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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第二章 一年二学期

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第60話 屋上から愛を込めて

 白金祭の催し物に一年A組が提出した企画書のうち、採用になったのはダンスだった。


「クラス全員参加のダンスか。難易度が高い方が通ったとは……」


サトシは正直、コスプレ喫茶のほうが無難な気がしてそっちを推していた。

ダンスとなると、全員集まって練習しなくてはならない。


(ダンスが苦手な子もいるだろうし、練習に参加しない子も出るだろう。本当に体育祭の時のように、クラスが一体となってダンスを披露するところまで行けるのか、不安しかない)




 サトシの不安は当たった。

一年A組の教室では、何を踊るのか曲決めからすでに揉めていた。

ダンスの基礎も出来ない子がほとんどの状態で、今さら反対意見を言う生徒もいた。


「みんなが桜井さんみたいに、踊れるわけじゃないのよ」

「桜井さん、わたし達にダンスを教えてよ」

「桜井さんみたいに踊れないからついていけなーい。無理よ」


桃瀬はコスプレ喫茶が通らなかったことで、とても機嫌が悪かった。


「わたし、せっかくの白金祭だから、可愛い催し物がよかったわ。ダンスって、ちょっと趣味じゃないし」


「決まったことなのよ、桃瀬さん。決まったからには全力を尽くしてがんばりましょう!」


「ふん、夏梅だって踊れないくせに……」


「踊れないけど、何事も努力よ。可愛いとか可愛くないとか、そんなことで白金祭を判断してほしくないわ」


「じゃあ、夏梅は踊ればいいじゃん。美柑に教えてもらいなよ」


「桜井さんにばっかり頼るって、どうかしら。だいいち、桜井さん練習に出て来ないじゃない」


夏梅の言う通り、桜井は放課後の練習に顔を出さなかった。


「学級委員として、桜井さんの態度を黙って見ているわけにはいかないわ。先生に言いつけてやる」


「え、夏梅。それって、美柑がたぶん一番嫌がることだと思うけど。やめなよ」


桃瀬が止めるのを聞かずに、夏梅はサトシに言いつけに職員室へ行った。




 夏梅は、職員室でサトシに訴えた。


「サトシ先生、桜井さんがダンスの練習に非協力的です。今日だって、出てないんですよ」


「桜井かぁ。何か事情があって、家に帰っているかもしれませんね」


「先生! 桜井さんに甘いのではないですか? 靴もカバンも教室にあるから帰っていませんよ。きっと、校舎のどこかでサボっているんです」


「わ、わかりました。探してみましょう」


桜井に甘いと言われ、一瞬ドキッとしたサトシは、夏梅をなだめて桜井を探して回ることにした。

サトシは、クラスが不協和音になる前に、桜井の話をきいてやるべきだったと後悔した。

とりあえず、校舎の中を探し回ったが、どこにも桜井の姿はなかった。

校庭の方まで来たが、陸上部が走り込みをしているだけだった。


(もしかして、柚木のところかもと思って校庭まで来たが、当てが外れたようだ。やはり、帰ってしまったのだろう。夏梅は何か間違えているのかもしれない)


サトシは探すのを諦めて、何気なく校庭から校舎を眺めてみると、屋上に人影を見つけた。


(まさか)




 まさか桜井ではないだろうと思いながらも、サトシは校舎に入り、屋上へ行く階段を急いで駆け上った。


(確か、屋上は立ち入り禁止になっているはず。生徒は出入りできないはずだ)


そうは思いながらも、もし万が一、桜井だとしたらと悪い想像が頭をよぎった。

屋上のドアは鍵が壊れていた。

思い切ってドアを開けると、ちょうど桜井が屋上の柵に手を伸ばしたところだった。


「桜井! 早まるな。話を聞こう」


桜井はサトシの声を無視して、柵にあがろうとした。

サトシは強引に桜井の腕を引いた。


「こんなところで何をやってるんだ。桜井」


やっとサトシに気が付いた桜井は、耳からイヤホンを取った。


「音楽、聞いてた」


「何の」


「何だっていいでしょ」


「よくない」


「は?」


「よくないんだ。全然よくない。先生は桜井に謝らなければいけない。だから早まるな!」


サトシが謝ると言っているのに、桜井はきわめて冷静だ。

彼女は、ただ茫然と空を見上げた。


「先生は未成年の君に飲酒させ、それから……」


「空が青い」


「空?」


「空が青い。見えないけど、あの空に星がないわけじゃないんですよね。先生? 」


「何を言っている」


挿絵(By みてみん)



