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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第二章 一年二学期

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第52話 恋の橋渡しはできません


 サトシは河本塾へ営業に来ていた。

白金女子学園の生徒たちが下校してから、営業の外回りに出ている。

同じく営業を担当している古松川先生は、雑務に追われて同行できないからと、サトシから報告を受けることになっていた。

一人で営業活動なんて、慣れないサトシにはストレスでしかない。

その代わりに、サトシはそのまま直帰してもいいことになった。


「失礼します。白金女子学園の教諭をしております佐藤サトシです。二学期以降の学校説明会のスケジュール表をお持ちしました」


「白金学園さん、いつもお世話になっております。さっそくですが、今年の説明会はどういう傾向になりますかね」


「今年は、積極的に土日に集中して説明会と見学会を入れています」


「毎週ですか?」


「はい、ほぼ」


「それは、それは……先生方も休めなくて大変でしょう」


「ま、そこはなんとかシフト組んだりしていますから。大丈夫です。それだけ本校は力をいれて、頑張っております。どうぞよろしくお願いいたします。」


本音を言えば、教頭と教務がゴリゴリにシフト組んで、なんとかして受験生を増やそうと必死なんですということだが、そこまでは言わなかった。


河本塾へ営業をかけていると、廊下で掲示板を見ている若狭を見つけた。

サトシは話しかけようかどうしようか迷っていると、若狭の方から気が付いて挨拶してきた。


「あ、サトシ先生! こんにちは」


「おや、若狭くん、こんにちは」


河本塾の講師が、サトシと若狭のやり取りを見て驚いていた。


「なんだ、若狭。白金女子学園の先生と知り合いなのか」


「ええ、まぁ……」


サトシは、正直に言うと営業を適当に終わらせ、早く河本塾から去りたかった。

若狭と顔を合わすのは、なんだかモヤモヤするからだ。


「では、わたくしはこれで失礼します」


「え? 白金女子学園さん、もういいんですか?」


「ええ、すみません。忙しいもので……、また来ます」


サトシは、資料を塾の講師に渡してそそくさと河本塾を出た。


(苦手だ。若狭くんを見ると意味もなく苦手意識が……若狭くんに罪はないのに。なんて俺は器の小さい人間なんだ)





 サトシは逃げるように駅前通りを小走りしていると、後ろから呼び止められた。


「サトシ先生―!」


振り向くと、今一番話したくない人物、若狭が追いかけて来るではないか。


「サトシ先生―! 待ってくださーい。話がしたいんです」


「話? わたしと話って何ですか?」


サトシが足を止めると、若狭はあっという間に追いついた。

塾から走って追いかけてきたのに、ちっとも息が乱れていない。


(息切れしてないなんて、ふっ、若いじゃないか)


「あの、誰にも相談できないことがあって。相談に乗ってくれませんか?」


「どうしたんですか。進路相談ならK大付属の先生に聞いた方が役立つと思いますが」


「進路相談じゃないです。あの、そのー、美柑のことで、ちょっと」


「はぁ? 桜井について? まあ、受け持ちの生徒に関わることでしたら……いいでしょう。聞いてもいいですが、桜井がどうかしましたか」


他校の生徒から自分の生徒に関する相談など、断っても罰は当たらないのだが、桜井に関係することとなると話は別だ。

まるで挑戦状を叩きつけられた王者が、余裕で新人をあしらうようにサトシは受けて立った。


(現役の高校教師を舐めるなよ。こっちは、前に河本塾に来た時、君が友達と話している内容を知っているんだ。確か以前、君はフラれたと言っていた。すでに君は敗者だ)


「美柑は体調不良が続いているそうですけど、大丈夫ですか? 学校へ行っていますか?」


若狭の質問が、サトシが想像していたのと違っていて肩透かしを食らった。


「そういう確認? 桜井は毎日元気に登校していますよ。桜井が具合悪いと言ったんですか?」


「はい、吐き気がするから僕とは会えないと」


「吐き気……ねぇ」


「こんなこと考えたくないんですが、美柑は妊娠しているってことはないでしょうか?」


サトシは吹き出しそうになるのを、ぐっと堪えた。

以前、自分もその嘘に引っかかったことがあったからだ。


(いやいや、そんなはずはない。前にもそんなことがあったが嘘だったし)


「若狭くん、なにか心当たりでもあるんですか?」


(ここで、心当たりがあると言ったら、ぶっ飛ばす)



「はぁ? 僕は関係ありませんよ。美柑と僕は何もないです。そうじゃなくて、誰か他に好きな人でもいるのかなと」


(なんだ……何もないのか)


サトシは桜井の交友関係を全て把握しているわけではないが、桜井の好きな人は自分しかいないと自負している。


「さ、さあ……? 個人的な恋愛事情までは、把握してないからわかりません」


「そうですよね。すみません、変な事を聞いて。じゃ、やっぱり嘘なのかな」


「たぶん……そうじゃないですかね」


「僕を避けるために、嘘までつかれるのか」


「嘘、と決めつけるのはどうでしょう。捉え方じゃないですかね。桜井は吐き気がするから会えないと言ったんですよね。こういう言い方は酷かもしれませんが、若狭くんと会うと吐き気がするから会いたくない、という意味も考えられます」


