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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第二章 一年二学期

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第62話 最終秘密兵器

 その日の夜、サトシは仕事帰りに桜井の家に寄ることにした。

先日、おかずを入れて持ってきてくれた容器を返そうかと思っていたが、学校で返すところを誰かに見られて誤解されたらと思うと、なかなか返却出来なかったからだ。


(毎回そのために、生徒の家を訪ねるのはいかがなものか。それはわかっているんだが)




 サトシは桜井の家の玄関インターホンを鳴らした。


(毎回の家庭訪問だな。まるで問題がある生徒の家みたいだ)


玄関ドアの向こうから、部屋の中で叫んでいる桜井の声が聞こえてくる。


「アキラー! 出てー。お姉ちゃん、今手を離せない」


「おう、わかったぁー」


しばらくすると、鍵を外す音がしてドアが開き、弟のアキラが顔を出してサトシと目が合った。


「こんばんは。お姉さんはいるかい?」


「あ、おじさんだ!」


アキラはサトシの腕にしがみついてきた。


「おじさん、おかえりー! 僕、ずっと待ってたんだよ」


「おかえりって、違うと思うよ。ここは、『こんばんは』じゃないかな」


「おじさん、今日のご飯はオムライスだぜ。もちろん、食べに来たんだよね」


「いや、そうじゃなくて……」


サトシは夕飯を食べに来たのではないと言おうとした。

だが、アキラはグイグイと腕を引っ張って、部屋の中にサトシを引き込もうとしてくる。

ついに引っ張られる形で、サトシは玄関の内側まで入ってしまった。


すると、部屋の向こうから、桜井の声がしてだんだん玄関に近づいて来た。


「アキラ―、誰だった?」


桜井はサトシを見て、驚いて固まってしまった。


「勝手にあがってしまって、すまん」


「もしかして、学校でまずい事でもあったんですか?」


「いや、ただ容器を返しに来ただけで……」


「先生、そんな物、下駄箱にでも入れてくれればいいのに」


「そうか、そういう手があったか」


「そうですよ。今度からは、そうしてください」


「今度から? 今度もあるのか、そうか、よかった」


「ご希望なら週一で作りますよ」


「それは嬉しい。それよりも、アキラくんに捕まったんだが」


サトシが自分の腕を指さすと、まだアキラがしがみついていた。


「僕が、美柑のオムライスを食べて行けって言ったんだぁ」


「結果的にそうなってしまうけど……いいかな」


「もちろんです」


桜井の家に来ることに、以前に比べてだんだん抵抗が無くなって来たサトシだった。


「なんだか申し訳ない。だんだん先生は図々しくなってきたような気がする」


「いいんです。わたしが先生の家に行くよりも、先生がこっちに来た方が安全じゃないですか」


「どうして?」


「だって、これがいるから」


そう言って、桜井はアキラの腕をサトシから引き離した。


「おい、離せ! 美柑。まったくしょうがねーなー。姉ちゃんの為に僕はおじさんを捕まえてやったんだぞ」


「はいはい、どうもありがとう。アキラ、いい子だから、先生のお皿とコップを並べて」


「アイアイサー!」


アキラは台所に飛んで行くと、テーブルに三人分の食器を並べはじめた。


「先生、オムライスなんて子供みたいな食事、口に合わないでしょ」


「そんな……食事をいただく身分で、わがままなんか言えるか」


「何か一品プラスしますね」


桜井が言うプラス一品に、サトシは正直ワクワクした。


「美柑、おじさんにだけずるいぞ。僕にもプラスしろよなー」


「うるさいわね。五分でできる料理なんだから、アキラの分も出来るわよ。ただし、大人の味だけど」


「えー、僕のだけ甘くしろよー」




 食卓に、きゅうりと枝豆の塩昆布和えが並んだ。


「凄い! 即席でこの和え物を作ったのか」


「簡単すぎて申し訳ないです」


桜井はオムライスを皿に盛って、テーブルに置いた。


「最後のケチャップは、僕にやらせろよな、美柑」


「バカ、ケチャップで絵を描くんじゃないわよ。先生に失礼でしょ」


「おじさんのオムライスにハートを描けばいいんだろ。それくらいまかせろ」


「やめてよ! なんて馬鹿なことを言うのよ。すみません、先生」


「いやいや、英語を書いてくれてもいいんだよ」


「わかった! じゃ、あれだ。エル、オー、ブイ、イーだな」


「ふん、生意気言って、アキラに書けるもんですかっ」


「うるさい、美柑。黙ってろ。僕の技を見て驚くなよ」


アキラは、ケチャップでいびつな形ながら、ちゃんとアルファベットを書いた。


「おお、凄いな。アキラくん、たいしたもんだ。ちゃんと英語になってる」


「へへん、どうだ。意味だって知ってるぞ。これは、あい……」


慌てて桜井はアキラの口を塞いだ。


「いいから! ほら、早く食べましょう」


サトシは、きゅうりと枝豆の塩昆布和えを一口食べた。


(これはイケる。これはビールに合う一品だ。おっと、しばらくアルコールは禁止だ。また寝てしまうといけない)


