第92話 女生徒SIDE:結婚の噂
「おはよー」
「おはー」
「あけましておめでとう」
生徒たちが元気に登校してきた。
桃瀬は、昇降口で靴から上履きに履き替えていると、柚木が来たので元気に声をかけた。
「柚木くーん、おはよー! 今年もよろしくね」
「ハルちゃん、おーーーす! ことよろー」
桃瀬は、昇降口にまだ姿を見せてない桜井が気になった。
「美柑、あれからどうしたのかなー。終業式は欠席したし、わたし連絡取ってないけど」
「ああ、大丈夫だったみたいよ。冬休み中にサトシ先生と一緒にいるところを、わたし見たよ」
「え、美柑ったら、サトシ先生とデートしてたの?」
「デートというか、見かけたのはラーメン屋だけどね」
「何それ。せこっ! それじゃあ、デートじゃないわ」
桃瀬と柚木が教室に入ると、桜井はすでに席に座っていた。
「あ、美柑! 早いじゃん。どうしたの? 何かあったの?」
「おはようハルちゃん。別に何もないわよ」
「嘘よ、桜井さん」
桜井の返事を嘘だと言って席に近づいてきたのは、夏梅だ。
「桜井さんったら、朝早くから来て、校長室に呼ばれていたのよ。新年早々大変だったわね」
「えーー!? 美柑、本当? 何をやらかしたの?」
桜井は、夏梅をにらみつけた。
「はぁ? 余計なことを言うんじゃないわよ、夏梅」
「あらあら失礼だわ、桜井さん。学級委員長として、教頭先生に新年のご挨拶とお花を持って行っただけよ。そしたら、桜井さんったらひどく困ってらしたから」
夏梅の証言を聞いた柚木と桃瀬は、驚いた。
「夏梅、あんたまた教頭先生にゴマをすりに行ったの?」
「美柑、何よ。何があったのよ。教えてよ、友達じゃないの」
「う、うん。ハルちゃんと柚木くんには、あとでちゃんと教えるわよ。その時まで、ちょっと待ってて」
実は、昨日、桜井はサトシからメールを受け取っていた。
:校長先生から、例の話があるから早く登校してください
それで、今朝は早く登校し、校長室でサトシとの交際について聞かれた。
生徒と教師の危険な関係を、教頭から追及されたうえに叱責されたのだった。
「まさか、美柑、退学するんじゃないわよね」
「まさか!! ハルちゃん、やめて。それは考え過ぎよ」
「だって、サトシ先生とラーメン屋行ったんでしょ」
「そんなことぐらいで退学にならないでしょ」
夏梅は桃瀬たちの不安を増幅させるように、どや顔をした。
「桜井さん、ついに年貢の納め時ね」
柚木は怒った。
「夏梅、あんた、なんてことを言うのよ。そんなことあるわけないでしょ!」
「そうよ。美柑が退学になったら、わたしも学校辞める」
「ハルちゃーん、わたしだって学校やめるよぉ」
桜井は泣き出した桃瀬と柚木を慰めた。
「わたし、退学なんかしないわよ。だから、安心して」
「うわーーーん、みかーん!」
「ほら、ほら、チャイムが鳴ったわよ。先生がいらっしゃるから、みんな席について」
夏梅は桜井美柑のことなど問題ではないとでもいうように、クラスのみんなに声をかけた。
「はい、あけましておめでとうございまーす。三学期が始まりました。新年のあいさつはそこそこにして、さっそく出席をとりまーす」
一年A組、朝のHRでサトシは出席を取った後、クラス全員を見回した。
全員そろっていることを確認した後、始業式のために体育館へと誘導した。
サトシの指輪に気が付いた生徒たちが、ヒソヒソと話している声が聞こえて来る。
「見た?」
「見た」
「先生、薬指に指輪してたよね」
「あった、あった。あれ左だっけ?」
「左だよ。まさか、サトシ先生結婚した?」
「うっわ、マジで? 独身教師がまた減ってしまったわ」
「え? サトシ先生の他に独身教師っていたっけ?」
「いたじゃん、青柳先生」
「あー、すぐ辞めちゃった先生でしょ」
「あと残っている、男って?」
「大山、古松川、藤原、五十嵐……ゲロゲロ。みな、おっさんだわ」
「青柳先生、戻って来ないかなぁ」
「青柳先生を逃したのは、大きいよねー」
始業式が終わって教室に戻ってくると、桃瀬は柚木に小さな声で言った。
「ねぇ、ねぇ、柚木くん。サトシ先生、結婚したみたいだよ」
「みんな、噂してるけど、本当かなぁ」
「美柑は、ショックだろうね。おまけに校長室に呼ばれてさ。なんて声をかけていいものやら……」
「どうする?」
「美柑だって、指輪を見てるんじゃないの? わざわざ言わなくても……」
そこへ、夏梅がやってきて、桜井に言った。
「桜井さん」
「何?」
「サトシ先生ね、結婚したみたいよ」
「夏梅!」
「残酷!」
「あら、仕方ないじゃない。本当の事ですもの。指輪してらしたでしょ。これであなたの追っかけは終わったわ。教頭先生からもさっき注意があったんでしょう?」
「……?」
桜井は夏梅の言っている意味が分からなくて、返事に困った。
それを見た桃瀬は、桜井がショックを受けているのだと勘違いして、必死にフォローした。
「美柑、だめよ、傷ついちゃ、ほら新年あけて最初の登校日よ」
「めでたい、めでたい」
しかし、夏梅はさらに続けた。
「それにしても、ひどいわよねぇサトシ先生も。桜井さんになーんにも言わなかったなんて」
「夏梅やめなよ。美柑がかわいそう。美柑、しっかりするのよ」
「そう、そう。美柑にはまだ、あの若狭くんがいるじゃない!」
柚木と桃瀬は、桜井をなぐさめるつもりで一生懸命に若狭を推してきた。
「ハルちゃんやめてっ! なんでそういう話になるのよ」
「でも、わたしうらやましいわ」
「ねー、いっぱい恋が出来て」
桜井は全否定した。
「いやいや、あいつなんか、なんの関係もないからっ」
意外にも夏梅は桜井に賛同した。
「そうよ。若狭くんは、わたしがもらったわ。安心して桜井さん」
「はぁ?! 夏梅、おまえなぁー」
「ほほほ、そういうことよ。桜井さん、サトシ先生の左の薬指をよく見るといいわ」
「なんだ、そのことを言っているの? 知っているわよ。やーね」
桜井の余裕の対応に、桃瀬と柚木も、そして夏梅も面食らった。
「「美柑? 知っていたの?」」
「桜井さんったら、ず、ずいぶん余裕じゃないの……」
桜井は冷静になって切り返した。
「でも、あまりいいふらさないでね。先生に悪いから」
「え? 余裕のよっちゃん。美柑、やけに機嫌がいいわね」
「そう? そんなことないわよ」
「いいえ、そんなことあるわ!」
桜井は、にんまりと笑ってせみた。
(ふふふ、やだわニヤニヤしちゃう。あの指輪の相手は、わたしだもの)




