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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第二章 一年二学期

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第89話 恋する乙女はきれいになるとか

挿絵(By みてみん) 


佐藤家のリビングで、サトシと父は睨み合っていた。


「いいかげんにしないか、サトシ。一体どういうつもりなんだ。公立高校を辞めたと思ったら、白金女子学園の教師になって、今度は女子高生と結婚だぁ?」


「今すぐ結婚とは言っていません。結婚を前提にしたお付き合いをしますと」


「お前は人生というものに、真剣な姿勢で取り組んだことがあるのか?」


「今、真剣に取り組んでいます」


「この佐藤の家に、長男として生まれながら、社会的にいくらでも恵まれた立場に居られるはずが! 学生時代のお気楽な根性のまま大人になって、このざまだ!」


サトシは隣で怯えている桜井を庇いながら、父に交際を認めてもらおうと必死だった。


「いいか、サトシ! これ以上勝手な真似は絶対に……」


「父さん! 俺は、桜井に高校をちゃんと卒業させるし、望むなら進学だってさせます。お気楽な気分で付き合ってはいません。向こうの親御さんとも話はしてきました」


「桜井さんの親御さん?」


「父さんの部下の長谷川さん。彼が、桜井の実の父親です。桜井は長谷川さんの内縁の妻のお嬢さんだったということです」


「何! 寝言は寝てから言え」


「突然のことで驚くのは当然です。俺だって、最近知ったばかりですから。長谷川さんについて、どうのこうのは言いません。それとこれは別問題ですし。とにかく、俺は桜井と幸せになります」


「サトシ、お前ってやつは……。では、桜井さんに聞こう。桜井さんは、こんな甲斐性なしの高校教師と付き合って後悔しないか? 君にはこれからいくらでも、出会いがある。こんな甲斐性なしよりももっといい出会いがあるかもしれない。それでもこのバカ息子と付き合うと言えるのか」


すると、最強の母親が口出ししてきた。


「あなた、自分の息子をそんなに悪く言わないでくださる? サトシは甲斐性なしではなくってよ。立派な高校教師です。問題は、この女子高生のほう。サトシには不釣り合いですわ」


サトシの母は、父とは逆に桜井に問題がある言い方をした。


「まったく、親が水商売してらっしゃると、お嬢さんも男を騙すのがお上手なのかしら」


「母さん! 桜井の悪口は言わないでください。それと、桜井のお母さんの悪口もやめてください」


両親にここまで言われるとは、サトシは落胆しそうになった。


「もういい! 父さん、母さん。別に許してもらわなくてもいいです」


「「サトシ!」」


両親は、サトシの開き直った態度にこれは本気かもしれないと思った。

激怒されてもサトシの考えは変わらなかった。


「一応、報告しようとしたまでです。」


さらに開き直るサトシを止めたのは、桜井だった。


「だめだよ、先生。ちゃんとご両親の話も聞いて。わたしのことでサトシ先生とご両親の仲が悪くなるなんて嫌です。わたしのことなんかもう捨てちゃっていいから、ご両親と仲直りして」


「何を言いだすんだ、桜井」


「だって、先生の家族がバラバラになるなんて、わたし耐えられない。わたし、サトシ先生のお父さんもお母さんも、レイコ姉さんも大好きです。大好きな人たちに反対されたら悲しいしけど、それを無視してまで付き合うなんてもっと悲しいです。もういいよ。先生の気持ちが分かっただけでじゅうぶんです」


「桜井、それじゃ俺が納得しない」


「先生、もうわたし帰ります」


桜井は笑っていたが、目には涙をためていた。



「ちょっと、待ったー」


レイコ姉さんが、リビングに現れた。

まるで、正義のヒーローのような登場である。


「お父さんもお母さんも、ああ言っているけど、実は桜井さんのことを気に入っているのよ。

ねぇ、お父さん。桜井さんが夕食を作りに来る日は、必ず早く家に帰って来てたものね。お母さん、わたし知っているのよ。桜井さんのために、洋服を仕立てようと準備していたでしょ」


レイコ姉さんにズバッと言い当てられて、両親は慌てた。


「おいしいご飯を楽しみに帰って来て、何が悪い」


「だって、来るたびに桜井さんったら、綺麗になっていくんですもの。ふさわしいお洋服を着ていただきたかったのよ」


レイコ姉さんは、どや顔をした。


「ほらね。桜井さんがうちの家族を大好きだと言ってくれたように、わたしたちも桜井さんのことは大好きなのよ」


「じゃあ、問題は俺なのか?」


サトシは、レイコ姉さんの説明によって導き出される結論に気が付いてしまった。


「そういうことになるわね。サトシは説得の仕方が下手なのよ。この話、わたしは進めていいと思うわ。サトシが選んだ人が、たまたま女子高生だった。なら、あと二年間だけ道を踏み外さないようにすれば、何も問題ないじゃない。二年間なんてあっという間よ」


