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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第一章 一年一学期

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第44話 本当にやるのか勉強会

 『夏休み三校合同勉強会』、その場しのぎで作った嘘の責任は誰が取るのか。


サトシは、夏祭りで教頭から「期待していますよ」と言われてから、ずっと頭を抱えていた。

今さらあれは嘘でしたなんて、あの教頭には絶対言えない。


毎回レイコ姉さんを頼ってしまうのも、我ながら情けないとは思うが、友梨奈と連絡を取るには実家に電話するしかない。

サトシは、学校の休み時間中に思い切って実家に電話をした。


「もしもし、あ、サトシです。母さん? レイコ姉さんいるかな。……あ、いないのなら、友梨奈でもいいんだけど」


レイコ姉さんは外出中だというので、サトシは母さんに友梨奈を出してもらうように頼んだ。

電話の向こうで、母さんに呼ばれて友梨奈が元気に返事をする声が聞こえて来た。


(友梨奈のやつ、俺からの電話だからってはしゃぎまくっているな)


「はーい、サーちゃん、友梨奈でーす。今どこー? 学校? 学校から電話してくれて嬉しい! そんなに友梨奈のこと気になる?」


「友梨奈、喜んでいるところに水を差すようで悪いんだが、例の勉強会って、いつ、どこでやるって決まっているのか?」


「ああ、あれね。あんなのその場しのぎで出た嘘だから、やらないわよ」


「やらない? それじゃ、困るんだよ。教頭に進捗状況とか聞かれたらマズいだろ。一日だけでもいいから、勉強会をやりましたという既成事実が欲しいんだ」


「ええー、そんなの面倒くさーい。友理奈は夏休みにサーちゃんとどっか行きたーい」


「そんな……、じゃあまだ何も決まっていないんだな。困った子たちだ」


「ええ? 友梨奈まで困った子になっちゃうの? それはおかしいわ。友梨奈はサーちゃんに迷惑が掛からないように、必死の演技をしたのに。酷いわ、そんな言い方……」


「ああ、悪かった、悪かった。そうだね、友梨奈は俺のために必死になってくれたんだよね」


「そうよ。友梨奈は頑張って桜井さんと仲良しになったのよ。あのとき限定だけど」


「その仲良しを、あと一日だけでいいからしてくれると嬉しいんだけどな。ほら、あのK大付属の若狭くんも一緒にいれば、友梨奈の勉強だってはかどるじゃないか」


「そうだけど……、でも、どこで勉強するの? 友梨奈、知らないお家に行きたくなーい」


「そんなわがまま言わないで、そこをなんとか」


「サーちゃんの家なら、友梨奈行ってもいいわ」


「え? 俺んち? ダメだ、そんな。俺の家に生徒が集まるなんて……」


「じゃあ、この話は無しね」


「それは困る。しょうがないなぁ、一日だけなら場所を貸してやる」


「本当? サーちゃんの家でお勉強してもいいの? じゃあ、友梨奈から桜井さんに電話するわ」


「友梨奈……桜井の電話番号を知っているのか」


「あの夏祭りの帰りにね、電車を待っている間みんなで連絡先を交換しあったの。あんな嘘をついたんだもの、みんな共犯者ってことで認識を新たに誓い合ったのよ」


「理由は不健全だが、連絡先を交換しあったのはよかったな。じゃあ、友梨奈にお願いしようかな。一応、連絡漏れがあるといけないから、俺からも確認の電話は入れるからね」


「うん、わかったー。あと、レイコ姉さんに監督者になってもらえばいいわよね。友梨奈から頼んでおくわ」


「そうだな、監督者は必要だ。俺からもお願いしておくよ」


電話に出た友梨奈は、最初は勉強会を開くのを渋ったが、サトシの家でやるならと俄然やる気を出してくれた。

あとは、一日だけみんなで集まって勉強会しましたという事実だけ作ればいい。




 しばらくすると、サトシの携帯電話が鳴った。

勤務中なので、サトシは職員室を出て廊下を歩きながら電話に出た。

レイコ姉さんからだった。


「もしもし、レイコ姉さん? 友梨奈から話は聞いた?」


「聞いたわよ。勉強会の話でしょ? ごめんね、わたし明日から海外に旅行なの」


「海外? 聞いてないよ。どこへ何をしに行くんだよ」


「フィリピンへダイビングをしに。友達と前々から約束していたのよ」


「友達って、彼氏か?」


「だといいんだけど、みんな聖ルチア女学館時代の同級生よ。ほっとした?」


「別に、男友達でもいいんだぞ」


「残念ながらそれはないわ。だから監督者の話なんだけどね、わたしじゃなくてサトシがやればいいじゃない。どうせ、日曜日なら暇なんでしょ。一日くらい頑張って監督者しなさいよ。自分の生徒たちなんだから」


「自分の生徒は、約半数だ。あとは他校の子が約二名」


「サトシ! ここで、ちゃんと大人の対応をしておかないとダメよ。うかうかしていたら、K大付属の生徒に桜井さんを取られちゃうわよ」


「はぁ?! 何言ってるんだ、レイコ姉さん。K大付属は関係ないだろ。ってか、むしろ桜井にとってはその方が健全じゃないか」


「まあ、サトシがそう言うのなら、お姉ちゃんは別にどうでもいいんだけどね。あとになって、どうしようって泣きつかれても知らないからね」


「……わかりました。監督者やります」


「うむ、素直でよろしい。友梨奈は喜ぶでしょうね。でもサトシ、お姉ちゃんが言いたいことはわかっているわよね」


「御意、お姉さま」


三校合同勉強会は、次の日曜日、サトシの家で行うことに決まった。

レイコ姉さんに言われてから、自分の家に若狭が来ることがサトシは気になり始めた。


(レイコ姉さんったら何を……うかうかしていると桜井を取られるだと?

桜井と若狭が一緒に勉強することはいいことだし、仮に付き合い始めたとしても、むしろそれは健全なことじゃないか。……それをこの俺が監督するのか。ああ、教師としてしっかり監督してやろう。桜井が健全な恋愛ができるように、応援してやろうじゃないか)




 職員室に戻ると、教頭がサトシを待っていましたとばかりに声をかけてきた。


「サトシ先生、三校合同勉強の日程は決まりましたか? 学校外のことですが、これも自己研鑽です。夏休みは教員の自己研鑽にはもってこい期間ですからね。応援していますよ」


サトシは、教頭からのプレッシャーにひきつった笑顔で応えた。


「次の日曜日に決まりました」


「では、レポート提出をお待ちしております」


(マジか、そこまでやるのか……)


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