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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第二章 一年二学期

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第81話 サトシと美柑の探偵ドラマ③

 まだ幼いアツシくんを囲んで、若いお父さんとお母さんがにこやかに微笑んでいる写真。

その写真に写る若いお父さんは、サトシの父の部下である長谷川によく似ていた。


「まさか」


「やっぱり、そうだわ。これ、長谷川さんじゃない? ちょっと若いけど」


「他人の空似ってこともある。それに、アツシくんのお母さんも写っている。長谷川さんの奥さんとの子どもなら、全然問題ないじゃないか」


「あ、そうよね。先生、頭いいわ。わたしの勘違いだったわ」


「ほうら、言った通りだろ。桜井の妄想だったんだよ」


「ごめんなさい。あはははは!」


サトシと桜井は、とんだ思い込みにお互いの顔をみながら笑った。

その時、家政婦がリビングにやって来た。


「お待たせしております。今、ご主人が帰ってきました。応接室でお会いになりますか?」


「げっ! もう? 早っ」


「桜井! 言葉! あ、どうぞお構いなく、挨拶したら私どもは帰りますので」


「左様でございますか。では、しばらくお待ちくださいませ」


家政婦が玄関へと戻っていくと、桜井は焦りだした。


「先生、どうしよう。こわいよー」


「大丈夫だ。先生がいるから安心しなさい」


サトシと桜井がどんな気持ちでいるのかなんて、知る由もないアキラとアツシは、リビングを駆けまわって遊び大騒ぎだ。




 リビングのドアが開いた。


「楽しそうだな」


そう言って、入って来たのはサトシと桜井がよく知っている長谷川だった。


「あれ? 社長の息子さん、どうしてここに。あ、息子さんの教え子さんまで……」


「どうも、いつも父がお世話になっております。いつぞやは、父の気まぐれパーティにお付き合いいただきまして、ありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ、お父様にはいつもよくしていただいて……」


大人同士の長い挨拶が続いた。


「あれーー? アツシのパパとおじさんって知り合いだったの?」


アキラが素朴な疑問を投げかけた。

すると、長谷川さんは不思議な顔をした。


「アキラくんのおじさんなんですか? そうとは知らずに、わたくしは大変失礼なことを……」


「いや、おじさんと呼ばれていますが、違います。アキラくんのお姉さんの担任です」


「え、アキラくんのお姉さん? 君はアキラくんのお姉さんだったんですか。あのとき、ちっとも名乗らなかったから、知りませんでした。じゃ、もしかして……、君が美柑……ちゃん?」


「長谷川さん、どうして桜井の下の名前を……」


サトシが長谷川さんと話している間じゅう、ずっとサトシの陰に隠れていた桜井は、引きつった笑いで挨拶をした。


「へへへ、こんにちは。桜井美柑です。あの時は英会話に緊張してしまって、自己紹介もできなくてすみません。わたしの名前、アキラから聞いて知ったんですよね」


「桜井美柑ちゃん……」


長谷川は真剣な顔をして、サトシと桜井を応接室へと案内した。


「いつか美柑ちゃんには話さなければいけないと思っていました。ここですと、子供たちがいますから、こちらへどうぞ」





 応接室のソファーに腰を下ろすと、長谷川は話しはじめた。


「どこからお話していいのやら、この家へはどうやっていらしたんですか?」


「歩いて」


「先生、そう意味じゃないと思うよ」


「あ、そうか」


桜井は住所の書かれたメモを広げた。


「この紙、わたしのお母さんが書きました。何か困ったことがあったらここに行きなさいと言って、今は海外へ旅行中です」


「お母さんがそう言ったんですね。じゃあ、全てを話してもいいと言う意味でしょう。お母さんが旅行中というのは知っています。アキラくんを頼まれたのも、直接お母さんからです」


「お母さんを知っているんですか?」


「はい、君のお母さんとは大学生時代に知り合いました。わたし達は愛し合い、君のお母さんは君を身ごもり、そして結婚するつもりでした。ところが、親の反対にあって、お母さんとは別れさせられたのです」


