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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第二章 一年二学期

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第49話 体育祭① 熱血の夏梅

 「さあ、みなさん、秋の体育祭が始まります。がんばりましょう!!」


 一年A組の黒板の前で、息巻いてクラスに気合をかけているのは担任のサトシではなく、学級委員長の夏梅だ。


「みんな、よく聞いて! 全クラス対抗で優勝したら、栄えある優勝杯と校長先生からの賞品がもらえるのよ!」


「賞品って何かしら」


「それは当日まで秘密だそうよ。さあ、やりましょう! 1Aの名誉と威信をかけて、戦うのよ。わたし達の力の限り、熱い青春の炎を燃やすのよ!」


夏梅は教室の天井に向かい指さして、クラスを盛り上げた……つもりだった。

熱血の夏梅とは反対に、クラスの空気は冷めてしまった。

サトシもこの冷めたクラスの空気を、なんとかしたいところだ。


「夏梅、そんなにひたむきにならないように。まるで命を懸けるような言い方はよしなさい。たかが体育祭ですよ」


「そんな! サトシ先生、冷めないでください。 たかが体育祭、されど体育祭です。わたし達の青春の一ページになるんですから」


「わかった、わかった。では、競技ごとに出場選手を話し合って決めましょう。先生は、君たちの自主性に任せます」


「では、選手を決めて行きまーす」



秋の体育祭

100m徒競走 全員

200m徒競走 10名

障害物 4名

ハードル 4名

借り物競争 6名

400mリレー 4名

応援団 10名



クラスでわいわいキャーキャー言いながら、出場メンバーは順調に決まって行った。

陸上部の柚木はリレーのアンカーに指名されるのは当然だが、そのほかの競技にも推薦されて花形スターだった。

桜井と桃瀬は、応援団に決まった。

柚木は、桜井が応援団だけというのが不満だった。


「美柑、どうして競技の方に出てくれないのさ」


「競技は柚木くんに、おかませするわ」


「わたしばかり出場する競技が多いような気がするんだけど」


「だってー、柚木くんったら、走っているとかっこいいんだもん。いいじゃん、出てよー」


「ハルちゃんまで、わたしを全競技に出すつもり?」


「それはない。気のせい、気のせい。がんばってねー、応援するよー」


柚木は桃瀬に上手くおだてられ、結局、借り物競争以外は全部出場することになった。




 そして、体育祭がやって来た。

とてもよく晴れた空の下、校庭に生徒たちの歓声が湧いていた。

サトシは、この白金女子学園では新参者だ。

行事の細かい仕事は、サトシの役回りになっている。

冷たいお茶のペットボトルを来賓席に運んでいると、教頭に声をかけられた。


「サトシ先生、そのペットボトルごと来賓の方に渡すんじゃないですよね」


「あれ、いけませんか?」


「ちゃんと、紙コップをペットボトルにかぶせて渡してください。これで砂埃を防止するんですよ。細かいことですが、そういう気配りは大切です」


「気が付きませんでした。教えていただきありがとうございます」


サトシに指導した教頭のお化粧は、今日も紫外線対策ばっちりで厚く塗られていた。



 一年A組の生徒たちは大健闘していた。

途中経過だが、一位が2B、二位が3E、と上級生たちが競っている中、1Aは一年生ながら三位に食い込んでいた。


(柚木を出し過ぎなんじゃないかな。大丈夫か? 柚木は)


サトシは、次のハードルに備えて準備運動している柚木の元へ行った。


「柚木、大丈夫ですか? 夏梅はああ言っていましたが、たかが体育祭です。無理する必要ないですよ」


「サトシ先生! ありがとうございます。あれ? 先生のジャージ姿もかっこいいですね。それって、先生方に支給されるんですか?」


「何、言ってるんですか。これは自前ですよ、自前」


「えええ! かっこいいです。美柑もカッコイイって言ってたでしょ」


「いや、桜井は何も言わない……ですよ」


「へぇ、意外です。美柑ならキャーキャー言ってると思ったのに」


「いえ何も……。ところで、その桜井はどこで何をしているのでしょうかね」


「美柑なら、ほら、あそこ! あそこで応援してますよ。見てください。美柑だけ踊りがキレッキレだから、すぐわかりますよ」


柚木に言われた方向を見ると、応援団の中で確かに一人だけ踊りがキレッキレの生徒がいた。それが桜井だった。

今どきのJ-ポップに合わせた応援は、他のクラスからも注目の的になっていた。


「へぇ、桜井がダンスが上手いなんて知らなかった……です」


「美柑は放課後毎日、教室で練習してたんですよ。彼女の応援があるから、わたし頑張れます!」


「そうですか。それはよかったです」




 柚木が障害物、ハードル、200mと懸命に走る姿を見せるたびに、校庭は黄色い歓声があがった。


「キャー、柚木くーん」

「キャー、かっこいい! 柚木くーん」


柚木の活躍のおかげで、1Aはついに二位へとランクを上げた。

クラスの誰もが、柚木の大活躍に喜んでいた。


「柚木さん、素晴らしいわ! あなたのおかげで、もしかしたら一位に輝けるかもしれないわ。一位の2Bとはわずか十点差よ!」


特に熱く興奮している夏梅は、柚木の活躍にクラスの優勝を賭けていた。


「あまりプレッシャーかけないでよ、夏梅。柚木くんが可哀そうでしょ」


桜井は、腕組みしながら夏梅に注意した。


「まあ! プレッシャーって……桜井さんなんか、踊っているだけでしょ。もうちょっと競技で協力しなさいよね」


「はぁ? わたしが協力的じゃないとでもいうの?」


「夏梅も美柑も喧嘩しないで。わたしは、みんなの応援が嬉しくて頑張れているんだから」


夏梅が桜井の応援を踊っているだけと批難したことで、桜井は機嫌を悪くした。


「あっそ。そんなに言うなら、夏梅、あんた応援団で踊ってみたらいいわ」


「美柑、よしなさいよ。あっちで水でも飲みに行こうよ」


桃瀬が二人の喧嘩に割って入って、桜井を水飲み場へと連れて行った。


「また、サボる気なんでしょ。あんたたちーーー!」


夏梅は桃瀬と桜井に向かって叫んだ。

そして、振り返って柚木の方を見ると、檄を飛ばした。


「柚木さん、狙うは逆転優勝よ。力の限り走るのよ!」


「わかってるって」


あきれながら返事をした柚木の方を向いていた夏梅。

彼女は、背後から桃瀬にあっかんべーされていることに気づいていなかった。


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