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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第一章 一年一学期

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第46話 三校合同勉強会② 校長のスイカ

 それぞれが、定期テストの解き直しをはじめ、間違えたところは友梨奈が教える方に回った。

数学も同じようなスタイルで、若狭が教える方に回っていた。


桜井は数学が苦手だったので、わからないところがあるたびに、若狭から教えてもらっていた。


「全然わかんないよー。若狭くんって教え方下手なんじゃない?」


「どこがだよ。じゃ、どこまでならわかるんだよ」


「これが数学だってことはわかる」


「そこからかよ!」


そんな二人のやりとりを見て、サトシは微笑ましいと思っていた。

というのは、大嘘だ。本当は……


(おい、若狭と桜井、そこくっつきすぎだろ。もうちょっと離れろ)


と、腹の中でイライラしていた。


挿絵(By みてみん)




 夕方4時頃、サトシの家のインターホンが鳴った。


「ん? 誰だろう。宅急便かな?」


勉強会はそろそろ終わりに近づいて、参考書などを片付けはじめたところだった。

サトシが玄関に行ってドアを開けると、そこにはスイカを持った校長が立っていた。


「校長先生! こんな暑い中をわざわざ歩いて……、大丈夫ですか?」


「いやぁ教頭先生から勉強会の話を聞いてね。どんな様子か見に来たんだが、邪魔じゃないかね?」


「とんでもない。どうぞ、どうぞ」


「住所が学校の近くだったし、檀家さんからスイカをまるごともらってね。みんなで分けて食べたら美味しいかなと思って。持ってきましたよスイカ」


「いいんですか? こんな重いものを持って歩いて大変だったでしょう。生徒たちが喜びます。おーい桜井、桃瀬! 校長先生がいらっしゃいましたよー! さぁさ、校長先生、中で休んでください」


奥の方から桜井と桃瀬が飛ぶように駆けつけ、校長を見て喜んだ。


「キャー! 校長先生。見に来てくれたんですか? こんな暑い中を歩いて大丈夫なんですかぁ?」


「校長先生からスイカをいただいたよ」


「嬉しい! 校長先生。座って、座って。サトシ先生、何か冷たい飲み物をお出ししなきゃ」


「ああ、そうだな桜井。冷蔵庫の横に麦茶が入っていると思う。校長先生に麦茶を入れてくれるか」


「はい、グラスは確かあっちの食器棚ですね。包丁はキッチンの下の扉で……」


校長はまめに働く桜井の姿を、目を細めて感心しながら眺めていた。


「うちの学校の生徒は、さすがによく気が利くね。それにしても、よく食器や包丁の場所を知っているね。君は、よくこの家に来るのかね?」


「えっと、よくは来ません。一度だけ友達と一緒に来たけど……」


そこへ、友梨奈と若狭もやってきて挨拶をした。


「はじめまして。聖ルチア女学館の佐藤友梨奈です。サトシ先生の親戚の者です」


「はじめまして。僕はK大付属高校の若狭翔太といいます。白金女子学園の桜井さんとは、同じ中学校でした」


「はい、二人ともはじめまして。白金女子学園の校長で加賀といいます。勉強会はもう終わりましたか? よかったら、みんなでスイカでも食べませんか。校庭の水飲み場で冷やしてきました」