サトシは驚いたが、ここで自分が驚いたら桜井が動揺すると思い、きわめて冷静沈着を装った。


「では、桜井美柑のお父さんは、つまり……長谷川さんだと」


「はい。その後、お母さんが女手ひとつでも子育てできるようにと、毎月の養育費を払い続けてきました」


「では、アキラくんのお父さんは誰かご存じですか」


「それも、わたしです」


「え? だって、アツシくんも長谷川さんのお子さんですよね」


「お恥ずかしい話ですが、その後お見合い結婚した妻の妊娠中に、また君のお母さんと付き合ってしまいました。妻には大変申し訳ないことをした」


「それで、奥様はなんと」


「妻は、知っていたのかもしれません。アツシが小学一年生のときに、病気で亡くなりました」


「それは、大変でしたね。そこからは、ひとりで子育てを?」


「はい、家政婦を雇ってなんとかやっています。それから、再び美柑ちゃんのお母さんとばったり会いまして、今も子供たちのことを二人で話しています」


「桜井、大丈夫か? もう帰ろうか」


サトシは何も言わなくなった桜井が心配だった。

桜井は極度のストレスを受けているはずだ。


「大丈夫です。だいたいわたしの察していた通りだったし。でも、なんで隠すのかな。お母さんも長谷川さんも酷いわ。わたしって、そんなに世間に知られてはまずい存在なの?」


「そんなことはない。美柑ちゃんという名前はわたしがつけました。アキラとアツシもわたしが名付けた。本当は自分の手元で育てたかった。しかし、世間の目に負けてしまった。弱いわたしが悪いのです」


「アキラはこの家で遊べて、純粋に喜んでいるみたい。お母さんだって、きっと長谷川さんのこと好きなんでしょ。 だから、今も交際を続けているんだわ。わたしだけ知らなかったなんてね。笑えるわ。へへへ、ほんとに悪いジョークだわ」


「お母さんには、改めて結婚を申し込みました。だけど、首を縦に振らなかった。『子供の養育費、教育にかかる費用、全部負担してね』と言われました。だから、私立学校の費用も……」


サトシは前に長谷川が言った言葉を思い出した。


「ああ、だから『白金女子学園に知り合いが通っています。いい学校です』と言っていたんですね。あのときの知り合いとは、桜井美柑のことだったんですか」


「そうです。愛情を注ぎたくてもできない。わたしはお金で応援することしかできなかったんです」


「もういいわ。わかりました。長谷川さん、アキラをよろしくお願いします。そして、わたしのお母さんと幸せになってください。失礼しました!」


桜井は応接室を飛び出し玄関口へと向かった。

そこへ、何も知らないアキラが、廊下を走って美柑に抱き着いてきた。


「おい、美柑、逃げるなよ。みんなで美味しいご飯でも食べに行こうぜ。きょうはアツシのパパがレストランにつれて行ってくれるんだぞ」


桜井はアキラをぎゅっと抱きしめた。


「お姉ちゃんが作るご飯より美味しいご飯、……あるんだねー。アキラ、ちゃんとアツシパパのいう事聞くのよ。あまり困らせたらダメよ」


「バカヤロー、僕はいい子なんだ。アツシパパを困らせるわけないだろ。なんなら、ここの家の子になってもいいんだぜ」


桜井はアキラの頬をひっぱたいた。


パチン!


「痛え! 何すんだよー! 」


桜井はポロポロと涙をこぼし、アキラはうわーーーんと大声で泣きはじめた。


「アキラ、ここの家の子になれてよかったね! じゃあ、いつまでもそうしてなさい。お姉ちゃんは、もう知らないから」


桜井はそう言って長谷川の家を飛び出した。


「桜井!」


サトシは桜井を追いかけようと、靴を履きながら長谷川に言った。


「あんたは、子供を愛していない!」


「佐藤さん、わたしは……」


「ごちゃごちゃ言うな。その言い訳がどれほど子供を傷つけるか、何もわかっていない!」


そう言うと、サトシは桜井を追いかけた。

サトシの背後でアキラが泣いている声が聞こえてくる。


「美柑のバカヤロー――! もう二度と来るなーーー! うわぁーん」


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