第59話 白金祭企画書
白金女子学園の文化祭は、白金祭と呼ばれている。
ある日、一年A組で白金祭の催し物について話し合いがHRの時間にあった。
「このクラスでの催し物について、クラスでやりたいものを考えましょう。 皆さんで話し合って、その中からアイディアを絞って企画書を提出します。最終的に校長先生から認可されて決定します」
「はい、先生」
「何か質問ですか? 夏梅」
「自由に考えてもよろしいんでしょうか」
「基本的にはそうですが、他のクラスと被らないようにしないといけません。でも、それを意識しすぎると自由に発想ができないから、先生はそこは意識しなくてもいいかなと個人的に思っています」
「では、1Aはとりあえず自由に考えるという線で?」
サトシは夏梅の熱意を感じた。
担任に口出しさせないで、夏梅が主導で司会進行したいという熱意だ。
「夏梅、進行を頼みたいが、いいですか」
「もちろんです! では、まずみんな、自由にアイディアを出し合ってみましょう」
サトシは、生徒たちの自主性に任せることにして、教室の隅の方へ椅子を持っていき傍観することにした。
「やるんだったら、舞台劇はどうかしら」
「それは演劇部がやるんじゃないの?」
「演劇部とうちらじゃレべチ」
「じゃ、合唱とか」
「だめ、それも合唱部が」
桃瀬が夢見るような顔で提案した。
「コスプレ喫茶がいい。かわいいメイド服着てみたーい」
「うん、ハルちゃんなら、きっと似合うわ」
「柚木くん、ありがとう!」
「でも、わたしはきっとメイド服なんて似合わない」
「あら柚木くんなら、執事よ。かっこいいと思うよ。ねえ、美柑」
「どうでもいいわ」
「またー、美柑ったら、何が気に入らないのよ。いつまであの日の事を引きずってんの」
「はぁ? わたしが何を引きずっているっての?」
「少しはクラスのみんなと協調しなさいよ!」
「ハルちゃん、待った。そこまでにしとき!」
柚木は桜井と桃瀬の間に入って、喧嘩を止めた。
進行役を任されていた夏梅は、その様子を見てイライラしてきて爆発した。
「あなたたちっ! どうしてもっと白金女子学園らしいものを思いつかないの?! いい? 年に一度の白金祭なのよ!」
「コスプレ喫茶のどこがダメなのよ。じゃ、舞台劇でもする? 女子高生と教師との禁断の愛……」
「ハルちゃん! よしなって! ど直球すぎるわ。美柑がかわいそうよ」
桃瀬と柚木の言葉が、桜井を傷つけた。
「ハハハハハ、柚木くん、憐れんでくれてどうもありがと。でも余計なお世話よ」
サトシは内心ドキドキしながら、桜井たちの喧嘩を止めに入った。
「よしなさい。今は喧嘩する時間じゃありません。みんなで楽しく何かできれば、それでいいんじゃないですか」
桜井はぷいっとサトシから顔をそむけた。
サトシの胸はチクッと痛んだ。
クラスで話し合いしているうちに、誰かが言い出した。
「ねぇ、わたし達って体育祭で優勝したじゃない? あのときのチームワークで何かできないかしら」
「応援団の桜井さんって、かっこよかったねー」
「リレーの桜井さんも学校中の話題をかっさらっていったわ」
「桜井さんがリードして、みんなでダンスを踊るのもいいんじゃない」
夏梅はそろそろみんなのアイディアを黒板にまとめて書き始めた。
「お化け屋敷、コスプレ喫茶、舞台劇、内容がどれもハッキリしないわね」
夏梅が思い描く白金女子学園らしさが、感じられないと言う意味らしい。
桃瀬は自分のアイディアを推した。
「はい、コスプレ喫茶は、内容が具体的よ。楽しくなければ白金祭じゃないわ」
桃瀬の意見は筋が通っているが、クラスの声はそうではなかった。
「わたしは、ダンスがいいと思います。全員参加型で1Aらしいと思います」
「ノリのいいダンスがいいです。チックタックで流行っているような曲」
「あ、それならみんな、スマホで見て自宅でも練習できそうだね」
「何より楽しそう!」
クラスの波はダンスに流れそうだ。
「では、コスプレ喫茶とダンスを企画書に書いて提出してもいいんですか? サトシ先生はどう思いますか?」
「みんなが楽しいと思える企画書を二枚出してみて、校長先生の判断に任せてはどうでしょう。企画の趣旨が他のクラスと被らない内容なら、どちらかが採用になると思いますよ」
「では、この二つですね。企画書は発案者の桃瀬さんと一ノ瀬さんにお願いします」
「ハルちゃん、企画書がんばって書こうね!」
柚木はコスプレ喫茶で執事の服を着てみたいから、桃瀬の案を応援した。
「ありがと、柚木くん。でも、ダンス企画って美柑が協力するような気がする」
桜井は桃瀬の意見が聞こえないふりをした。
「アホくさっ! わたしは、弟の世話があるからどこにも協力しない」
桜井がいつもと違ってずっと不機嫌で、桃瀬たちとの関係が悪くなっていることに、サトシは薄々感づいていた。
そして、それは自分のせいかもしれないと思うと、気軽に声をかけることもできないでいた。
なんとかしなければと思いながら、何も出来ないまま、ただ日々が過ぎて行った。