レイコ姉さんの意見に、両親も頷いた。


「言われてみれば、レイコの言う通りかもしれん。桜井さんは、確かにできたお嬢さんだし。サトシはいいお嬢さんを見つけたんだ。これを逃す手はないかも」


「ええ、わかっていましたわ。桜井さん? あなた前よりもきれいになったわね。恋する乙女はきれいになるって本当よね。サトシに恋している証拠。桜井さんを見ていて気付いていましたわ」


「桜井さん。どうか、うちのバカ息子が誤った道を行かないように手綱を引いてくれないか。それと、たまにでいいから、またご飯を作りに来てくれると嬉しい」


「父さん! 桜井はお手伝いさんじゃありません」


サトシは反対したが、桜井は快く引き受けた。


「はい、承りました。わたしでよろしければ、今からでもキッチンに立たせていただきます」


「では、うちのサトシと別れないでくれるのかな」


「さっきは、捨てちゃっていいなんて言ってごめんなさい。本当は捨てられたくないです。できれば、ずっと一緒にいたいです」


サトシはほっと胸をなでおろした。


「捨てるわけがないだろ、桜井。頼むよ、そういうの心臓に悪い」


許しておきながらも、父はサトシにくぎを刺すことを忘れていなかった。


「サトシ、あまり調子に乗るんじゃないぞ。向こうの親御さんにしてみれば、大切なお嬢さんなんだ。本当に桜井さんを幸せにするんだろうな」


「はい、幸せにします」


「それから、わしが、長谷川に恨まれるようなことだけは勘弁してくれよ」


「あなた、公私混同です」


「母さん、おまえだって嬉しい癖に」




 こうして、レイコ姉さんのお陰で、両親に交際を認めてもらったサトシはお礼を言った。


「お父さん、お母さん、レイコ姉さん、どうもありがとう」


桜井も続けた。


「どうもありがとうございます」


レイコ姉さんは、やれやれというように、肩と背中をグーンと伸ばした。


「ああー。これで、行く行くはわたしの義理の妹になるのね、桜井さん。嬉しいわー。アキラくんという可愛い弟もできるし。……あれ? 今日アキラくんは?」


「ずっと、長谷川さんの家に泊っているんです。偶然、長谷川さんの息子さんと同級生みたいで」


「あら、そうなの? じゃあ、桜井さんはこの家に泊ればいいじゃない。ちょうど、友梨奈が使っていた部屋が空いているわ」


「そういえば、友梨奈ちゃんは?」


「あの子、両親のいるアメリカへ行ったのよ」


「ええ、ちっとも知らなかった。何も言わずに行くなんて、酷いわ」


「あの子、桜井さんを認めたんだと思うわ。白金祭であのダンスを観てから、そんなこと言っていたもの」


「もっと、友梨奈ちゃんとお話したかったのに」


「向こうの学校を卒業したら帰ってくるわよ。そのころには、お祝い事がいっぱい重なるといいわねー」


サトシはそこでツッコミを入れた。


「レイコ姉さんも、まだ間に合うから、お祝い事を重ねないか?」


「あら、わからないわよ。わたしはもっと早いかもしれないでしょ」


「あてはあるのか?」


「ないけど」


サトシの両親は、レイコ姉さんの話に困ったもんだと言いながら、笑っていた。


「まったく、長女がこれだからな。いつになったら片付くのやら……」


「まあ、レイコはひな人形じゃないのよ。片付くなんて言い方して」


「思えばそうかもしれん。行き遅れているのは母さんがひな人形をなかなか片付けなかったからだ」


サトシの家族がレイコ姉さんをいじってからかう様子に、桜井は思わず吹き出した。


「桜井さん、今吹いたわね」


「お姉さま、ごめんなさい。だって、サトシ先生の家族の掛け合いってなんだか絶妙で……」


「絶妙でどうした、桜井。はっきり言いなさい」


「聞いていて飽きません!」


桜井の答えに、家じゅうがどっと笑った。

佐藤の家に笑い声が響くのは、久しぶりの出来事だった。



それから桜井は、佐藤家で楽しく過ごした。

もちろん、佐藤家のリクエストに応えるように、年越しそばやおせち料理を作ったのは、桜井だった。


そして、明日の大晦日、桜井の母がハワイから帰国する。

ついに、ラスボスと対峙しなければならない。

サトシは最終決戦に向けて緊張し、一睡もできなかった。


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