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3−5


* * *



ジュードとお互いの紹介を終えたフレッドは、用があるからとその場で別れることになった。

「フレッド!」

別れ際、アレルが呼び止める。ビク、と肩を震わせて振り返り目が合うと、嬉しくなって笑みがこぼれた。

「またね!」

「あ、ああ………またな」

別れ際に何か言いたそうにしていたが、フレッドはすぐに背を向けて去っていった。



ジュードと2人になり、小包の住所を頼りに平原の中にある建物を目指す。

「ああ着いた。ここだよ」

ジュードに先導されてたどり着いた孤児院。

手前には植物で覆われたアーチが門代わりに迎えてくれている。こじんまりとした土壁の家の軒下には長テーブルがあり、椅子がバラバラに引かれている様子はまだ子どもたちの笑い声が聞こえるようだった。また広い庭の中には様々な植物が見え、色とりどりの花や木の実が水滴を湛えて輝いている。アレルが深呼吸すると、濡れた土の匂いが鼻腔を抜けた。

「おーい、フロワさーん!届け物持ってきましたよー!」

ジュードが慣れたふうに声をかけながらアーチをくぐった。人がいた気配はあるものの、呼び掛けに応える声はない。キョロキョロと周囲を見渡していたが、ふと視界の端に影が横切った。


「まあ、こんにちは」


「うおっ!?」

ジュードが飛び退くと、穏やかな笑みを浮かべた女性が現れた。紅葉していく木々のような柔らかな色の髪が揺れ、とれたての蜜のような飴色の目が楽しげにこちらを見た。

「ようこそ、ジュードさん。子供たちは今お昼寝してるので、少しお静かにお願いしますね」

「ふ、ふ、フロワさん…ハハ、どうも」

ジュードが驚いた衝撃を隠さないまま、にへらと笑いながら挨拶を返す。その後ろから顔をのぞかせながら、アレルはフロワという女性を見た。

「あなたがフロワさん?」

「ええ、そうですよ。貴方は…初めましての顔ね?」

アレルと目が合うと、フロワかふわりと笑う。背景に見える花壇の花がよく似合う、柔らかな笑顔だ。

「俺、魚人族のアレル!ウラ爺から荷物を預かってきたんだ」

「あっコラ!敬語使え!」

荷物を差し出しながら挨拶すると、ジュードがハッとして小突いてくる。心なしか緊張気味の声に疑問を持ちつつも、アレルは再びフロワに向いてニカッと笑った。

「…です!」

「うふふ、ありがとう。ウラさんから…ということは、あなたが新しい郵便屋さん?」

「知ってるの?」

首を傾げたアレルに、フロワが穏やかに笑いながら荷物を受け取った。

「ウラさん、後継が決まったって嬉しそうにしてたから。よかった、とっても元気な子で」

「へへ、そう?」

「ま、まあ…元気だけが取り柄みたいなやつなんですよ!仲良くしてやってください」

フロワの視線に割入るように、ジュードがアレルの肩を組んだ。やや乱暴に頭をぐりぐりと撫でられて、驚きジュードの顔を見上げた。

「ちょ、痛い!ジュ……」

「まあ、もう仲良しなんですか?」

「仲良しってか、俺の教会で飯と寝床の面倒見てる状態で…アハハ!」

「むぐぅ…」

アレルはフロワとの会話に夢中になっているジュードの腕から、なんとか抜け出し恨めしく睨んだ。そして会話を邪魔しないようにしながら辺りを見回すと、家の方から声が聞こえ始める。騒がしさを感じていると、玄関のドアが開いて子供たちが顔をのぞかせた。

「あーっ!ジュード先生がフロワ先生をナンパしにきてる!!」

「ナンっ…!?」

子供のいたずらっぽい声に、ジュードが声を詰まらせた。顔を真っ赤にしながら、数秒たってようやく「ナンパじゃねえわ!」と言い返す。フロワがクスッと目を細めるのを見て、さらにその顔を赤くした。

その様子を面白がりながら、子供たちはドアから飛び出しフロワの足元へ駆け寄った。するとジュードを見ていた子供たちの視線が、ハッとアレルへと向けられた。

「…だれ?」

「あ、っと……俺は…」

怯えられているのかと思い、少し戸惑いながらジュードを振り返る。大丈夫だ、とでもいうように肩を小突かれ、勢いで一歩前へ足が出た。

「…俺、魚人族のアレル!郵便屋になったんだ。よろしくね!」

足元にしゃがんで目線を合わせると、子供たちは不思議そうにアレルの姿を見回す。

すると、うさぎの獣人らしき女の子が恐る恐るアレルに近付いてきた。

「…わ、わたし、獣人族のラパン。尻尾、触ってもいい?」

「! もちろんだよ!」

ニカッと笑って応えると、ラパンの顔がほころび長い耳がピン!と期待に立ち上がった。それを皮切りに、子供たちが寄ってきてはアレルにペタペタと触り始めた。

「ねえ、魚人族ってどうやって寝るの?ヒレで空飛べる?」「海で何食べてるのー?」「泳ぐの速い?」

「えっとね…」

くすぐったく感じながら、子供たちと言葉を交わす。最初の警戒は何処へやら、アレルの言葉に驚いたり笑顔になったりと、子供たちの表情が庭の植物のように鮮やかになっていく。

「こらこら、そんなに質問ばかりするとアレル君が困るわよ。それに彼はお仕事中なんだから、引き止めちゃだめ」

フロワが子供たちを優しく諭し、はぁいと素直な声が離れていった。解放されたアレルが立ち上がると、くすくすと笑うフロワと目が合った。

「アレル君は、人と仲良くなるのが得意なのね」

「へへ…群れにも子供はたくさんいたからね」

得意げにするアレルに、ジュードが静かに「まるで自分は子供じゃないみたいに…」とつぶやく。それにまたフロワが穏やかに笑いながら、そっと近付いてきた。

「じゃあアレル君、ここまでありがとう」

フロワはポケットから数枚のコインを取り出すと、アレルの手を取って丁寧に渡す。

「大変なお仕事だけど、頑張ってね」

「わっ、これ何!?キラキラしてて綺麗!」

「それがカネだぞ、無くさないうちに仕舞っとけ」

初めてのコインに浮かれるアレルに、最早慣れた様子でジュードが促す。

アイリスの花が精巧に彫られたコインをしばらく眺め、いい加減にしろ、と声をかけられてようやく、アレルはズボンのポケットにコインを仕舞った。

「それじゃ、俺達はこれで!アレル、帰るぞ」

「はーい!フロワさん、みんな、またね!」

無邪気に手を振るアレルに、子供たちの元気な声が応えた。姿が見えなくなるまで手を振り合いながら、アレル達は帰路についた。


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