5−4
2人は彼女に見送られながら小屋を後にする。並んで歩きながら、アレルはフレッドの顔をのぞき込んだ。
「ミランダさん、良い人だったね!」
「…」
その呼びかけにも応えず、フレッドはぼんやりと歩いている。
まだ寝不足が尾を引いているんだろう、と思ったアレルは、フレッドが躓いたりぶつかったりしないか気を配りながら隣を歩いた。
一方のフレッドは、つい数十分前のことを回想していた。
小屋から出る時、フレッドがふと振り返ってミランダに尋ねた。
「…その……親しい人を事故で亡くすのって、どんな感じなんですか」
「ん…?」
その質問に、やや不可解そうに目を細める。しかし問い返すことはなく、ミランダは空を見上げて小さく息を吐いた。
「…悲しいさ。何年経っても」
「…」
「きっと一生その感情は消えないし、受け入れもできないよ。その感情と一緒に生きていくんだろうと思っているさ」
ミランダの寂しそうな声色に、フレッドはきゅ、と口を結んだ。
「…ありがとうございます。失礼なことを聞いてすみません」
「…」
ミランダは何かを察したのか、フレッドの頭をポンと優しく撫でた。
「お前も、作業の邪魔をしなければ時々来ても良いぞ」
「…はは」
フレッドはぺこり、と小さく頭を下げ、アレルとともに小屋を離れた。
(悲しみは一生…か……)
ミランダの言葉を思い出しながら、ちらりと隣を見る。フレッドに気を使っているのを隠してるつもりになりながら、素知らぬ顔で歩くアレルに目をやった。ぱち、と目が合うと得意の笑顔を返してくる。
(…コイツをサイサリスさんに差し出さないと、父さんは…)
フレッドは手を腹の前でギュッと握った。
(でも……)
これまでの出来事が勝手に頭の中で反芻される。「友達になろう」と誘った時の嬉しそうな笑顔。美味しそうに食べ物を頬張る姿。噴水に驚いて突っ込んでいく姿。タペストリーに見とれる姿。
「友達になれてよかった」と笑う姿。
(……できない………)
噛み締めた歯がギシリと音を立てた。それに呼応するように、背中で蛇がもそりと蠢いた気がする。
サイサリスの所へ誘導するために近付いたはずだったのに、アレルを犠牲にすることに抵抗を覚えている。それほどまでに、彼といる時間に浸り過ぎていた。
「……俺は…」
「フレッド、危ない!」
アレルの声にハッと前を向く。しかし、目の前の風景に大きな異変はなかった。
「は…?」
「ほら、足元!」
アレルが指差す先は、フレッドの爪先。蹴飛ばしてしまいそうなほど小さな石ころがちょこん、と転がっていた。
「………何だよ…」
「石に躓いて転ぶと怪我するんだよ!」
フフン、と自信満々な顔で胸を張る。この程度で転ぶわけない、と伝えるのも億劫で、フレッドは石を大袈裟に避けた。
再び歩き出すと、アレルが何やらニヤニヤし始める。
「フレッドには助けられてばっかりだからさ、俺も何か役に立ちたいなって。帰り道は安心してぼーっとしてていいよ!」
「……」
「あっ、何ならおんぶする!?俺の背中で寝ても良いよ!」
呑気に笑いながら進路上に躍り出るアレルに、フレッドの苛立ちが溢れた。
バキッ!!
思わず、顔を力いっぱい殴りつけてしまった。
「いッ………たぁ!!」
転けそうになりながら立て直し、何が起こったのかとこちらを見るアレル。その視線に、フレッドの口から言葉が漏れ出していく。
「何なんだよ!!人が悩んでるのに呑気な顔しやがって…!!」
「ふ…フレッド?ご飯のことそんなに真剣に…」
「違ぇよバカ!!」
この期に及んでまだ自分の言ったことを真に受けているアレルに、自分の醜さが強調されるような気がした。
「〜〜〜ッ……お前が…」
父が病気にならなければ。
「お前が……!!」
サイサリスに出会わなければ。
「お前がッ!!」
自分が、優柔不断でなければ。
「お前さえ居なかったら、こんなに悩まなくて済んだんだ!!」
腹を抱え込み、叫ぶように吐き出した。
俯いた姿勢から、顔を上げられない。アレルの顔を見るのが、とても恐ろしかった。
「……ごめん…」
アレルが、絞り出すように言う。いつも弾むような明るい声が、震えていた。
「フレッドが…何を悩んでたのか分からないけど……俺が原因なの?」
「………っ」
これ以上、彼と向き合うのが辛い。
フレッドは堪らなくなって、アレルに背を向けて走り出した。
「フレッド!…気を付けてね!」
こんな状況でも自分を気遣う言葉を投げる彼に、惨めになる。自棄になりながら走り続けた。




