第64話 白金祭② 大歓声と拍手
舞台袖で一年A組は緊張していた。
薄暗い舞台袖でもわかるくらいに、生徒たちの顔はこわばっていた。
「美柑、わたし緊張してきたよ。ヤバい」
「ハルちゃん、スマイルよ。スマイル。みんなも聞いてる? スマイルだからねー」
そう言っている桜井の指先は、震えていた。
サトシは何気なく桜井の横に立ち、スッと手を握った。
驚いた桜井は、小声で言った。
「ここ、学校ですよ」
「誰も見てない」
サトシの手の中で、桜井の震えが徐々に落ち着いていくのがわかった。
前の演目が終わって、緞帳が降りた。
次は一年A組の出番。
生徒たちは、幕の裏でステージの立ち位置に移動して、スタンバイした。
「さ、思う存分やりましょう! 君たちのいつもの可愛い笑顔で、観客を魅了させましょう」
サトシが声掛けすると、生徒たちから笑いが漏れた。
(よし、イイ感じだ)
会場アナウンスが聞こえた。
「次のプログラムは、一年A組によるダンス・パフォーマンスです。今年の一年生も頑張っています。練習の成果をごらんください」
一年A組、生徒たちはオープニングに備え、各自の位置で観客に対して後ろ向きに立った。
館内とステージの照明が落とされた。
緞帳が静かに上がる。
曲のイントロが鳴った瞬間に、ステージはパッと明るい光に照らされ、可愛い女生徒たちが浮かび上がった。
アップテンポのイントロ、後ろ向きでリズムに取り、16カウントで一斉に彼女たちは正面を向いた。
観客席からワーーーっと歓声があがった。
ワンコーラス目、センターは柚木が中心で両側に桃瀬と桜井が並んだ。
男子高校生役の柚木を見て、観客席の生徒たちからは黄色い歓声があがる。
サビの部分で、投げキッス。
全員で同じ踊り、同じポーズをピタッと決める。
間奏に入った。
フォーメーションが変化。
移動しながら、一関のグループがセンターに移動。
ツーコーラス目。
一ノ瀬のグループが四小節をセンターで踊る。
次の四小節は、一ノ瀬のグループが下がり、すれ違う形で同時に二宮のグループがセンターに。
また次の四小節で二宮のグループが下がり、同時に別のグループがセンターに移動。
また次の四小節もメンバーの後ろから、別のグループがセンターに移動。
四つのグループが、それぞれにセンターを取った後
二手に分かれた真ん中から、柚木たちがセンターになり、サビの部分を踊る。
Bメロディで曲調が変化。
ここは寸劇仕立てだ。
柚木が、桃瀬と手を組んだり、または桜井と組んだり
浮気性の柚木に、桃瀬が怒って蹴りを入れる。
柚木は大袈裟に転んで、観客から笑いを取った。
Bメロのサビの部分になると、
ドタバタ劇の最中、いつの間に加わったのか、担任のサトシがセンターに登場しポーズを決めた。
ピンスポはサトシを浮かび上がらせる。
サトシの登場で、会場から驚きの歓声があがった。
まるでイリュージョンだ。
「キャー――――!!」
「キャー、サトシ先生!!!」
「いつメンバーに入ってた? わかんなかったー」
ソロパート。
サトシが一人でサビの部分を踊る。
背の高い男性教師が可愛くぶりっ子ポーズをする様子に、観客たちは大喜び。
桜井の指導もあって、指先から足のラインまで美しく。
そして、内股でかわい子ぶりっ子の仕草は大反響を呼んだ。
「サトシ先生が、ぶりっ子してるーーー!」
「キャー――! サトシ先生って、やっぱり女役だったのね」
「やだ、BL事件を思い出しちゃう」
「違うわよ。サトシ先生はわたしたちのアイドルよ」
サトシ先生ファンも、腐女子たちも大興奮だ。
そろそろ、曲はエンディングに入る。
センターは左から、桜井、サトシ、柚木、桃瀬の四人。
クラス全員で、サビの部分を繰り返して踊る。
曲のラスト。
柚木は桃瀬をお姫様抱っこ。
サトシは桜井をお姫様抱っこして、ポーズを決めた。
緞帳が降りてきて、一年A組のパフォーマンスは終了した。
館内は大興奮で、盛大な拍手と歓声に包まれた。
幕の裏では、
「はぁ、はぁ、終わった……重かった。ハルちゃん。ちょっと太ったんじゃない?」
「失礼ね。ちゃんとダイエットしてたわよ」
サトシも桜井を降ろして、肩から息をしていた。
「先生、わたし重かったでしょ」
「いや、いい。大丈夫……、はぁ、はぁ、そんなことより拍手が鳴りやまないようだが」
歓声と拍手は依然として鳴りやまない。
「どうしよう先生。アンコールなんて無理だよ」
「ここは、カーテンコールでしょう。皆さん、横に一列に並んで! カーテンコールですよー!」
再び緞帳があがると、歓声はもっと大きく鳴り響いた。
サトシの先導で、左の観客に向かって一礼。
右の観客に向かって一礼。
最後に、正面に向かって一礼した。
想像もしていなかった大歓声に、嬉しくて泣き出す生徒もいた。
サトシまでもらい泣きしそうになったが、ぐっと堪え、自分の受け持ちの生徒たちに向かって、大きな拍手をした。
すると、その姿がまた感動を呼び、観客から惜しみない拍手が送られた。
そして、一年A組でただ一人、観客席側にいた生徒を忘れてはならない。
夏梅は、動画を撮影しながら感動に震え、涙で頬を濡らしていた。




