4−4
「それならそうと言ってくれればよかったのに!」
アレルとフレッドは、ミランダテイラーへの道を歩きながら話していた。
「朝ごはんのこと考えてて寝不足になったなんて、フレッドも結構食いしん坊だね〜」
「はは…」
乾いた笑いがフレッドから漏れた。
言えなかった。
というか、休んでいるところにウラ爺が降りてきて「ゴロッホゥ」と一言、休み過ぎだと警告しに来た。アレルは慌てて立ち上がり、歩きながら話そうと提案してくる。
完全にタイミングを失い、誤魔化すためになんとも情けない嘘をつかざるを得なかった。
「でも、睡眠は本当に大事だよ。ミランダさんのところ、もう少しで着くから、俺が荷物渡してる間に少しでも寝なよ?」
「あー……はは、ありがとう…」
彼の気遣いがチクチクと胸を刺す。アレルはフレッドが話したことを一字一句真実だと思いながら話しているのだ。
アレルはこちらに声をかける度、快晴の海のごとく濁りのない綺麗な瞳を向けてくる。
(…俺、何やってんだろう……)
その純粋さを利用している事実が、今になって重くのしかかる。背中が重い、息苦しい。人を騙すのがこんなに苦しいとは思ってもみなかった。
しかし、背中でサイサリスの蛇がもそりと蠢く。まるで「途中で投げ出すことは許さない」と圧をかけられているような気がした。
「あっほら!あれじゃない!?」
ぼんやり考えている意識に、再びアレルの声が飛び込んでくる。
ゆっくり顔を上げ、視界に入ったそれに、フレッドが眉をしかめた。
「…お前ミランダテイラーに行くって言ってなかったか?」
「そうだよ。ウラ爺達にもらった地図のとおりに来たから、間違いないよ!」
「………あれが、ミランダテイラー?」
フレッドの視界の先にあったのは、小さな小屋だった。
木造りではあるがやや薄汚れており、窓もあるもののすべてのカーテンがピシャリと閉められている。窓際に割れた花瓶が置かれており、それすら埃と蜘蛛の巣に覆われているのが遠目でも分かった。
「ミランダテイラーって、あの有名な仕立て屋だろ?それが……これ?」
「俺はよくわかんないけど、何か変?」
「……」
何かというか、全てが変だ。
依頼から納品に数年かかるほどたくさんの人が利用しているという噂や、人里離れた森の中に建物があると聞いてさぞ大きな屋敷で製作しているのだとばかり思っていた。それが本当に、こんなにこじんまりとした小屋で仕立てをしているのだろうか。
「お前…騙されてないか?」
俺が言うのもなんだけど、という言葉を手前でしっかり飲み込んで伝える。アレルはうーん、と首を傾げて、ポケットから紙を取り出した。
「……ちゃんと合ってるよ。第一、ウラ爺がずっと配達に来てたみたいだし…間違ってたらさっきみたく降りてきて教えてくれると思うから」
そこまで聞いてなお疑わしいが、アレルは地図をすっと仕舞い込んでよし、と腕を捲った。
「それじゃあ荷物を届けてくるから、フレッドはここで休んでて!」
「あ、おい!」
フレッドの静止も聞かずに、行ってきます!と元気に小屋へ向かっていく。ついていこうかとも思ったが、上空にいるウラ爺からの視線をひしひしと感じたため、大人しく近くの木陰に座った。
「……ふぁあ……あいつ、本当に大丈夫かな…」
欠伸をしながら呟くが、心配よりも眠気がニョキニョキと顔を出しはじめた。
アレルの性格を考えれば、用が済んで自分だけ置いて帰ることはないだろう。木に身体を預けて、フレッドはゆっくり目を閉じた。
「うわぁあーーーーーーーッ!!」
「!?」
その後フレッドの目が覚めたのは、アレルの悲鳴が聞こえたからだった。
続く