「アキラ! ほらまた、こぼして!」


桜井とアキラ、三人で食卓を囲んで食べる時間に、サトシは、幸せを感じていた。




 「先生、ちょっと相談があるんですけど、いいですか?」


「先生で役に立つことであれば」


「先生にしかできない相談です。白金祭のダンスのことで」


「ダンスのこと? ダンスは順調にうまくなっていると思ったけど」


「それが、あと一歩。みんながアッと言うような演出が欲しいなと」


「柚木と桃瀬のカップルは、盛り上がる演出だと思うよ」


「それだけじゃダメなんです。実は先生にお願いがあるんですが……」


「桜井、先生は今とても嫌な予感がする……」


「じゃ、食べてから続きを話しましょ。嫌な気分になったらご飯が美味しくなくなるから」


「美柑、おじさんは食後に僕と遊ぶんだからな」


「アキラ、お願い。今日はお姉ちゃんを優先にして」


「しゃーねーなぁ。あとでアイスクリームな。あ、僕に聞かれてマズい話だったら、外に出ててもいいけど」


「生意気ね、何に気を使ってんのよ。別に聞かれてもいいわよ」




 美味しい夕食の後は、サトシは桜井の相談に乗ることになった。

桜井は真剣な目でサトシを真っすぐ見つめて来た。


(こ、これは、相談内容によってはすぐに帰れないかもしれない)


サトシはある程度覚悟を決めて、桜井の相談を聞いた。


「先生、ダンスの最終秘密兵器になってください」


「は? ちょっと何言ってるのか、わからない」


「サトシ先生、ダンスのセンターになってください!」


「ええええええーーーー!」


狼狽しているサトシを見て、アキラは意味が分からなくても、とりあえず騒いでみた。


「わーーーー、すげー! センターだって、センター! かっこいいじゃん。いいなぁ、僕もセンターになりたーい」


「でしょ。アキラもそう思うでしょ」


「いいね! おじさん、もしかして正義のヒーローとかか?」


「サトシ先生、センターに立ってください」


「ちょっ待って、待て。勝手に盛り上がるんじゃない! 静かに、静かに! 生徒たちの白金祭なんだから、先生がセンターで踊るなんておかしいだろ」


サトシはそう主張したが、桜井はサトシに向かって反対意見をぶちまけた。


「年に一度の白金祭なんですよー。楽しくなければ白金祭じゃないと思います!」


「そうだ、そうだ! 美柑いいことを言うぜ」


「先生だって、普段と違うところを出して楽しめばいいのに」


「そうだ、そうだ! おじさんも楽しめ」


「いや、それはできない。幕が上がった瞬間を想像してみろ。女生徒の真ん中に男の先生が立っているなんて、違和感しかないだろ」


「先生は最終秘密兵器なんです。ラストの盛り上がったところから登場してください。その方が観客は度肝を抜かれて喜ぶと思うんです」


「最初は隠れていてもいいのか?」


「そう。後半部分だけ、協力していただけませんか?」


「生徒の制作に手を貸すのは構わないと思うが……。あのダンス、ぶりっ子な振り付けを踊るんだよな。まさか、女装しろとは言わないだろな」


「言いませんよ、そんなこと。先生が女装したいと言ってもお断りします。先生はそのままで、シャツにスラックスにネクタイ姿でお願いします」


「うーーーーーん」


サトシは迷っていたが、桜井とアキラがあまりに必死にお願いしてくる姿を見て、可愛いと思った。

それに、ここまでクラスの不協和音を消して、まとめてきた桜井の努力にも報いたい。


「わかりました。やりましょう」


キャー――!


桜井の家は歓喜の声で湧いた。


「喜ぶのはいいが、センターって、桃瀬と柚木がカップル役だよな。ラストにセンターに加わるということは、先生と桜井がカップル役になるということか?」


「あ、そこまでは考えていなかったわ」


「マジかよ! そこ、考えろよ」 


サトシは桜井と公然とカップルになれるのを、ちょっとだけ期待した。

とにかく、これからダンスの振り付けを覚えなければならない。

とはいえ、サトシはダンスの振り付けの大半は覚えていた。



 食事のあとに軽くダンスの練習をした。

桜井がステップの踏み方や、ポーズの決め方を指導した。

もちろん、アキラも一緒にステップを踏んだりして練習に参加してきた。


難しいステップも、アキラと一緒にやるとなぜか楽しい。


「アキラくん、君は覚えが早いね」


「別に。これくらいなら、僕だって踊れるよ」


「こらっ! アキラ! 生意気言うんじゃないわよ。 本当にすみません、先生」


そんなやりとりに、サトシはずっと笑いっぱなしだった。

そして、その日は誘惑に負けず、無事に帰ることが出来た。


(俺、偉い!)


挿絵(By みてみん)

いかがでしたでしょうか。


「面白い! サトシ先生が気になる」

「この続きはどうなるの? この先の美柑を読みたい!」

「サトシ先生、更新したら通知が欲しいです!」

「先生、応援の仕方を教えてください」


「では、先生から応援する方法を教えましょう。

面白いなぁと思った生徒は、こんな方法があるからよく聞くように。

ブックマークや、『☆』を『★★★★★』に評価して下さると作者のモチベーションアップに繋がります。はい、ここ重要ですからね。テストに出まーす!わかりましたかー?」


「はーい」


「よろしく頼みますよ、みなさん」




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