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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第三章 一年三学期

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第98話 恋の合否判定

 古松川先生と大山先生連れられて、サトシはスナックに入った。

お店の入り口には“スナックびわ”というネオンがあった。


(スナックびわ? どこかで聞いたような名前だ)


大山先生と古松川先生が先に中に入ると、スナックびわの店内は混んでいた。

大山先生はこの店の常連らしく、奥にいるママさんと話をすると、古松川先生とサトシをカウンター席に案内しに戻って来た。


「古松川先生、今日は予約が入っていてカウンター席の端っこしか空いていないんだそうです。いいですよね」


「さすが人気のお店だな。サトシ先生、入りましょう」


店内は広くはないが、座敷席は満杯。

カウンター席の端に二つ空席があった。


「あれ、二つしかないけど、足りないですよ、古松川先生」


「いいんですよ、こういう時は大山先生が、厨房側に座るんです」


「え?」


(大山先生が厨房側に入るほど、馴染の店なのか)


サトシたちがカウンター席に座ると、スナックのママが挨拶に来た。


「いらっしゃいませ。先生がた、ごめんなさいね。今日は忙しくって、自由にやっててくださいな」


出て来たスナックのママを見て、サトシは固まった。

なぜなら、それは桜井の母だったから。

サトシは、直立不動であいさつした。


「ど、どうも、こ、こんばんは。いつもお世話になっております」


「あーら、サトシ先生。いらっしゃいませ」


大山先生は、自分の馴染の店のママがサトシと知り合いだと分かって、驚いた。


「え、サトシ先生。この店を知っていたんですか? いやだなぁ、初めてみたいな顔しておいて……」


「大山先生、わたしはこの店は初めてです。ですが、ママさんを知っていまして」


「えー! 何だよ。ママさんとサトシ先生は知り合いだったんですかぁ?」


「あら、やだ。大山先生。やきもちですか? 嬉しい。知り合いというか、うちの娘の担任の先生なのよ。オホホホホ」


大山先生と古松川先生も同時に固まった。

守秘義務のある先生にとって、飲み屋で生徒の話はできるだけしたくない。

そのため、先生たちの飲み会のお店選びは、いつも細心の注意が必要を払っているつもりだった。


具体的には、生徒がアルバイトしていない、生徒の保護者がいないようなお店を先生たちは選んできた。

先生にとって、飲み屋で生徒の話をするなど、とてもリスクのあることなので基本的には避けたいのだ。


ところが、大山先生は桜井の母親の店とは知らずに、スナックびわに通っていたらしい。

そこへ、担任のサトシを連れて来たものだから、先生たちは気まずい空気に包まれた。


だが、そこは根っから明るい桜井の母だ。

そんなことで動揺して気まずくなることはない。


「ちょっと、大山先生。悪いけど、勝手にサーバーから生ビール注いで飲んでいてちょうだい。はい、これジョッキね。お酒も自由に飲んでいていいから。サトシ先生を連れて来きてくれたんですもの、飲み放題にして差し上げますわ」


「いいんですか? ママさん。やったー。古松川先生、サトシ先生を連れて来てラッキーでしたね」


「大山先生、どうしてそこまで前向きなんですか。サトシ先生が緊張しちゃってるじゃないですか」


大山先生は慣れた手つきで、ジョッキに生ビールを注いで、ママさんから受け取ったお通しの小鉢を古松川先生とサトシの目の前に置いた。

まるで、大山先生はお店の人だ。

サトシはちょっと心配になった。


「大山先生、大丈夫ですか? うちの学校、副業禁止ですよ」


「やだなぁ。違いますよ、サトシ先生。俺、大学生の時居酒屋でバイトしていた経験があって、ここは客として楽しんで動いているだけですから」


古松川先生も、平気な顔している。


「そうそう、わたしも最初は驚いたんですけどね。大山先生って、ママさんに使われるのが嬉しいみたいですよ」


古松川先生も大山先生のこれは副業じゃないと言いきった。

ここで働きながら飲むことで、付けが安くなるのかもしれないと、サトシは推測した。




 お酒が飲み放題になって、ほろ酔い気分になったところに、焼うどんが出て来た。


「ここの焼うどん、最高ですよ」


「ここのママさん、料理がうまいんだよ」


大山先生と古松川先生が、桜井の母の料理を褒める。

サトシにしてみれば、なるほど、桜井が料理上手なのは母親譲りなのかという話である。


「サトシ先生、おいしいでしょう?」


「あ、はい。美味しいです」


「ところで、ママさんはどうして……サトシ先生が自分の娘と付き合うことを許したんだろうね」


ブハッ!