生徒たちは皆喜んで校長を迎え、縁側の方へと案内した。

校長は縁側に座りながら、生徒たちとの会話を和やかに楽しんだ。



 桜井が、校長に麦茶を出して台所に戻って来ると、サトシは包丁を持ったままスイカを目の前にして固まっていた。


「何してるんですか、サトシ先生。早くスイカを切ってください」


「いやあの……、桜井は丸ごとのスイカを切ったことがあるか?」


「え? 先生は切ったことがないんですか? もう! しょうがないなぁ。ちょっと、包丁貸してください。わたしがやります」


「悪いね。力が要るんだろ、切るのに」


「こんなのコツさえあれば、簡単です。それに、いつも先生には重いもの持たせているから、たまにはわたしに力仕事させてください」


「え? 先生が重いものを持ったことなんか、あったかな」


「ありました。……わたしですよ。先生に抱っこしてもらってます」


桜井はそう言うと、スイカの上にそえた包丁を前後に動かしながら降ろし、中ほどから思いっきりスイカを真っ二つに切った。

スイカは気持ちいいほどスパっと割れ、ハッとするほどみずみずしい赤を見せた。


「ああ、そういうことか」


具合が悪くなった桜井を抱っこしながら、保健室まで運んだ記憶が蘇った。

そのあと、サトシの家で桜井を抱きしめてしまった記憶も。

サトシは、自分のドキドキを悟られないように、わざと視線を縁側の方にずらした。


「先生、よそ見してないでお皿出してください」


「あ、お皿。そうだった」




 縁側では、校長と生徒たちが楽しく会話していた。

そこへ、サトシはトレーにカットしたスイカと皿を乗せて運んで声をかけた。


「さあ、みなさーん。校長先生からいただいたスイカですよー」


「すごーい!」


「サーちゃん、これ、サーちゃんが切ったの?」


「いや、これは桜井が……」


「えへへ、ごめんね、友梨奈ちゃん。台所を立つと、わたし黙っていられなくて、つい」


「ふん、いいわ。許してあげる。そのかわり、今日教えた英語の関係代名詞。完璧に覚えてよね」


「友梨奈ちゃん、……いい性格してるわ」




 校長とサトシは、縁側でスイカを食べながらじゃれあっている生徒たちを眺めていた。

サトシは、思わずつぶやいた。


「あいつら、青春してるなぁ。若いっていいよなぁ」


「何言っているんですか。サトシ先生だって、まだまだ若いじゃないですか」


「そんなことないですよ。もうあんなパワーは残っていません。」


「そうですか? サトシ先生なら、まだまだあの子たちと対等に張りあえますよ」


「張りあうなんて、そんなつもりはないですよ。だいたい誰と張りあうんですか」


「たとえば、あの男子生徒。桜井さんと中学の時同級生だったとか……」


「冗談じゃありません。若狭くんと張りあうなんて」



今話題にあがっているとも知らずに、当の若狭は、スイカの種を遠くへ飛ばしてみせて皆に自慢していた。


「若狭くん、すごーい! どうすればそんなに遠くへ飛ばせるの?」


「やめてよ。サーちゃんの庭がスイカの種だらけになるわ」


「そしたら来年、友梨奈さんが収穫しに来ればいいじゃん」


「桃瀬さんったら、酷いわ! 友梨奈がどうして畑仕事しなきゃいけないのよ」


「だったら、わたしが収穫に来ようっかなぁ」


「美柑が来るなら、僕も来る!」


「あんたは来なくていい」


「なんでだ。僕が飛ばした種だぞ。収穫する権利は僕にある」



校長はその様子を見て、笑っていた。

サトシは思い切って、悩みを相談してみた。

この校長なら話を聞いてくれそうな気がしたからだ。


「校長先生……わたしは毎日煩悩と戦っています」


「ほう」


「えっと、勘違いしないでくださいね。生徒をいやらしい目で見ているという意味じゃないですよ」


「わかってます」


「最近、真っ直ぐな生徒の気持ちを受け流すのが、上手くなったんです。でもそれは、生徒のためと言いながら、実は自分を守っているだけなんです。つまり保身です」


「受け流すことで煩悩と戦っているとでも?」


「違うんですか? じゃ、欲望と戦ってます」


「煩悩とは、心の中の汚いものではありません。心の間違った作用のことを煩悩と言うんですよ」


「なんだか難しい話ですね、校長先生」


「間違った作用というのは、時の流れで間違いだったり正しかったりします。今は間違った作用でも、実はそれは正しいかもしれません」


「ますますわかりません」


「あまり悩まないで。サトシ先生は今まで通り、しなやかな心の振舞いで生徒に接してください。そして、生徒の幸せを願うのはもちろんですが、ご自分の人生も大切にしてください。サトシ先生は、教師の他に何か、夢がありますか?」


「最近、夢をみつけました」


「ほう、それは?」


「笑わないでくれますか?」


「笑いません」


「……温かい家庭って、いいなぁと。そういう家庭を持ちたいと思いました」


「いい夢です」


「そうですか? こんなちっぽけな夢でお恥ずかしいです」


「いいですねぇ。その夢を叶える相手は、ぜひわが校の卒業生でお願いしますよ」


「え」


「わたしの妻は、白金女子学園の卒業生です」


「ええ!」


校長先生は、サトシが言った煩悩の意味をちゃんと読み取っていた。

校長先生に心の内を知られたサトシは、恥ずかしいと同時になんだか勇気をいただいた気がした。




いかがでしたでしょうか。


「面白い! サトシ先生が気になる」

「この続きはどうなるの? この先の美柑を読みたい!」

「サトシ先生、更新したら通知が欲しいです!」

「先生、応援の仕方を教えてください」


「では、先生から応援する方法を教えましょう。

面白いなぁと思った生徒は、こんな方法があるからよく聞くように。

ブックマークや、『☆』を『★★★★★』に評価して下さると作者のモチベーションアップに繋がります。はい、ここ重要ですからね。テストに出まーす!わかりましたかー?」


「はーい」


「よろしく頼みますよ、みなさん」




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