第48話 初めての人は決めています
体育祭に向けて、体育の授業は全て陸上競技になった。
一年A組の生徒たちは、大山先生の笛に合わせてグランドのランニングをしていた。
桜井と桃瀬は、ランニングの一団に中にはいない。
彼女たちは、グランド横の芝生に座って体育を見学していた。
「あ~、暇だわ。体育の見学」
「美柑、あの勉強会の後、若狭くんとはどうなってるの?」
「やめてよ。あんなの最初からどうもなってないわよ」
「ふう~ん、美柑の好きなタイプの基準がわからないわ。若狭くんってかっこいいし、頭もいいのに」
「わたしは外見で好きにはならないの」
「あれ? サトシ先生は外見じゃないの?」
「それは、なんというか包容力?……、ってか、もう終わったの。サトシ先生とは」
「うっそー! いつ? いつ始まっていつ終わったのよ。全然気づかなかった」
「っていうかさぁ、体育の見学だるくない? ちょー暇っ! ハルちゃん、なんとかしてー」
桜井は芝生に寝転がった。
桃瀬も一緒に寝転がって、相変わらず桜井とのおしゃべりを続けてた。
「わかるー。夏休み終わって二学期ってさ、一番ダレるよねー」
「だよねー。今日、帰りにどっか寄っていく? ミスドとかさー」
桜井と桃瀬は、芝生でゴロゴロしているところを大山先生に見つかった。
「こらー! お前ら何なんだ、その態度は! 体育の見学届を出しておいてゴロ寝とはいい根性じゃないか」
ついでに学級委員長の夏梅までやってきて、桜井たちを非難し始めた。
「先生、この人たち、どうせ仮病に決まってます。桜井さんが生理二日目なんて嘘です。この人は年に三回しか生理が来ないって言ってましたもの」
「夏梅……よくも人の生理事情を暴露し……うっ、気持悪! 吐き気が……」
桜井の迫真の演技に桃瀬が乗っかって来た。
「キャー美柑! もしかして、つわり?」
「なんですって? 桜井さんがつわりって本当? 桜井さん、まさか妊娠……まあ! 白金女子学園の生徒としてあるまじき事態。不純異性交遊していたってこと? 大山先生、これ重大事件です!!」
夏梅は驚き、大騒ぎした。
まるで桜井の弱味を握ったとでも言うように、勝ち誇って桜井を見下ろして。
夏梅に煽られた大山先生は、すっかり気が動転してしまった。
「おい、保健室行け! 保健委員、桜井を保健室へ」
「先生、わたしが保健室につれて行きます!」
「そうか、桃瀬、頼んだぞ」
桜井と桃瀬は、迫真の演技で体育の見学をうまくエスケープし、保健室で休憩することに成功した。
体育の授業が終わって、大山先生は職員室に入るとサトシを探した。
サトシはちょうど、次の授業の準備をしている所だった。
「サトシ先生、ちょっとお話があるんですが、いいですか?」
「大山先生、お疲れ様です。五分位なら」
「ここではちょっと、職員トイレに行きましょうか」
「トイレ? トイレで何するんですか?」
「変なことはしませんよ。話をするだけです」
「あたりまえですよ。変なことって何ですか。また変な噂をたてて喜ぶ腐女子が湧きますよ」
サトシは大山先生に急き立てられる形で、職員用トイレに入った。
「どうしたんですか。大山先生」
「サトシ先生、落ち着いて聞いてください。桜井美柑が、妊娠しているかもしれません」
「はぁ?!」
サトシは自分でも声が裏返ったのがわかった。
「今、保健室で休んでいるから行ったほうがいい。今日、桜井は体育の授業を見学していたんだが、急に芝生に横になって、気持ち悪いと言ってつわりの症状が……」
「何だと!」
サトシは日頃から桜井は隙だらけで危ない生徒だと危惧していただけに、ちゃんと指導して来なかったことを後悔した。
(あいつには、先に避妊の大切さを教えるべきだった。まさか若狭の子か)
*
サトシが慌てて保健室に入ると、桜井は保健室のベッドに腰かけてケロッとし、保健室の先生とおしゃべりしている最中だった。
「でさー、保健室の先生は、好きな人とかいるんですかー?」
心配のあまりサトシがかけた言葉は、通常モードだった。
「桜井! お前、大丈夫かっ」
保健室の先生は、急に入って来たサトシに驚いた。
「サトシ先生、入るならノックぐらいしてください」
「あ、すみません。あの、桜井が……」
「桜井さんは、どこも悪くありません。つわりだと言って体育を抜け出してきたらしいけど、妊娠なんてしていませんから」
「え? 嘘?」
桜井は申し訳なさそうに、サトシに謝った。
「ごめんなさい、嘘です。わたしが気持ち悪いって演技したら、ハルちゃんがつわりということにしちゃって」
「嘘だったのか……、よかった」
「ごめんなさい」
「心配させるような嘘をつくんじゃない。こっちはてっきり相手は若狭くんかと聞くところだった」
「やめてください。あいつとわたしはそんな関係じゃありません」
「そうか」
「だって、初めての人はサトシ先生って、わたし決めてるんですもの」
「おい、おい、ここでそういう冗談はよしなさい」
