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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第一章 一年一学期

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第40話 夏祭り① 若狭くんって?

 夏祭りの人ごみの中で、桜井美柑は後悔していた。

夏祭りと言えば当然、みんな浴衣で来ると思っていたのに、桃瀬春奈と柚木カオルは浴衣ではなかった。


「美柑、早く行くよー。はぐれないでねー」


「わかってるわよ、ハルちゃん。これでも急いで歩いているのよ。ああ、うっとおしい浴衣って! 下駄は歩きづらいし、歩幅は狭いし」


丸の内夏祭りの盆踊り会場に近づくにつれ、どんどん人は多くなり、桃瀬と柚木にはぐれそうになりながら桜井は必死に歩いていた。


「ああ、足が痛てー」


桜井は足の痛みに耐えかねて、ついに足を止めた。

ふと横を見ると、かわいい雑貨屋さんのワゴンセールが歩道にあった。

ついワゴンセールの雑貨を見たくなって近づいてみると、かわいいお弁当箱や食器が並べられていた。


「かわいい! この杉の曲げわっぱのお弁当箱、サトシ先生用に使ったら喜ばれるかも」


「いかがですか? お客様。普段はちょっと贅沢なお弁当箱も大変お求めやすくなっていますよ」


桜井は迷った。ここでこのお弁当箱を買ってしまったら、夏祭りで使うお小遣いがなくなってしまう。


「友達が待っているので、あとでまた来ます!」


「申し訳ございませんお客様、お取り置きはできません」


「ちっ!」


残念だが、今は曲げわっぱのお弁当箱を諦めるしかない。




 一方で、桃瀬たちは人ごみの中で必死に声を掛け合い、はぐれないように歩いていた。


「ハルちゃん、どこー?」


「いるわよ! 柚木くんの後ろ! それよりも美柑がいないんだけど」


「もう! あの子! 浴衣なんか着て来るから! 美柑―!!」


「柚木くん、背が高いから助かる―。そこから美柑見えない?」


「ホントに、もう! あの子ったらいつも危なっかしいんだから。美柑―!」





 その頃、桜井美柑は柚木たちから完全にはぐれてしまっていた。


「あら、みんなどこ……? ヤバい、はぐれた」


桜井も人ごみに揉まれて、先に進めようにも進めない状態に陥っていた。


(そうだ、携帯。ハルちゃんに電話しよう)


桜井はポーチからスマホを取り出して、桃瀬に電話しようとしたその時、後ろから押されてスマホを落してしまった。


(やだ! スマホ落した! 嫌―! 踏まないで、誰もわたしのスマホを踏まないでー!)


スマホを拾おうと小さくかがんだ桜井の背中を、人々は容赦なく踏みつけて行く。


(やだ! ちょっとやめてー! ここに倒れているのよ。浴衣を着ているのよ。踏んでいかないでーー!! 助けてー!)


そのとき、誰かが桜井の腕をつかんで、グイっと引き起こしてくれた。


「すみません。ありがとうございます。どなたか存じませんが、助かりました」


桜井のきれいに結ったはずの髪は、バラバラになっていた。


「いえ、どういたしまし……、美柑?」


助けてくれた人の顔も見ないで、とりあえずお礼を言っていた桜井は、名前を呼ばれて顔をあげた。


「若狭……くん?」


「とりあえず、ここにいると危ないから、商店側に避難しよう」


「うん」


桜井は若狭に手を引かれて、人ごみの中から脱出するために商店側まで歩いた。

商店側は人の流れが少なく、ちょうど銀行の前が出店も無い空間だったので、二人はそこまで脱出に成功した。


挿絵(By みてみん)


「こんなところで、何やってるんだ美柑」


「何って、夏祭りに来たのよ」


「一人で来たのか?」


「友達とはぐれちゃったのよ。若狭くんこそ一人で何しているのよ」


「僕? 僕も……はぐれたと思う」


「だっさー!」


「どっちがだよ。さっき僕が引き上げなきゃ、美柑は確実に死んでたぞ」


「あ、そうだったわね。ごめんなさい」


二人は何を話すわけでもなく、ずっと黙ったまま、ただ流れていく人の群れを眺めていた。


「美柑さぁ、友達って彼氏と一緒なのか?」


「げ?! 何を言いだすのよ。そんなわけないじゃん。わたし女子校よ女子校。彼氏なんてできるわけがないじゃん」


「そうだな」


「納得しないでよ。若狭くんと違ってわたしは頭悪いんだから」


「誰もそんなこと言ってない。彼氏じゃなくてよかったっていう意味だよ。美柑はもっと自分に自信もっていいのに」


「はぁ? ここでお説教? 意味不明なんですけど」


「相変わらず、キツイな。そこがいいんだけどね」


「全く! 何も良くないわよ。今日だって浴衣着て来て失敗したし、友達とはぐれたし、押し倒されて髪の毛ぐちゃぐちゃになるし、最低だわ。散々な目にあっている」


「浴衣……似合っていると思うよ」


「だーめ。口説いたって手遅れです」


「君が僕をふったんじゃないか。僕は美柑がいいって告白したのに」


「……そだっけ。そうそう、友達に電話しなくちゃ。若狭くんも一緒に来たお友達に連絡したら?」


「うまく話をそらしたな。僕はいいんだ。このまま君といた方が」


「変なやつ。じゃあ、わたしは友達に連絡しようっと」


「美柑、その足じゃ無理だと思うけど。下駄で靴擦れになっているぞ」


「うっ、そうだった。足、痛いよー。どうしよう。もう最悪――!」


「とりあえず、コンビニかドラッグストアで絆創膏を買おう。僕が買ってくるから、それまでここで待ってろ。でもそれは、それはかえって危険か」


「ひぇ! こんなところに、わたし一人置いていくつもりなの? なんて冷酷な奴」


「じゃあ、はぐれないように手を繋いで行こう。ほら!」


「うううーーー、しょうがないわね」


桜井は差し出された若狭の手と、自分の手を繋いだ。

すると、


「あらー、桜井さん?」


若狭と手を繋いだ瞬間、聞き覚えのある声が桜井を呼んだ。

名前を呼ばれた方を見て、桜井はハッとした。

そこには、聖ルチア女学館の友梨奈とサトシが二人で寄り添って立っていた。


桜井は、友梨奈と一緒にいるサトシを見て愕然とした。

サトシも、若狭と一緒に手を繋いでいる桜井を見て愕然としていた。



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