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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第二章 一年二学期

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第53話 ベビー用品のことなら

 サトシはベビー用品売り場にいた。

明日、工藤の家に出産祝いに行く予定だが、何を持っていくべきかで悩んでいた。

工藤に子供が生まれたのは七月中旬の事で、もう既に二か月も経っている。

本当は、夏休み中に行くつもりではいたのだが、工藤の奥さん、つまりサトシの元カノに会うのがどうしても恐くて秋になってしまった。


(ベビー服っていろんなデザインがあるんだな。あ、これかわいいじゃないか。でも、ベビー服のサイズって? なんだこの数字は、70、80、90、何のサイズなんだ)


サイズの意味がわからないサトシはベビー服を諦めた。


(紙おむつなら同じだろう。これも、S、M、Lがあるのか。何だよ、難しいな)


紙おむつのサイズもわからないので、サトシは別の棚に移動した。


(へぇ~、離乳食っていろんなものがあるんだ。おいしそうだなぁ。でも、離乳食っていつから食べるんだ? 生まれてすぐは母乳だろうか。ミルクという可能性もあるのか。ああああ、わからない!)


サトシがベビー用品売り場で頭を抱えていると、


「サトシ先生? こんなところで何をしているんですか?」


声をかけられ振り返ってみると、桜井美柑が立っていた。


「桜井、良いところに来てくれた。ちょっと手伝ってくれないか」


「先生、今日は帰りが早いんですね」


「ああ、ちょっと外回りの仕事があって直帰するところだ。それで、時間が出来たついでにここに寄ってみたんだが」


「ベビー用品売り場にですか? 先生、自炊が面倒だからって、いくらなんでも離乳食を食べるのはやめてください」


「そうじゃない、桜井。工藤先生の家に出産祝いを持って行こうと思って、立ち寄ったんだ」


「なぁんだ、そうだったんですか。でもあれ? 工藤先生にお子さんが生まれたのって、一学期末でしたよね。今頃出産祝いって、遅くない? 今日まで何もしてなかったんですか?」


「電話でやりとりはしていたんだけど、工藤先生の家にはまだね……色々と事情があって。そんなことより、何を持っていけばいいのかわからないから助けてくれないか」


大好きな先生に助けてと言われると、張り切ってしまう桜井だ。

断るわけがない。


「色々と事情ねぇ……。わたしでよければ力になります。まず、出産のお祝いといったら、ベビー服がいいですよ。もう生後二か月くらいかしら。となると、60を着ているかもしれないですね」


「60というのは?」


「身長です。60センチまでという意味です」


「じゃあ、この60から選べばいいということか」


「ブブー。残念ながら不正解です。大人と違って赤ちゃんの成長って早いんですよ。60なんて、あと三か月もしたら小さくて着られなくなります」


「そうか、60は不正解か。じゃあ、正解は何なんだ」


「解説します。お祝いというのは、子供が健やかに大きく育つように大きめのサイズを送るものなんです。出産祝いなら80がいいですね。80はだいたい一歳用ですから、歩き始めの頃に着る服になるんですよ。ね、それだと成長が楽しみになるでしょう?」


「へぇ、桜井よく知っているな」


「アキラは生まれてすぐに、わたしが育てましたから」


「じゃあ、アキラくんのおむつも桜井が替えていたのか」


「ええ、そうです。紙おむつはすぐ使うし消耗品だから、SでもMでもいいかもしれません」


「なるほど。ミルクはどうだろうか」


「いい質問ですね。それは、工藤先生の奥さんの母乳がよく出ているのかどうかで変わってきます。できれば、電話で確認した方がいいですよ。子育ての方針に会わない物を贈って迷惑になるといけませんから」


「すごいな桜井。いつでも母親になれるな」


「やだー、先生! 母親になるには、まず妊娠しなきゃいけないんですけどぉ?」


あまりにみごとなアドバイスに、サトシは桜井がまだ高校生だということを忘れていた。


「あ、そうだった。店員と間違えた」


「ひどい! 先生。で? 女の子ですか、男の子ですか?」


「女の店員さんと間違えたに決まっているだろう」


「そうじゃなくて、工藤先生のお子さんのことです」


「あれ、どっちだっけ。確か女の子だったと思う」


「えーーー! だったと思う? そんないいかげんな! おむつならともかく、ベビー服で失敗したら取り返しがつかないじゃないですか。だいたい、元カノが産んだ子供の性別もわからないなんて、先生は無関心すぎます」


桜井の口から元カノという言葉が飛び出すとは、サトシは思いもよらなかった。


「桜井、どうして工藤先生の奥さんが俺の元カノだと知っているんだ」


「クラスで噂になっていましたから。みんな知ってますよ」


「そうなのか……」


サトシは自分の元カノ事情を生徒に知られていたのかと、しばらく考え込んでしまった。


「先生? サトシ先生? 怒っていますか? ごめんなさい」


「いや、事情を知っているなら話は早い。明日、一緒に工藤先生の家へお祝いに行きましょう」


「へ」


「一人で行く勇気が出なくてね。もし桜井が来てくれたら、きっと育児の話で盛り上がるでしょう。そうすれば、気まずい雰囲気になることもないかと」


「明日、サトシ先生と一緒に、ですか? いいんですかぁー? 誰かに見つかって学校から変な目でみられません? 一緒に、ハルちゃんと柚木くんを誘っちゃいけませんか」


「桃瀬と柚木か。皆に言いふらさないという保証はあるかな」


「うううーん……ない。百パーセント、保証はありませんね」


「なら、だめです」


確かに、桃瀬たちと一緒に行くものなら

「ちょっと、聞いてよ! サトシ先生の元カノに会っちゃったぁ!!」

と、クラス中に言いふらしかねない。

サトシも桜井も、桃瀬が面白がって話す姿を容易く想像していた。


「やはり危険ですね。ここはわたしが、サトシ先生の為に一肌脱ぎましょう!」


「桜井、そういう表現はよしなさい。いらん想像してしまう」


「はっ! わたしったらなんという表現を……。じゃないわよ、変な想像する先生が悪いんですよ」


「それは、すまなかった」


「とりあえず、工藤先生に電話で子供の性別を確認してください。わたしはセンスのいい服を選んでおきます」


「それは助かる」


「先生、見て! このベビー服、めっちゃ可愛いじゃないですか? いいなぁ、こんな可愛い服。わたしも自分の子供に着せたーい」


「ピンクの服なんて、女の子だとわかってからでいいのでは」


「センスないなぁ、先生。男の子にピンクを着せた方がおしゃれなのにぃ」


「そんなものか。いや待て。待ちなさい。今から性別を確認するから、衝動で決めないように」


サトシは桜井の衝動に注意はしながらも、ベビー服を選んでワクワクしている桜井を見ていると、可愛いと思ってしまった。


「二人で電車移動すると目立つから、明日は桜井の家まで車で迎えに行くから」


「キャー! 先生と愛の逃避行ですかー!」


「バカなことを言うんじゃない。これは工藤先生へお祝いに行く業務だ。おっと、アキラくんは連れて来ないように」


「わかっていますって。アキラは友達の家に遊びに行かせますからぁ。ムフフ」


サトシは桜井が来てくれると決まって、工藤の家に行くのが苦ではなくなった。


(これで、元カノとの思い出に踏ん切りがつけられそうだ)


それに、目の前ではしゃいでいる桜井を見ていると、若狭が心配するほど具合が悪そうには見えない。


(若狭くんには悪いが、明日は桜井とドライブしちゃうぞー)


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