「『見えないからって存在しないわけじゃない』って訳していいのかな。〇キンパークのワン・モア・ライトの一節」


「ワン・モア・ライト……、あ、あれか。それで合っていると思う」


「やっぱり英語って面白いね、先生。今度、歌詞の和訳を教えてください」


「ああ、いいけど」


「よかった。わたし、先生に嫌われてなかった」


桜井はサトシの方に向き直って、笑ってみせた。

サトシは全身の力が抜けた


「それは、こっちのセリフだ。桜井はそんなことを心配していたのか」


「先生こそ、わたしが嫌ってるとでも思っていた?」


「大人をからかうんじゃない」


「わたし、先生に『将来にわたる長期的な幸せを願っている』と言われたことを忘れていませんよ。ちゃんと英語を学んで進学して就職して、そして幸せな人生をおくるの」


「そうか」


「就職先は、サトシ先生のところでもいいですけど?」


「バカか……五年後でも同じことが言えるんなら、そのときは考えてやってもいい」


「えーー、違うでしょ。先生がわたしにプロポーズするんですよ」


「じゃあ、プロポーズするかどうかを考えてやる」


桜井美柑は、はじけるように笑った。


「きゃはは!」


「いいから、教室に戻りなさい。ダンスについてまとまらなくてクラスが崩壊寸前だぞ」


「先生、困ってるの?」


「ああ、非常に困っている。マジで助けて欲しい」


「先生が困る顔は見たくないわ。わたしが、一肌脱ぎましょう」


「だからやめろ。その表現、どっきとするから」


顔を赤くしたサトシの視線が泳いでいる。

そんなサトシを見て、桜井は笑いながらサトシの手を引いた。


「行こ! 先生、教室に戻るよ!」





 夏梅は、サトシと一緒に教室に戻って来た桜井を見つけると飛んで来た。


「桜井さん、あなたどこに行ってたの? もう全然ダンスについてまとまらないんだけど」


「わたしダンスの責任者じゃないけど。それに、みんなわたしに頼りすぎだっつーの」


クラスメイトは、それぞれの言い分を主張し始めた。


「だって、桜井さんみたいなかっこいいダンスしたかったんだもの。教えてよ」

「無理よ。わたしダンスなんて得意じゃないし」

「やっぱ、可愛い系で喫茶がよかったー。ダンスやだー」


桜井は騒音に我慢できずに声を張り上げた。


「やると決まったらやるしかないでしょ!」


突然の桜井の怒声に、クラスは一斉に静かになった。


「なーんてね。楽しくやろうよ、白金祭。ダンスが苦手でも楽しくやればいいじゃん。得意不得意なんか関係ないよ。簡単なステップでも、全員が揃うと高度なテクニックに見えるんだよ」


企画立案者の一関が聞いた。


「じゃあ、たとえばどんな曲がいいと思う?」


「そうねぇ。もともと喫茶で可愛い系がやりたい子がいるんだから、可愛い系でよくない?」


「ええええー。そんなのつまんないよー。カッコイイ系がいい」


桜井は、つまんないと言われても、自分の考えは曲げなかった。


「白金女子学園らしさって、女子を全面的に出した方がいいと思う。例えば、アイドルグループみたいな感じでさ、ハルちゃんみたいに可愛く踊るの」


桃瀬は名指しされて、ちょっと嬉しかった。


「ええ? わたし? わたし、そんなに可愛くないもーん」


「ほらほら、ハルちゃんのこんな感じ! こんな感じの振りつけを考えようよ」


桜井の主張に納得する生徒もいたが、そうでない生徒もまだ少数いた。

夏梅は、これ以上クラスの対立を広げたくないと思い、最終判断をサトシに振って来た。


「サトシ先生は、どっちがいいと思いますか? 客観的判断をお願いします」


「え、先生はー、……先生は、君たち全員が輝くのは、君たちらしい曲だと思います。それはどっちかというと、可愛い系ですね。ここはウケも狙って、思いっきり超アイドルしたらおもしろいと思います」


桜井もそれに乗った。


「いいね! なんちゃら46みたいな感じがウケると思う。衣装だって、この制服にすればお金もかからないじゃない」


「ええーー制服? つまんなーい」


と、言う桃瀬に対し、桜井は提案した。


「そのかわり、普段できない制服の着こなし方するの。面白いと思わない? スカートをミニにして、思いっきりアイドル路線で」


「美柑、それいい! 可愛いリボンも付けようよ、ソックスも変えたりして、可愛いJKを演出したら面白いよね。思いっきり校則違反しても、衣装ですと言えば怒られない」


「曲も明るくてノリがいいやつで」


「髪をゴムで結ぶの、やめてもいいかな」


「ポニーテールでもさ、大きなリボンならよくね?」



クラスがまとまり始めて、サトシは安心しながら傍観していたが、ここで激励の一言。


「皆さんが真面目に練習している様子を、先生はときどき見に来ますからね。先生があっというようなダンスを見せてください」


担任が見に来ると言うのだから、生徒たちは俄然やる気に燃えた。

桜井もやる気スイッチが入った。




 桃瀬が桜井の耳にひそひそと聞いてきた。


「ねぇ美柑、先生と仲直りしたんだね。どうやって仲直りしたの?」


「それは、秘密」


「教えてよケチ。友達でしょ」


「いいよ。ハルちゃんがダンスを完璧にマスターしたら教えてあげる」


「ふっ……美柑のその性格、わたし嫌いじゃないわ」


桃瀬と桜井の間に柚木が入って来て、わめいた。


「わたしもー。わたしも友達でしょー。部活休んで参加してるんだから、仲間に入れてよー」


すると、使命感に燃える夏梅が注意した。


「そこ!! うるさいわよ。まじめに話し合いしてるんだから!」


「夏梅、注意するくらいなんだから、当然あんたも踊るんだよね」


わーわー、ギャーギャー、


さっきまで暗く沈んでいた1Aは、いつもの明るく元気な1Aに戻っていた。



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