「そんな……でも、可能性はありますね。僕は美柑に嫌われていますから。嘘をつくほど嫌われているなんて、ショックです。どうしたら、仲良くなれますか?」


若狭の相談を聞いて、サトシはちょっと安心した。

若狭と桜井は付き合っているわけではないことが分かったからだ。

だが、サトシはいかにも真剣に相談に乗っているように、真面目な表情は崩さない。


「うん……そもそも、君はフラれたんですよね。それでも、君は桜井の事を諦めきれないのかな」


「はい。まだ好きです」


「フラれた理由は?」


「それが、さっぱりわからないんです」


「桜井が君を避けるのは、一度断ったのにまた追いかけて来るからじゃないですか?」


「そう……ですかね」


「しつこい男は嫌われますよ。追いかけるから逃げるんです。一度、素っ気なくしてみるのも手かもしれません」


「そんなことできません! 高校が違えばもう会うことはないと諦めていたのに、夏祭りで運命的な再会をしてしまったんです。これはもうデスティニー! 僕は気持ちを抑えることが出来ません。勉強だって手に付かないし」


「そこまで、思い詰めて……、 運命的な再会とは、夏祭りで桜井と二人でデートしてたんじゃないんですか?」


「はい、偶然の再会です」


「じゃ、若狭くんは誰と約束して夏祭りに?」


「誰もいません。僕は純粋に夏祭りで盆踊りを踊りたくて、実は一人で行ったんです」


「盆踊りが好き……なんですね」


「おかしいですか? 高校生が盆踊りを好きだと可笑しいんですか?」


「い、いえいえ、別に、いいと思います。若狭くんって、もしかしてお爺ちゃん子ですか?」


「失礼なこと言わないでください。僕はお婆ちゃん子です!」


「なるほど、君の切実な思いは伝わりました」


「今だって、サトシ先生を見たら美柑を思い出しちゃって、つい追いかけて……追いかけて雪国ですよ」


「意味がわからない。でも、安心しなさい。気持ちはわかります。どこか演歌っぽいけど」


「ああ、僕は何をやっているんだ。サトシ先生なら助けてくれるなんて、あるはずないのに」


「アドバイスはできますが、恋の橋渡しは出来かねます」


「矢切の渡しですね」


「それ、違うと思います。……なんか、昭和なんだよな」


「ですよね。桜井は、サトシ先生の受け持ちの生徒ですもんね。ごめんなさい」


サトシは「恋の橋渡しは出来かねる」と言った瞬間、どこか気持ちが清々した。


(恋の橋渡しなんて、するわけがないだろがっ!)


「とにかく、桜井には桜井の理由があるのでしょう。しばらく、距離を置いてみては」


「そうですか」


若狭はサトシに言われて、ガクッと肩を落とした。

可哀そうな若狭。

そんな若狭を見ていると、サトシは自分が悪魔になったような気がしてきた。

そんなに傷つけるつもりはなかったのに。


「残酷かもしれないけど、今は勉強に専念しなさい」


挿絵(By みてみん)


「それは、わかっています。……でもやっぱり、美柑は他に好きな人がいる気がして」


「考えすぎ、考えすぎですよ。そもそも君たち、付き合っていないのなら、仮に桜井に好きな人がいても何も問題ではないでしょう」


「確かに……そうですね。そうですよね! 忙しいところ、足を止めさせて申し訳ありませんでした。美柑が元気に登校しているのなら、それでいいです。ありがとうございました」


若狭はそう言うと、深々と頭を下げた。

そこまで丁寧にお礼を言われると、サトシは心が痛んだ。


「まあ、今しかない高校生活ですから、青春を満喫してください」


若狭はサトシの言葉に笑顔で応えた。


「やっぱり、サトシ先生っていい人ですね。サトシ先生に相談してよかったです」


そう言って、若狭は塾へと戻って行った。


(いい子なんだけどなぁ。いい子だから、困るんだよ。あ~あ、大人ってずるい)


若狭なんかに桜井を渡したくない気持ちが、心のどこかにある。

そんな自分に気が付いて、サトシの胸はちくっと痛んだ。




いかがでしたでしょうか。


「面白い! サトシ先生が気になる」

「この続きはどうなるの? この先の美柑を読みたい!」

「サトシ先生、更新したら通知が欲しいです!」

「先生、応援の仕方を教えてください」


「では、先生から応援する方法を教えましょう。

面白いなぁと思った生徒は、こんな方法があるからよく聞くように。

ブックマークや、『☆』を『★★★★★』に評価して下さると作者のモチベーションアップに繋がります。はい、ここ重要ですからね。テストに出まーす!わかりましたかー?」


「はーい」


「よろしく頼みますよ、みなさん」




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