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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第二章 一年二学期

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第85話 クリスマスツリーの箱

 サトシが目を覚ますと、桜井の姿はなかった。

台所で朝ご飯でも作っているのかと、台所に行ってみたが桜井はいない。


(あれ? どこへ行ったんだ。トイレか?)


テーブルには、きちんと朝食が並べられていた。

テーブルに付こうと椅子を引いたら、床の上に何かにぶつかった。

何かとサトシが見てみると、クリスマスツリーが入っている箱のようだった。

サトシが、その箱を手に持って見ていると、玄関が開いて桜井が戻って来た。


「あ、先生。おはようございます。ゴミ出しに行ってました」


「起こしてくれれば、先生が行ったのに」


「だって、また近所のおばさんに見つかると面倒くさいから」


「確かに。そんなことが前にあったな」


桜井は、台所で手を洗いながら朝食の用意を続けた。


「先生、顔を洗ったらご飯でいいですか。冷蔵庫の余りもので、たいしたおかずはないけど」


「ああ、ありがと」




 サトシは、桜井の作った朝食を食べる幸せを噛み締めていた。


「先生、もう出勤しなくちゃいけない時間ですか?」


「あ、今日から先生は冬休みだ」


「え? 本当?」


「二学期は、学校説明会とかで休日出勤が多かったから、その分冬休みが増えたんだ」


「ということは、今日は学校に行かなくて……」


「いいんだよ」


「嬉しいー! じゃ、この家にずっといてください」


「しかし、保護者に無断で生徒の家に泊るのは、社会的にどうかな。先生は、帰りますよ」


「そっかぁー、社会的常識ってやつですね。今日のクリスマスイブは一緒にいたかったけど、しょうがないね。サトシ先生は、教師だもんね」


桜井は、お母さんも弟もいない独りぼっちのクリスマスイブになるとわかると、目を伏せた。

サトシも何とかしてやりたいが、社会常識ってものが邪魔をする。

そのとき、ふとあることに気が付いた。


「そうだ。床にクリスマスツリーの箱みたいなものが置いてあったけど?」


「ああ、それ。毎年、アキラのために出していたんだけど、アキラは長谷川さんちに泊りに行ったから、そのまま放置してた」


「そうなんだ」


「もう、アキラはこのクリスマスツリーよりも、大きくて立派なツリーがある家にいるからね。それはもう意味ないから、捨てちゃうね。邪魔だし」


「え、もったいないよ、せっかく出したのに。今年、アキラくんはいないけど、サトシくんなら、ここにいますけど」


「サトシ……くん? 何それ、超ウケるw」


桜井が声を出して笑った。

笑い過ぎて、肩まで震わせてひきつっている。

そんな桜井を見ていて、サトシは嬉しくなった。


「そんなところにツボってくれるのなら、いくらでも言いますが」


「もう……いい。限界、腹筋つる……」




 サトシは家に帰ることにした。

だが、洗面道具や着替えを取りに一旦戻るだけで、午後にはアパートに来ると桜井に約束した。

桜井は、今夜の夕食の買い物をしてから料理して待っていると言って、サトシを送り出した。




(まるで桜井と一緒に暮らしているみたいだ。いいのかなぁ。桜井のお母さんにはちゃんと説明しよう。説明してお嬢さんを守ると伝えよう……守る? 何から守るんだ?)


 サトシは家で掃除していると、携帯電話が鳴った。

レイコ姉さんからだった。


―「サトシ、年末年始は実家に帰って来るんでしょ?」


「いや、帰らないつもりだけど」


―「ええ? お父さんもお母さんもサトシが最近来ないって寂しがっているわよ。桜

井さん、料理作りに来なくなっちゃたし」


「桜井は、佐藤家のお手伝いさんじゃないんだぞ」


―「まあ、毎週お料理させたのは悪かったと思っているわ。でも、お父さんは結構、喜んでいたのよ」


「あの父さんが喜んでいたなんて明日は槍でも降るのか? それに、母さんはそうでもないだろ」


―「いいえ、お母さんはあれでも喜んでいたのよ。不器用な人だからね。誤解されたかもしれないけど」


「桜井は、嫌だったみたいだよ」


―「あらま、そうだったの」


「とにかく、今年は正月に帰れないから」


―「どこか旅行にでも行くの?」


「いや、そうじゃないけど」


―「ふぅーん、何かあるのね」


「いや、別に」


―「まさか、彼女ができたとか」


「え、ない、ない!」


―「図星だね。まあいいわ。サトシもやっと恋人とクリスマスを過ごすようになったのね。桜井さんには、内緒なの?」


「え、えーーーっと……」


―「あ、そっか、そうなのね。ははーん、なるほど。そういうことなら、ふぅーん、納得。じゃあ、お正月に桜井さんを家に連れて来るんでしょ? お手伝いさんじゃなくて彼女として」


「バカな。レイコ姉さん、妄想が先走りしすぎだろ!」


―「え? わたしは大歓迎ですけど。いいと思うわよ。ただし、卒業するまで手を出さないで清い交際するんでしょ?」


「もちろんだ」


―「はい、白状した! 確定! やっぱり桜井さんと一緒に過ごすのね」


「ああー! レイコ姉さん、それ誘導尋問」


―「ふふふ、サトシったらムキになっちゃって。じゃ、お正月のこと、考えておいてねー。じゃーねー」


「待った! まだ行くと言ってない」


―「大丈夫、親の機嫌はわたしがとっておくから。待ってるからねー」


そこで電話は切れた。


(どうしよう、桜井は絶対に嫌がる。桜井が嫌がることを俺はしたくない)


サトシはため息をつきながら、掃除機を片付けた。


(そりあえず、桜井のとこのクリスマスツリーを飾りに行かなきゃな)


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