サトシは、思わずうどんで咳き込んだ。


「さ、さあ、どうなんでしょうね」


「わたしが親だったら……」


古松川先生が話し始めた。


「わたしの娘がボーイフレンドを連れて来たら、ぶっ飛ばしてやりますよ」


「よかった、相手が古松川先生のお嬢さんじゃなくて。それは父親だからじゃないですか?」


「そうか、父親かぁ。あれ? ママさんって未亡人ですよね」


「いいえ、違いますよ」


「え? ママさんって結婚してるの?」


大山先生が食いついてきた。


「いや、正確には内縁関係で、これから入籍するのだと思います」


「じゃあ、ママさんの旦那さんにも、サトシ先生は会ったということか。どんな方でした?」


「どんな方って……、ああ、優しくていい人ですよ」


「優しくていい人……、だから、サトシ先生が娘さんと付き合う宣言しても許したんだ」


「大山先生、そういうことじゃないと思いますよ。サトシ先生の人柄が! 合格ラインに達していたんじゃないですか?」


「ええええ! そうなんですか。やっぱり、合否判定会議があったんですね。どうなんですか、サトシ先生」


「いや、入試じゃないので、きょうの会議みたいなものはなかったです」


そこへ、桜井の母がやってきた。


「先生方、ほっといてごめんなさーい。ちゃんと飲んでます?」


大山先生は、桜井の母に詰め寄った。


「ママさん、娘さんがサトシ先生と付き合うことに関して、どの辺が合格ラインだったんですか? それは、ちゃんと公正な合否判定だったんですか?」


「あらまあ、大山先生ったら嫌ですわ。もう酔ってらっしゃる。そうねぇ、娘が好きになった人だから合格ってところかしら」


「そんな……、もっと具体的な点をあげてくださいよ」


「もう、しょうがないわね。そうねぇ……あ、そうだわ。家に帰ったらね、サトシ先生が布団で寝てらして、その寝顔を見て合格だと思ったわ」


「「ええ! 布団で寝ていたぁぁぁ?」」


大山先生も古松川先生も、驚愕した。

サトシは慌てて、説明を付け加えた。


「言っときますけど、先生たちが想像しているようなことじゃないですからね。桜井の弟を真ん中にして、桜井とわたしがうっかり寝落ちしたことがあって、そのときの寝顔ですからね」


「ということは、サトシ先生、ママさんの家に泊ったんですかぁ?」


大山先生が、ポロポロと涙を流し始めた。

さめざめと泣く大山先生を、古松川先生があきれ顔で慰める。


「大山先生、熟女好きは二次元だけに留めておきましょう」


意外な展開にサトシは思った。


(大山先生、泣き上戸だったのかよ。めんどくさっ!)


「ほうらほら、泣かないでください大山先生。あら、生ビールの追加注文ですって。大山先生、生ビール三つお願いねー」


桜井の母にジョッキを渡された大山先生は、「はい、かしこまり」と半べそをかきながら生ビールを注いでいた。

その様子があまりに可笑しくて、サトシはその様子を写真に撮って、酔った勢いで桜井に送信した。




 桜井は自宅でサトシからのLINE通知音がして、ウキウキしながら開いた。


:泣き上戸な先生が、一名。お母さんにこき使われている。


送られてきた画像は、大山先生が泣きながらビールサーバーで生ビールを作り、その横で母がピースサインをしていた。


挿絵(By みてみん)


「げっ! お母さんと大山先生? え、奥に写っているのは古松川先生も、……サトシ先生ったら、うちの店で飲んでるの??」


桜井は急いで返信した。


:楽しそうね。でも、飲み過ぎてお店で寝ないでね。寝たら我が家に強制連行するように、母に言っておきます。




 桜井からの返信を読んで、サトシは笑ってしまった。


「なんですか? サトシ先生、桜井にメールでもしてるんですかぁ?」


古松川先生が酔って絡んできた。

サトシはニヤニヤしながらも、「そんなことないです」と嘘をついて、桜井に返信した。


:強制連行、されたい……かも♡


速攻で返信がきた。


:げっ! どMかよ。きっもー!




 桜井の返信を読んで、今度はサトシがハラハラと涙を流した。


「サトシ先生、どうしました?」


「ひょっとして、メールしてて、桜井に嫌われた? なーんてね」


「大山先生、そんなこと言ったらかわそうですよ」


大山先生にからかわれても、サトシは反論もせず涙を流していた。


「ま・さ・か……サトシ先生? 図星?」


「うわーーーん、嫌われてしまったぁ! キモいってーーー!」


酔っていたサトシは、泣きながらカウンターにウッ潰してしまった。

大山先生と古松川先生は、腹を抱えて笑った。


「ハハハハハ! 不合格になったよ、サトシ先生。かわいそうに……、ああ。可笑しい」


酔っ払いオヤジたちの戯言である。


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