サトシは保健室の先生に向かって弁明した。
「真に受けないでくださいね。これ、ノリで言っているだけですから」
「わかってます」
そして、保健室の先生は腕時計を見ながら、サトシ先生に忠告した。
「サトシ先生、もうチャイムが鳴りますよ。次の授業に行くんじゃないですか?」
「そうでした。桜井も早く教室に戻りなさい」
「はーい」
「それと……避妊はしろよ」
「先生! わたし何もないってば! 信じてよー」
*
その日の放課後、白金女子学園の校門で、一人の男子生徒が誰かを待つ姿が目撃されていた。
「キャー、男子よ」
「何の用かしら。誰かを待っているの?」
「あの制服、K大付属じゃない?」
「誰よ、こんなイケメンを待たせている女は」
女生徒たちがヒソヒソと話している中で、男子ひとりでいるのは、若狭だった。
若狭は、とても恥ずかしい思いをしながら女子校の校門に立っていた。
そのころ、
一年A組の教室では、桜井と桃瀬が笑いながらおしゃべりしていた。
「でっさー、保健室の先生には嘘だって一発でバレバレでさー、超うけるー」
「美柑の迫真の演技に、つい乗っちゃったのよね。ハハハ」
そこへ、夏梅が血相を変えて教室へ飛び込んできた。
「桜井さん!」
「あら、夏梅。忘れ物?」
「忘れものじゃないわよ。今、校門でK大付属の男子に声をかけられたのよ」
「おおお、夏梅、おめでとう。ついにモテ期到来?」
「桃瀬さん、からかわないで。そうじゃなくて、桜井さんを呼んできて欲しいって頼まれたのよ。全く、バカにしてるわ。急に話しかけて、他の女子の名前を出すなんて。なんで、桜井さんなのよ! わたしのときめきを返して―!」
「夏梅、落ち着いて。あんた、ときめいたの?」
「ええ、一応……」
顔を赤くして恥じらう夏梅のことなど、桃瀬と桜井は完全に無視した。
「美柑、いいから行ってあげなよ。たぶん若狭くんでしょ」
「いいよ。あんなのほっとけば」
恥じらいを無視された夏梅だが、桜井を連れ出さないといけない使命感に燃えていた。
「悔しいけど桜井さん、そうはいかないのよ。校門の周りはうちの生徒でいっぱいよ。ここはあなたが行かなきゃ、あの男子生徒は帰りそうもないわ。それに、桜井さんを呼んできてと頼まれたし」
「夏梅、それを引き受けたの?」
夏梅に言っていることが本当かどうか確かめるために、桃瀬は窓から校門を見てみた。
「ほんとだー。美柑、凄いことになってるよー。早く校門に行かないと、先生たちが出て来て大変なことになるレベルだよー」
「マジで? だるっ! しょうがないなー」
面倒くさそうに桜井は、重い腰を上げて教室を出ていった。
校門に桜井が着くと、若狭はやっと出て来た待ち人に愚痴をこぼした。
「あ、美柑。こっち、こっち! 遅いよー。女子校の前で待つなんて超恥ずかしかったぞ」
校門に集まって噂していた女生徒たちは、出て来た桜井に男子生徒が話しかけるのを見ると、散り散りに去っていった。
「なんだ、彼女いるんじゃん」
「待っていたのってあの子? たいして可愛くないじゃんね」
「彼氏を学校に呼ぶなんて。一年生のくせによくやるわね」
桜井は、周りの生徒に聞こえるように大きな声で言った。
「あのさぁ、わたし学校に来いなんて言ってないからねー!」
若狭は、怒った桜井をなだめて、ここに来た理由を言った。
「怒るなよ。だって、『塾の問題集で使い終わったやつがあったらちょうだい』って言われて、持ってきただけじゃん」
「あ? そんなこと言ったっけ。覚えてないわ」
「そんなぁ。言ったくせに、問題集を渡したくても桜井の家を知らないし、学校で渡すしかないじゃん」
「ふむ、言ったような気がする。忘れてたわ」
「頼むよー。はい、これ。僕はもう塾へ急ぐから」
「あんがとね。じゃね、バイバーイ」
校門で桜井と若狭が話している様子を、三階の教室の窓から見ていたのは、サトシだった。
(なんだ桜井、やっぱり若狭くんと付き合っていたのか。井の中の蛙、ついに大海を知ったか……)
窓から見ている光景は、桜井と若狭がイチャラブしているように見えて、サトシは複雑だった。
教師として、桜井の健全な恋愛は安心するところなのに、なんだか面白くない。
(何が初めての人は……だ。ふざけやがって。ちゃんと避妊しろよ)
サトシは複雑な感情を、自分でもどう処理していいのかわからなかった。
いかがでしたでしょうか。
「面白い! サトシ先生が気になる」
「この続きはどうなるの? この先の美柑を読みたい!」
「サトシ先生、更新したら通知が欲しいです!」
「先生、応援の仕方を教えてください」
「では、先生から応援する方法を教えましょう。
面白いなぁと思った生徒は、こんな方法があるからよく聞くように。
ブックマークや、『☆』を『★★★★★』に評価して下さると作者のモチベーションアップに繋がります。はい、ここ重要ですからね。テストに出まーす!わかりましたかー?」
「はーい」
「よろしく頼みますよ、みなさん」




