第61話 センターは誰に
ダンス練習用のヒップホップ系の曲をかけて、1Aの皆はリズムに乗る練習から始めた。
桜井美柑が、皆の前に立って声をかけて指導した。
「はーい、基本のリズムワークいくよー。まずは、そのままの姿勢で。ワン、ツー、ワン、ツー。リズムそのままー、右、左、右、左。左右に2ステップ、みーぎ、ひだーーり、みーぎ、ひだーーり。前後に動くよー、まーーえ、うしーろ、まーーえ、うしーろ!」
リズムに乗れたら、振り付けだ。
動画を見て研究しながら、白金女子学園の生徒らしい振り付けを考えていった。
「美柑、ここ、こんなポーズ入れたら可愛くなーい?」
桃瀬は、両手でハートを作って胸に置き腰をひねってみせた。
「ハルちゃん可愛い―! いいね、こんな風にくるっと回ってポーズ。これで決まるんじゃない?」
「桜井さん、こんなぶりっ子ポーズ恥ずかしいわ。もっと、真面目なポーズないの?」
「夏梅、あんたはぶりっ子していても、どこか盆踊りになるから不思議だわ」
曲はSNSで流行っている曲にした。
その方が各自、家でも練習できるからというのが理由だ。
ダンスの振り付けはだいたい決まった。
ただ、これをクラス全員並んで踊っても面白味がないことに桜井は気が付いた。
「なんかさー、グループ分けしたいよね。グループごとに移動して、どのグループもセンターに来た方が公平だよね」
「各グループでセンター決めれば、グループが移動しても動きが乱れないんじゃないかな」
「確かに! それならセンターはひとりじゃなくて、二人並んだ方が、ステップはきれいに見えると思う」
桜井と一ノ瀬は、黒板にボーリングのピンを上から見たように並んだ丸を描いて、構成を考えてみた。
「わたしは単純に四十名を五つのグループに分けようと思ったんだけど。一グループ八人で、上から見たらこんな感じに並べば……」
「美柑、一グループ八人だと、センターが一人になっちゃうじゃん。わたしは二人にしたほうがいいと思う」
「一ノ瀬さんの考えによると、各グループのセンター二人。そうしたら、四つのグループと余り四名になるよ」
「うーーーん、四名が余るかぁ」
一ノ瀬と桜井の構成案に、夏梅がアドバイスしてきた。
「その四名をクラス全体のセンターにしたらいいんじゃない?」
「ふむ、なるほど。夏梅って天才!」
「ほほほ、それほどでもなくってよ。その四名のセンターに、学級委員長の私を入ることが望ましいわ」
「なんだよ、私利私欲で思いついたのか、夏梅は」
桜井は、天才と褒めた言葉を削除したくなった。
すると、一ノ瀬が提案した。
「センターの一人は、桃瀬さんで決まりね」
「ええー! わたしでいいの? 嬉しいわ。じゃ、わたしメイド服着るね」
「ハルちゃん、それはダメ。ひとりだけ制服じゃないなんて目立ちすぎるわ」
「何よ、何もかも美柑が決めていくのって、おかしいわ」
「わたしが勝手に決めているんじゃないわ。一ノ瀬さんや他の皆と話し合って決めているんだけど。別に嫌ならいいのよ。センターから降ろしても」
「くっ……、わかったわよ。制服で」
夏梅は、センターの夢をまだ諦めていなかった。
「センターはやはり学級委員長でしょう。ズバリわたしがその役を引き受けるわ」
「やめとき。夏梅がセンターになると雰囲気が変わる」
「何よ! 桜井さんったら、酷いわ。じゃ、あと三人は誰にするの?」
柚木と一ノ瀬は、まず桜井はセンターから外せないと思っていた。
「美柑、センターやってくれるでしょ?」
「ま、いいけど?……そしたら、柚木くんもセンターに入ってよね」
「ダメよ! わたしなんかとても、とても……」
「センターに選ぶのには理由があるの。柚木くんの人気を考えると、センターに来てくれた方が柚木ファンが一番盛り上がる」
「でも、こんなわたしが、ハルちゃんみたいな可愛いこの隣で踊ったら、身長差が……」
「そうよ、美柑。柚木くんって、かっこいい男子っぽさがウリなんだからね。わたしと組んだら凸凹コンビになっちゃう」
「お、なるほど、それいいね。本物のカップルってそもそも身長差があるじゃない。どうせやるなら、本気でカップルを演出しちゃおっか?」
夏梅が真っ赤になって、桜井に注意してきた。
「桜井さん、なんてことを言うの! 百合だわ、百合……」
「夏梅、あんたちょっと黙っててくれる? わたしのアイディアを茶化さないでマジで。
やるなら本気出していきましょうよ。柚木くんだけ男子の制服になってほしいわ。きっと、カッコイイーーーってファンがキャーキャー言うはず」
「ちょっと、何言ってるのよ、美柑。わたしに男子になれと?」
戸惑う柚木の背中を、一ノ瀬が押した。
「うん、男子役の柚木くんと可愛いハルちゃんでカップルにしちゃお! これ絶対盛り上がるわ」
桜井は、もし柚木が嫌がるのなら、別の案を出さなければと思っていた。
「嫌かな? 柚木くん」
「美柑、わたしやるわ! スラックス履いて、ネクタイを借りれば可能よ。わたし、完璧な男子になる自信あるわ」
「「「やったー! 面白そう!」」」
クラス一同、そのアイディアに賛成した。
「三人は決まったね! 桃瀬さんと柚木くんがカップルで、桜井さんもセンターだとしたら、あと一人はどうする?」
一ノ瀬は、クラスのみんなに聞いてみた。
夏梅が、一生懸命自分を指さしてアピールしている。
しかし、それは見事にスルーされた。
「一ノ瀬さんは、右側のグループのリーダーに欲しいんだよねー。どうしようか」
「柚木くんくらい、注目されるような存在がほしいわね」
「そうなのよ、ハルちゃん。もっと、何かあっと言わせるような演出が欲しいのよ」
グループ構成の話し合いは暗礁に乗り上げてしまった。
「もう時間がもったいないから、それはあとで考えるとして、早くダンスの練習をしようよ」
クラスの誰からともなく、積極的に練習をという声が聞こえて来た。
「そうだね。じゃ、通しでやってみようか。明日、グループ分けを発表しまーす。いいよね、美柑」
一ノ瀬から下の名前で呼ばれて、桜井はびっくりした。
「美柑、センターに立ってみてよ」
「後ろからだと美柑が見えない」
「いいんだよ。美柑の気配を感じるだけで、わかるでしょ」
「何それ」
桃瀬と柚木だけではなく、クラス全体から下の名前を呼ばれることに、嬉しさと同時に責任感が湧いてきた桜井だった。
そのタイミングで教室のドアが開き、担任のサトシが教室に入って来た。
「みなさーん、お疲れ様でーす。練習は進んでいますかぁ? じゃあ、一回、先生の前で踊ってみせてください」
桜井たちは曲の準備をして、定位置でスタンバイした。
イントロが始まると、ノリのいいリズムでダンスは始まった。
基礎練習が効果あったのか、それとも、SNSによる自主練習の成果なのか、短期間でありながらダンスはほぼ完成に近づいていた。
曲がサビを繰り返す部分になると、桜井はあることに気が付いた。
サトシの手と足が、わずかだがダンスの振り付けと同じように動いている。
生徒たちのダンスに合わせてリズムを取っていたのだ。
桜井はそれを見逃さなかった。




