6−3
* * *
「はあっ、はあっ! やっと…着いた……」
フレッドが息も絶え絶えに鳴りながら、教会に到着した。
ここに来るまでに、広場や周辺であらゆる人に「ジュードという神父がいる教会を知らないか」と尋ねたが殆どの者が知らないと答えた。到着して、外壁があまりにボロボロ、そして蔦だらけになっているのを見て納得する。誰もこんな辺境地に訪れないのだろう。
「あ……アレルに教会の場所聞いときゃよかった…」
忌々しげに呟いて、教会の扉に手をかけた。
「……っぁ、アレル!居るか!?」
震える声で呼び掛けた。バタン、と音を立てて扉を開くも、蝶番がキイ、と立てた音が静かな聖堂に響く。奥の部屋なども探しながら声をかけたが、ジュードすらもいないようだ。
教会から出ると、悔しげに頭をガシガシと掻いた。
「やっぱいないか…クソ、もう手掛かりが…」
「アレルくんたちを探してるの?」
途方に暮れるフレッドに飛んできた声は、教会から少し離れた茂みの中。木々の中薄闇にふさわしくない、軽く弾むような声だった。
「…誰?」
「ふふ!アレルくんが今日何処に配達に行くのか、シャロ知ってるよ!」
「は?」
その茂みを見つめていると、奇抜な色の布が縫い合わされた猫のフードがひょこっと顔を出した。
「教えてあげる!」
フードの下で、明るい声がにまっと笑った。
* * *
「ありがとねえ、助かったよ。またご飯食べにおいでね〜」
「うん、またビーフシチュー食べに来るね!」
一方アレルはマーグホフトへの届け物を終え、ララティップを後にするところだった。
アレルはジュードに習って書いたメモを広げ、マーグホフトの名前にチェックを付けた。
「さて…あとはサイサリスさんのところか」
メモを畳んでポケットに入れると、ちらりと後ろを振り返る。数メートル離れた場所からジュードがこちらを睨むように見ながらついてきているのが見えた。目が合うと「見ているぞ」とジェスチャーで表し、アレルは呆れの表情でため息を付いて背を向ける。
「信用してって言ってるのに、もう…」
アレルは脚を軽く曲げ伸ばしして駆け出した。
まだ時々脚がズキンと痛む。その間隔は、出発した時からどんどん短くなっていた。
「…サイサリスさんのところ行く前に、マロさんの所に寄った方がいいかなあ」
ぼんやり呟く言葉に、草木のざわめきが遠くで鳴った。
以前見てもらった際に、「不調があったらすぐ来いよナ。お前は特例中の特例ナんだから、何が起こってもおかしくナいんだぜ」と忠告されていたことを思い出す。
立ち止まって足首を回すと、一際強くズキン、と痛んだ。
「いたた…薬もそろそろ無くなりそうだったし、やっぱ診療所に行こっと」
走るのをやめ、アレルは脚を引き摺るようにして診療所の方向へ向かおうとする。しかし痛みが徐々に強くなり、とうとう近くの壁に手をついた。
「いッ……!」
ズキン、ズキンと痛みの脈動が強くなる。歩く力も無くなり、その場でゆっくり膝をついた。
流石にジュードに助けを求めようと振り返ろうとすると、直ぐ側の路地裏の闇から声がした。
「お兄さん、お困りかい」
それと同時にシュルリ、と何かが這う音が聞こえた。顔を上げて反応しようとした途端、視界が黒いもので覆い隠されていく。シュルリシュルリと音が徐々に大きくなり、やがて夜のような闇に包まれた。
「アレル!!」「ホウッ」
ジュードとウラ爺の声が聞こえるが、答える間もなく闇に包まれ、やがて意識もぼんやりと滲んでいく。
「フン」
その様子を空から遠巻きに見る影。鍔の広いとんがり帽子のレースから覗く瞳は、蛇に飲まれていくアレルを憎々しく見つめていた。
「さあ、見届けてやろうじゃないか。お前が憧れたこの世界で、お前がどんな風に終わっていくのかをね」
片手に掲げられたグラスに湛えられたワインが、まるで血のように赤黒く輝いた。




