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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第二章 一年二学期

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第86話 工藤先生の恋愛相談室

 レイコ姉さんに言われた通り、サトシは桜井のことを彼女と認識しているのか。

それは、自分でもよくわからなかった。

いくら、桜井の家庭問題が複雑で、生徒を守ろうとしているからとはいえ、恋愛感情を持つなんて、教師としてあるまじき行為。

しかも、母親が留守中につけこんで家に上がり込むなんてやるべきではないと、サトシは自分を責めていた。


(ここは筋を通そう。冷静になろう。何が一番いいのかよく考えて行動しよう)


そうは思っていても、自分ひとりでは、なかなか冷静に客観視できない。

サトシは、育休中の工藤先生に電話で相談することにした。




―「どうした。サトシ」


「あ、ごめん。家族でクリスマス・パーティーの準備をしていて忙しいだろう。悪いな。ちょっと相談があるんだ」


―「おお、どした。何の相談だ? 学校のことか?」


「まあ、それも関係ある」


―「気になる言い方だな。まさか、教員を辞めるんじゃないだろな」


「いや、それは違う。だが、このままだと辞めることになりそうだ」


―「ええ! それは、尋常じゃないな。相談ってまさか、桜井のことか?」


「いや、はっきりしないんだが、たぶんそのまさかになりそうで……」


―「ふうーん、サトシは桜井が好きなのか?」


「たぶん、好きだ」


―「たぶんって、自分でわかんねーのかよ。まさかサトシ、生徒に手は出していないだろな」


「もちろん、何もしていない。桜井のことは大切にしたいんだ」


―「何だ。じゃあ、何も問題ねえじゃん」


「だけど、法的な問題と教師としてのモラルの問題がある。この先、どう進めば桜井を傷つけることなく付き合いって行けるのか、わからないんだよ」


―「アホか、お前は」


「工藤、お前に言われたくないが、俺はたぶん……アホだ」


―「いいか? お嬢様がいる女子校のあるあるをまず教えてやる。うちの学校、大企業のお嬢さんで、すでに許婚がいる生徒がいる。これは珍しくない」


「え、それは知らなかった」


―「まあ、毎年全学年に一人くらいの割合かな。許婚がいる生徒は両家の承諾のもと婚約しているわけだ。つまり、両親に認められて成人男性と付き合っている生徒がいる。それは不思議なことじゃないんだよ」


「女子校ってそんなこともあるのか。だけど、18歳未満だと犯罪になるんじゃ……」


―「だから、アホだというんだよ。いいか? そもそも、18歳未満で禁止されているのは『淫行』。キスやハグは禁止されていない。じゃあ、『淫行』以外ならなんでもいいかというとそれは違う。キーポイントは親が許可しているかどうかだ。親の許可なく、お泊りさせて訴えられたら、それは誘拐罪になる」


「マジか。やってしまった。俺は捕まるのか」


―「最後まで話を聞け! 被害届を出されたらの話だ。ところがだ、ここからが大事な点だ。親が許可した真摯な交際であれば、問題はない。両家で決めた婚約ならいいんだよ。うちの学校、婚約者がいるお嬢さんが普通に高校生活を満喫できているのは、そういうことだ」


「親の許可か」


―「そういうこと。もし、警察に見つかったら、当人同士の気持ちや意思なんか関係ない。すべては客観的に判断される。わかるだろ。売春していても、本人同士は言い逃れのために、お互い好きだし真面目に付き合っていますなんて、言い逃れできるからね」


「それはダメだろ」


―「はい、ではここで問題です。客観的判断とは何のことでしょうか。四文字以内で答えなさい」


「えーっと、……第三者機関?」


「ブブー。お前、それ五文字。正解は親の判断だ。真面目にお付き合いしますと親に紹介して、了承してもらっていれば、何も問題はないってこと」


「本当にそうか?」


―「いい質問だ。ところが、教員と生徒の場合はそう単純じゃない。他の保護者が炎上して大問題になることもある」


「マジか」


―「そんな教師がいる学校へ、大切な娘なんか通わせられませんっ、とかね」


「そうだよな。やっぱ、そうなるよな」


―「そこは、校長がどう判断するかだろうね。うちの学校の場合、ネックは教頭で、あのババアをどうやって黙らせるかだと思うよ。だがな、一番重要なのは、サトシと桜井の人生だからな。ババアの意見なんてクソだ」


「俺は遊びではない。真摯な交際だと認めてもらうためなら、どんなことでもする」


―「それを聞いて安心した。たぶん好きじゃなくて、マジで好き確定だな。桜井にも同じことを言ってやりな。あとひとつ、これだけは言っとく。俺はお前たちを応援しているからな」


「工藤……」


―「感極まって泣いているんじゃねーぞ。それより何より、桜井に告白したのかよ」


「まだしてない」


―「はぁ?! お前って、ホント……。だから俺みたいな男に女を取られるんだよ」


「やめろよ、その話は」


―「だったら、第一に、桜井に告る。第二に桜井のご両親に挨拶する。第三に自分の親に紹介する。そこをクリアすることだ。そしたら、校長も説得できるだろ」


「そうか、ありがとう工藤。第一段階の告るで、ゲームオーバーかもしれないけどな」


―「バーカ。そんな弱気でどうする。勇気出して決めてみせろや。玉砕したら骨ぐらい拾ってやるよ」


「戦場かよ」


―「あと、数か月したら、俺も復職するから。そしたら、お前の援護射撃してやるよ」


「ありがとう工藤。だから戦場?」


―「お礼は、うまくいってからでいい。まだ早い。おっとっと、うちのお姫様が泣き出した。赤ん坊の世話も楽しいもんだぜ。サトシも早くこっち側に来いよな」


「バーカ、まだそっち側には行けねーよ。じゃあな、ありがとう」


サトシは電話を切った。

やはり持つべきものは友である。

工藤と話しているだけで、サトシは気持ちが軽くなった。


(真摯な交際か。大切なことは……、今、口にしなければならないことは、たったひとつ)



サトシは花屋の前で立ち止まった。


(クリスマスケーキと花束を持って行こう。それと、桜井が言っていたあれだ。あれを持って行けば俺の本気が伝わるはず)


サトシの脳内には、桜井が大好きだと言ったイエローという曲が流れていた。


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