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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第一章 一年一学期

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第45話 三校合同勉強会① だるー!

 三校合同勉強会でやる教科は、英語と数学に絞った。


高校一年の一学期というのは、中学から高校に入ったばかりで、高校の授業のスピードと難易度の高さに戸惑う生徒が多い。

その戸惑いが、苦手意識に変わらないうちに、夏休みで一学期の復習をしっかりやっておいたほうがいいというのが、サトシの考えだった。


サトシの家に集まったのは、桜井美柑と桃瀬春奈、聖ルチア女学館の佐藤友梨奈、そしてK大付属の若狭翔太だった。


「あれ? 柚木はどうしました?」


サトシは柚木が参加していないことに気が付いて、桜井に聞いてみた。


「柚木くんは、陸上部の練習があるので参加できないそうでーす」


「そうですか。柚木も大変ですね」


「夏休みなんだから、遊びたーい。高校の夏休みって今しかないんだよー」


桃瀬が頬杖を突きながらつまらなさそうに言うと、


「ふん、これだから白金女子学園は。こんなの早く取り掛かって勉強会なんかさっさと終わらせれば済む話でしょ」


「友梨奈さん、またわたしたちをバカにしたわね。あんたの身内が教師している学校よ」


「サーちゃんをあなたたちと一緒にしないでいただきたいわ」


桜井は心の中で(こ・い・つ!)とつぶやき、悔しくて拳をにぎりしめながら笑顔を返した。


「ほーんと、友梨奈ちゃんと仲良くなってうれしいわぁー」


「美柑、目が笑ってない」


不穏な雰囲気の女子たちに中に、ただ一人の男子、若狭は爽やかな意見を言った。


「僕は君たちと一緒に勉強出来るのは、いい機会だと思います。ひとりでやってもサボりがちだし」


そういう若狭を見て、桃瀬は美柑との関係を怪しんだ。


「若狭くんってさぁ、美柑と一緒にいられるから参加したんでしょ」


「そんなことありませ……、ごめんなさい、あります。ちょっとだけ」


桜井は、若狭の発言を聞いて、ムッと迷惑そうな顔をした。


「うざっ! そういう不純な動機、キモいからやめて。先生早く始めてください。最初は英語からなんでしょ」


勉強会は授業ではないので、サトシはあくまでも生徒たちが自分で取り組んでくれることを望んでいた。

とは言いつつ、監督者としての立場もある。

最初にサトシから、どうやって夏休みの勉強をしたらいいかという話をすることにした。


「高校に入ってみて、一学期はどうでしたか?」


若狭は率直に感想を述べた。


「進学校に入ってから、覚えないといけない教科が増えたかんじ。これ、K大付属の自慢じゃないからね。学校が違ってもみんな同じように感じているんじゃないかな。特に数学の授業のペースが結構早いなと」


「あ、友梨奈も同じー。中学と全然ちがうわよね」


他校の生徒も自分たちと同じだとわかると、桃瀬と桜井は安心した。


「わかる、わかるー。そうだよね。よかったぁ、わたしは高校に入ってバカになっちゃったのかなって思ってたよ」


「美柑もそう思っていたの? なんだみんな同じじゃん。超ウケる。学校は違っても感じることは同じなんだ」


サトシも、他校の生徒の悩みも同じだとわかると、話を進めた。


「高校一年生で、いろんな教科でつまずいていると、そのあとの二学期、三学期、そして高二、高三になっていくにつれて、どんどん面倒くさくなってしんどくなるんですよ。だから、一学期でやらかした失敗や、覚えきれていなくてうまくいかなかったところは、夏休みのうちに何とかしていきましょう」


「何とかって、どうすればいいんですか?」


「具体的には、中間と期末テストの解き直しですね」


「でも、それは夏休みの補習でやりましたよ、先生。また解くのー? だるっ。」


補習を受けていた桃瀬がめんどうくさそうに言った。


「では、補習を受けた後の今だったら解けるのかどうかを、試してみてください」


「だるー!」


「桃瀬、だるー!という言葉は、この勉強会では禁止します。それと、若狭くん。君は基礎学力があると思うから、どんどん二学期の予習をしてもいいですよ」


「予習は塾でやるからここではしません。それよりも、わからないことがあったら、僕に質問してくれると嬉しいです。誰かに教えることで、僕も勉強になるような気がするんですよね」


サトシは、若狭の提案に感心した。


(なんだ、いい子じゃん。悔しいけど)


「そうですね。英語はわたしがサポートしますから、若狭くんはみんなに数学を教えてくれませんか?」


「やってみたいです。僕も復習になるし」


「みんなも同い年の若狭くんから教えてもらったほうが、質問しやすいし覚えやすいでしょう」


「じゃ、友梨奈は英語を教えたい。本当はパパたちと一緒にアメリカへ行く予定だったし」


「そうだね。友梨奈は得意の英語を教えなさい」


桜井と桃瀬は、顔を見合わせて


「うちら、何も教えられないね」


「問題集に描く落書きのクオリティをいかに上げるかなら」


「ハズイいよ、ハルちゃん」


と小さくなっていた。


「そんなことはありません。君たちがわからないところを質問することで、若狭くんと友梨奈は、完璧に理解していないといけない。分かりやすく教えるというのは、本当に理解してないとできないんですよ」


「先生、そんなこと言ったって。わたしなんか、数学の何がわからないのかさえ、わからないんだけど」


「じゃあ桜井は、何がわからないかをこの機会にはっきりさせましょう」


「はーい」


「ここで勉強したことが、無駄になる事はありません」


「でもさ、わたしなんか東大受けるわけでもないんだし。普通にそこそこ勉強して卒業できればいいんだけど。ね、美柑」


「ハルちゃん、もうちょっと向上心持てよ」


ここでサトシがひとつ提案した。


「東大なんか考えていないよという生徒が大半ですよ。でも、その中で英検2級まで取れたらどうなると思う? 高三ではもう英語は勉強しなくてもいいです」


「英語は先取りできるってことですか?」


若狭は興味深く聞き入った。


「そうです。その分、他の教科の勉強に回せるじゃないですか。これはかなり受験に有利になると思いますよ。というのは、極端な例ですけどね」


「ほんとに、そんなことって可能なの?」


桜井は半信半疑だった。


「要するに、英語だけはそんなに苦手じゃないよっていう状態になると、いろんな大学が選べます」


「それは、有利だ」


と、若狭は感動した。


「それに英語って、唯一社会人になってからも使うでしょう? 英語は身に付けたら、一生役立つスキルと言っても言い過ぎではありません」


「「「ほぉー」」」


生徒たちはサトシの話に聞き入っていた。

特に、熱心に聞いていたのは桜井だった。


(一生役立つスキルか……これさえ身につけておけば、大学進学も就職もどっちも選べる。うまくいけば、母さんにもっと楽をさせて、アキラの学費くらい稼げるようになれるかも。そして、サトシ先生はわたしのことを好きになったりなんかして……)


若干、邪な考えが混じったが、桜井が将来の夢を描き始めた瞬間だった。


挿絵(By みてみん)




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