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サトシ先生は美しき十代の乙女に手を出さない  作者: 白神ブナ
第一章 一年一学期

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第26話 期末テスト最終日

 サトシは午前7時、朝早く学校へ出勤した。

期末テストの採点をするためだ。


「おはようございます」


「おはようございます。サトシ先生。もう大丈夫なんですか?」


「あ、お休みをいただいて申し訳ありませんでした。

テストの採点をしなくちゃいけないので、早く来ました。五十嵐先生も早いですね」


「来てくれるのはいいが、テストの採点なら工藤先生がやっていましたよ」


「え、工藤先生が?」


「ええ、一年生の英語を人数分全て。二百名分でしたっけ」


そこへ、工藤が出勤してきた。


「おはようございまーす」


「ほら、工藤先生が来た。聞いてみたらいいんじゃないですか?」


「工藤、おはよう」


「あれ? もういいのかサトシ。本当に出て来て大丈夫?」


「あの、テストの採点をしてくれていたって、五十嵐先生から聞いたけど」


「ああ、あれね。もう全部終わったよ。一応、採点ミスがないかだけ確認してくれ」


「ありがとう。助かったよ」


「別にいいんだよ。一緒に作った問題だったから採点しやすかったし」


「工藤の分は終わったのか? まだなら、俺も手伝うが」


「俺の分は終わってる。ぜーんぜん余裕のよっちゃんだ」


「さすが、仕事が早いなお前は」


サトシは、工藤に感謝して、採点した解答用紙をチェックした。

持つべきものは友である。

教務の五十嵐先生は、サトシが怪我をした一件で最初は疑っていたが、工藤がサトシのテスト採点をしていた姿を見て、真相は本当に運動していただけなのだと理解した。

そして、あれは喧嘩だった……ということをチクる先生は、誰もいなかった。




 たった一日休んだだけなのに、一年A組の教室にサトシが現れると、生徒たちから歓声があがった。


うおーーーー! 


(だから、ここは動物園か。お前たちは縄張り争いでもしているのか)


夏梅がクラス全体を注意した。


「先生は病み上がりなんだから、皆さん、静かにしましょう!」


「夏梅、ありがとう。でも、病み上がりというほどでもないですから」


「いいえ、先生。ここで無理なさってはいけません。わたくしたち、期末テストの最終日が終わるまでは、実力を発揮できるように最善を尽くします。サトシ先生は、安心してください」


「ああ、ありがとう。受験じゃないんだから、そこまで気合は必要ないですが……。まあ、とは言っても、今日で期末テストの最終ですからね。夏梅が言った通り、最後まであきらめることなく、挑戦してください」


そう言って、サトシは教室を見回した。

ふと、桜井美柑と目があったが、桜井は視線をそらした。


(学校でお弁当のお礼をいうワケにもいかないし。ま、いいか)


「では、一時限目のテストは……現国ですね。みなさん、しっかり集中して受けてください。先生からは以上でーす」





 職員室に戻った。

サトシは一時限目のテスト監督はなかったので、パソコンで自分の業務をしていた。


「サトシ先生、お疲れ様です」


校長先生が、サトシの席までやって来て椅子にどっこいしょと椅子に腰かけた。


「校長先生、お疲れ様です」


(やばいな。先日の喧嘩がばれたかな。お説教されるかもしれない)


「先日……」


「あ、はい!」


「というか、昨日だね。卒業生で檀家さんが遊びにきましてね」


「卒業生で檀家さん……ですか」


「皆さんにって、シュークリームをいただきました」


(校長先生の話の意図がわからない。何が言いたいのか)


「サトシ先生のぶん、ちゃんと冷蔵庫に入っていますからね。あとで食べてくださいね」


「あ、ありがとうございます」


「では、これで……どっこいしょっと…」


校長先生は、それだけを伝えると椅子から立ち上がって帰ろうとした。


(話って、それだけ?)


わざわざ、シュークリームがあることを伝えるために、サトシの席まで来たのだろうか。

すると、校長先生は振り返った。


「みなさん、仲良くしてください」


そう言って、校長先生は校長室へと戻って行った。

サトシは、はっとした。

校長先生は先日の件のことを、工藤先生とサトシは運動をしていたのではなく、喧嘩をしていたのだと分かってらっしゃるのだ。

だが、それを非難することなく、「全てわかっていますよ」という意味で、わざわざシュークリームのことを言いに来たのだ。

「みなさん、仲良く」という言葉にすべての意味を込めて。

癒しの校長先生。


(やっぱり、この学校に来てよかった)


サトシは校長先生に心から感謝した。




 突然、電話が鳴った。


すかさず、サトシは電話を取った。


(こんな時間に、保護者かな。)


「はい、白金女子学園でございます」


「……、う、あの、……」


電話口の人は、苦しそうな声を絞り出していた。

ここは119番じゃないんだけど、と思いつつサトシは電話で聞き返した。


「どうかされましたか?」


「う……、その声は、サトシ?……サトシ先生ですか?」


返って来た声を聞いて、サトシは一発で声の主がわかった。

元カノだ。


「どうした? 苦しそうだが……」


「うちの人は?……いる?」


「今、二年生のテスト監督中だけど、どうしたんだ。何かあったのか」


「陣痛が始まったの。今、救急車呼んだから大丈夫。うちの人に、伝えて……産まれるって」


「わ、わかった。すぐ伝える。救急車は呼んだんだな。あいつは病院がどこかわかっているのか?」


「わかって……」


(どっちだよ! わかっているのか、いないのか)


「……る」


「よし、わかっているんだな。君は落ち着いて……とにかく無理して動くな!」


電話を切ると、サトシは工藤に伝えるために職員室を出ようと駆け出した。

五十嵐先生が、驚いてサトシが取った電話の内容を聞いた。


「サトシ先生! 今の電話は?」


「工藤先生の奥さん、陣痛始まっています!」


サトシは工藤がテスト監督をしている教室まで走った。

とはいえ、テスト中である。

教室のドアを急に開けたら、生徒たちが驚くかもしれない。

サトシは工藤のいる教室に着くと、一呼吸おいてから静かに教室のドアを開けた。


幸い、生徒たちはテストに集中していて、サトシが入って来たことにも気が付かない。

工藤だけが、何事かとサトシの所まで歩いてきた。


「どうかした?」


「ちょっと、耳を貸してくれ。すぐ終わる」


挿絵(By みてみん)


サトシは工藤の耳に顔を近づけて、ひそひそと話した。

一部の生徒だけが、工藤とサトシの接近シーンに気が付いた。

何を妄想しているのか、接近シーンを見て顔を真っ赤にしている生徒もいる。


「今、電話があって、奥さん陣痛が始まったと。自分で救急車を呼んだそうだから、お前は病院へ向かえ。ここはおれが代わるから」


「そ、そうか、わかった。ありがとう」


工藤はサトシに言葉少なく礼を言うと、急いで教室を出て行った。


工藤の代わりにテスト監督になったサトシ。

まさか、こういう形で元カノの声を聞くとは思ってもいなかった。

もう何年も前の話なのに、電話に出たサトシを

「サトシ?」

と気が付いた元カノのこと思うと、少し嬉しかった。

だが、今彼女は母親になろうとしている。

元カノは、まだガキのままのサトシを置いて、立派に大人になったのだ。


(どうか、母子ともに無事でありますように)


サトシは生徒たちが真面目にテストを受けている様子を監督しながら、脳内では元カノの無事出産を願っていた。


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