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5−5

* * *



アンブラン広場まで戻り、路地裏で蹲っていた。アレルと顔を合わせたくないが、平気な顔で父の前に帰れるとも思えなかった。

夕陽が路地を照らし身体を焼いてもそのまま過ごしていると、いつの間にか夜になっていた。


「よぉ、ご苦労さん」


上から降ってきた声に顔を上げると、サイサリスがにんまりと笑いながらこちらを見下ろしている。顔を上げた時に差した夕陽の残光に、彼の肩に見える蛇がサッと袖に隠れた。

「おっと、気を付けてくれよ。蛇は眩しいのが苦手だって知ってんだろう?」

「サイサリス…さん…」

「蛇が見てたぜ。えらく仲良くなっちまって」

サイサリスはフレッドの前にしゃがみ、優しく頭を撫でた。

「可哀想になあ。友達になったと思ったら、ソイツを犠牲にしないと親父さんを治せないんだもんなあ」

「……う、………」

誰にも打ち明けられない内情を、全て知るサイサリス。この状況の要因の1人とはいえ、労うような言葉に涙腺が緩んでしまう。

「…うぅ……」

「なあフレッドよ。俺ぁ、もう今のお前さんを見てるのが辛いんだ」

「……さ、サイサリスさ………」

意図せずポロポロと涙が溢れる。そんな立場にない、と思い隠すように眼鏡をずらし、袖で拭った。

サイサリスが愛おしげな瞳でフレッドを見つめ、よしよし、と声をかけながら頭を撫で続ける。


「だからよ、もう終わりにしような」


不穏な一言に、一瞬息を忘れた。

サイサリスの表情は変わらず、撫でる手もそのまま言葉を続ける。

「大丈夫だ、お前さんにゃもう関わらせねえよ。あんなに喧嘩しちゃ、もう此処に連れてくるのは無理だろう?」

「は…?で、でも」

「お前さん達のやり取りをたっぷり観察させてもらったおかげで、彼奴が人を疑わない脳足り……おっと、お人好しだって事が分かったぜ。これで俺でも連れ込めらぁ、ありがとうな」

「え、……ぁ、あの……」

「……ああ親父さんのことは心配すんな。薬が出来たらちゃんと分けてやらぁ」

「ち、違う…何する気なんですか」

焦りに口が震え、サイサリスの服の袖を掴む。直ぐ様振り払うようにして手を退けられ、彼の瞳が歪に笑った。

「なぁんだ、最初からこうすりゃ良かったんだよなあ。嗚呼、楽しみだ…」

「ま………待って!!」

引き留めようとするが、サイサリスの影が路地の闇に溶けていく。フレッドに張り付いていた蛇もぽとりと地面に降りると、サイサリスと共に消えていった。

路地裏に静寂が戻る。フレッドは呆然とその場に立ち尽くし、震える手を胸の前で握りしめた。

「……ヤバい…どうしたら……!!」

焦りが身体を巡り、居てもたってもいられず走り出した。




* * *



「おーい、まだ寝てんのか?いい加減起きろー」

次の日の朝、アレルはジュードに起こされてゆっくりと起こした。

「ジュード…」

「おす、おはよう。…元気、ではねえか」

食卓へ誘導しながら、ジュードが心配そうにアレルを見つめる。

「珍しく元気がねえと思ったら、フレッドとか言ったか?あのガキと喧嘩ね。

友達と喧嘩なんざ、若いとよくあることだよ。とっとと飯食って、仲直りしてきな」

「…うん……」

優しく笑うジュードに、アレルは生返事を返す。笑って取り繕うとしても、上手く顔が動かなかった。目の前に出された食事にも手を付ける気にならない。フォークに触れる指が、その金属よりもずっと冷たく感じる。


───お前さえ居なかったら、こんなに悩まなくて済んだんだ!!


フレッドの悲痛な叫びが頭の中でこだました。

「………」

「あーもう!お前が元気ないと……こう……なんか気持ち悪いんだって!ほら、食え食え!」

ジュードが慌てて不器用ながら励ましていると、教会の扉がコンコン、と叩かれた。今日もウラ爺が荷物を持ってきたようだ。

ジュードが扉を開けて、ウラ爺を中に通す。鞄から乗り出した荷物を並べて、アレルに確認するように促した。ひとつひとつ手にとって宛先を声に出して確認していく。

「今日もフロワさんとこと…広場のパン屋と……あれ」

見たことのない名前に、アレルの手が止まった。

「ここは初めてだな。


薬屋のサイサリスさん、か………」



続く

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