第80話 サトシと美柑の探偵ドラマ②
「先生、インターホンを押してよ」
「別に構わないけど、いいのか? 押すよ。後悔するなよ」
「はい。覚悟はできてます」
「じゃ、一、二の三! と、言ったら押すからな」
「はい」
「一、二の三! で押して、後悔するなよ」
「いいから先生、早く!」
「わかってる。押すぞ、いいか」
「もう! 何ビビってんのよ。こんなの押すだけじゃん!」
勢い余って桜井は、インターホンに手をついた。
「あ」
ピンポーン
プツ、
―はい、どちら様でしょうか
桜井はとっさにインターホンの前に、サトシを押し出した。
「先生、先生。あいさつして」
「おま、桜井、こら……、あのぅ、いつもお世話になっております。桜井アキラの身内のものです。近くまで来たものですから、ご挨拶をと思いましてー」
「まあ、アキラくんの。少々お待ちくださいませ」
サトシは桜井に向かって、小声で「成功したぞ」とドヤ顔してみせた。
「これからが本番よ。まだわからないわ」
玄関扉が開いて、五十代くらいの女性があらわれた。
とりあえず、大人のサトシから挨拶を切り出した。
「いつもアキラがお世話になっております。すみません。突然お伺いして」
「いいえ」
「あの、わたし桜井アキラの姉です。これ、つまらないものですが……」
「あのぅ、ご主人はご在宅でしょうか?」
「いえ、まだ……」
すると、奥の方からアキラの声が聞こえて来た。
「あーーー、美柑、何しに来たんだよー。迎えならまだ早いぞー。帰んないからなー」
「アキラ! あんた、わがまま言ってないでしょうね!」
サトシは、吠える桜井を後ろに引いた。
「このたびは、まことにご迷惑をおかけしまして、申し訳ございません。ほんとうにそちら様には、アキラがお世話になりっぱなしで、ろくにお礼にもうかがえず……」
大人の対応である。
しかし、出てきた女性は困った顔をして首を振った。
「あの、わたくしは家政婦です。ですから、ご挨拶は直接ご主人のほうにしていただけますか?」
「あ、これは、大変失礼を。まことに申し訳ございません。で、ご主人さまはいつ頃お帰りに?」
「今日はそんなに遅くならないと聞いております。お待ちになりますか?」
「では、失礼してそのようにさせて頂きます」
アキラは、サトシが来てくれたのが嬉しくて、テンションが上がりっぱなしだった。
「わーい、サトシおじさーん、来てくれたんだ。一緒に遊ぼうよ、ねぇねぇ、アツシ、僕のおじさんとお姉ちゃんを紹介するよぉーーーー」
桜井は、笑いながらサトシに言った。
「アキラったら、僕のおじさんですって。よかったですね、先生と呼んでいなくて」
「ああ、いかにも身内のおじさんに聞こえるな。おじさんと呼ばれることが、こんなところで役に立つとは」
サトシと桜井は、最初は応接間へ通されたはずが、結局はアキラとアツシによって、リビングまで引っ張り出された。
アキラの同級生であるアツシが、丁寧に挨拶をした。
「どうも、こんにちは。長谷川アツシです。アキラくんとは同じクラスです」
「まあ、きちんと挨拶のできるいい子ね。せんせ……おじさん、そう思わない?」
「桜井まで、俺をおじさんと呼ぶ必要ないだろ」
「だってー、先生なんて呼んでもよろしいのかしら」
「なぜ、突然お嬢様になるんだ、桜井」
「おじさん、僕ねー、友達のアツシとゲームしてたんだ。一緒にやろうよ」
「そ、そうかぁ。おじさんは、今日はゲームしなくてもいいかなぁ。アキラくん、友達と一緒に遊んでいなさい」
「げっ! つまんねー」
アキラが友達の方へ行ってしまうと、サトシは桜井に言った。
「げっ! という口癖。桜井とそっくりだな」
「え?! そんなこと言います? わたし。嫌だわ、変なところが似ちゃって。顔は全然似てないのに」
「確かに。アキラくんは目が大きくて可愛い」
「せん、……おじさん、ハルちゃんと同じことを言うのね。そうよ、アキラは目が大きくて可愛いわよ。わたしに似ないでね」
「アツシくんも、目が大きい子だね。あれ? アキラくんとアツシくん……」
サトシは桜井と顔を見合わせた。
「「似ている!」」
「やだー、まるで兄弟みたい」
「まさか、そんなことは……偶然だろう。桜井、考えすぎだ」
「そうだわ。家族写真か何かないかしら。それに映っている人を確かめたい」
「そこまで……」
「アツシくーん、家族で撮った写真とかあるー?」
「あるけど、どうして?」
「ほら、もうすぐサンタクロースのおじさんが来るでしょ。プレゼントを間違いなく届けるために、サンタさんったら、どうしても顔写真で家族の確認が必要だってー」
「桜井、今どきの小学生がそんなベタな嘘に引っかかると思うか?」
サトシはツッコミを入れたが、純粋なアツシは、すんなりと桜井の話を信じた。
「そっかーーー! そうだよね。サンタさんにはちゃんと間違いなく届けてもらわないとね」
桜井は、サトシと目を合わせてにんまりと笑った。
「ほうら信じたわ。素直ないい子だこと」
「桜井は純粋な子どもを騙す、小悪魔だな」
純粋なアツシはサイドボードの上に飾ってある写真を指さした。
「あれ! あれでもいいのかな」
サトシと桜井は、サイドボードに駆け寄って、その写真に写る人物を確認した。
家族写真に中でにこやかに笑っている父親らしき人は、あの長谷川さんによく似ていた。
「マジかよ」




