、戸惑いながらもフレッドとミランダが後ろに続いて部屋に入った。
「アレル無事かッ!?」
叫ぶようにして入ったそこには─────
何故かびしょ濡れになったまま、椅子に座って固まっているアレルがいた。




