第25話 聖ルチア女学館のお嬢様
「サトシ、わたしはちょっと買い物に行ってくるわ。プリンとかヨーグルトのほうがいいでしょ」
姉は、食の進まないサトシのために、お粥ではなく冷たいデザートなら食べられるかもしれないからと、買い物に出る準備をし始めた。
「えーっと、サン・ジャルダンのプリンと、パテスリー・クララのプリンと、K高原のヨーグルトと……」
「それって、レイコ姉さんが食べたい銘柄ばかりじゃないか。俺はそういうこだわりはない」
「あ、バレちゃった? とりあえず、行ってくるねー」
「ああ、行ってらっしゃい」
(デザートじゃなくて、本当は桜井の作った西京味噌で食べるトマトサラダがいいんだけどな)
姉が出かけてから、しばらくサトシはベッドで横になった。
教師になってから学校を休むなんて初めてだった。
以前、公立高校で教師をしていた頃は、熱があったら這ってでも出勤するのが当然という風潮だった。
ところが、コロナ渦があってから社会全体は、「熱があったら来るな」が常識になりつつある。
サトシは同僚の先生方には迷惑をかけてしまって申し訳ないとは思うが、疲れた体で働き続ける気はなかった。
以前の職場と同じ失敗は繰り返したくないのだ。
しばらくすると、玄関のチャイムが鳴った。
ピンポーン
サトシはパジャマ姿だったので、玄関に出ることをためらった。
(こんな時間に俺の家を訪ねてくるなんて、何かの勧誘とか販売だろう。いいや、無視しよう)
そんなことを考えながら、ベッドで布団をかぶって寝ていると、来訪者は玄関のドアを勝手に開けて入って来た。
(おい、誰だ)
「おじゃましまーす」
若い女の子の声だった。
(桜井? いや、違う。この声は違う)
「サーちゃん、いるぅ?」
女の子はサーちゃんと呼びながら、勝手に家の中に入って来て廊下を歩き、こっちに向かって来た。
(サーちゃんだと?)
寝室のドアが開くと、そこからセーラー服に赤いリボンを結んだアイドル並みの美少女が姿を現した。
「サーちゃん! 見つけたぁ! 心配したよ、友梨奈。大丈夫?」
そう言って、美少女はサトシに遠慮なく抱き着いてきた。
従妹の友梨奈だった。
姉から聞いていた通り、友梨奈は15歳の女子高生に成長していた。
そして名門、聖ルチア女学館の制服姿でサトシを訪ねて来たのだ。
「あ、友梨奈か。大きくなったなぁ。一瞬、誰だかわからなかったよ」
「サーちゃん、友梨奈がこれから看病してあげるからね。もう心配ないよ」
「そうか。それはそれは……。ところで、友梨奈。制服姿ということは、学校から直接ここへ来たのか」
「うん、おばさまに住所をお聞きして、学校が終わったらタクシーで来たの」
「タクシーを使ったのか。そこまでしなくても、いいんだよ。それに、寄り道になるんじゃないか? こんなことをして」
「ヤダ! 友梨奈はサーちゃんのお家に来たかったのに。そんな言い方して、酷いわ!」
友梨奈はシクシクと泣き始めた。
サトシは小さい子供をあやすように、友梨奈の頭を、いい子いい子と撫でた。
(中身は、ちっとも成長してないんだなぁ)
すると、また玄関のチャイムが鳴った。
ピンポーン。
「また、誰かお客さんだ。具合が悪くて寝ているのに、今日はいろいろと来客が多いなぁ」
「友梨奈がでるわ。サーちゃんはここで寝ていて」
「そうか、悪いな。なんかの営業だったら適当にあしらいなさい。」
友梨奈が玄関まで行ってドアを開けると、一人の女生徒が立っていた。
「はーい、どなたかしら」
友梨奈の制服姿を見て、桜井美柑は固まっていた。
サトシの家を訪ねたら、聖ルチア女学館の美少女が現れたのだ。
桜井にとっては、衝撃の出来事だった。
(誰じゃ、この女)
腹の中では驚きと嫉妬が渦巻いていた桜井だったが、ぐっと堪えて丁寧に挨拶をした。
「あ、あの、サトシ先生には、いつもお世話になっております。サトシ先生のクラスの、桜井美柑といいます。」
「あら、その制服……、白金女子学園の生徒さんね。クスッ」
友梨奈は白金女子学園の生徒を見て、バカにした笑いを漏らした。
「は、はい。あの…、サトシ先生の具合はいかがでしょうか」
「サーちゃんなら、熱で寝てますけど」
「サーちゃん? あのー、失礼ですけど、先生とはどういうご関係で?」
「サーちゃんは友梨奈の従兄なの」
(友梨奈って自分のことを言ってる? 何、この女)
「本当のこと言うと、サーちゃんは聖ルチア女学館の先生になるはずだったのよ。それが、何を思ったのか白金女子学園なんかに……クスッ」
また笑った。
友梨奈は白金女子学園を見下して笑った。
その嫌味な笑いを桜井美柑は、決して見逃さなかった。
内心、悔しさで爆発しそうになったが、ここでも桜井はグッと堪えた。
「あの、よろしかったら、これ、作りましたので、先生に渡してください」
桜井は風呂敷で包んだお弁当を、友梨奈に差し出した。
「そんなこと、しなくてもいいのに」
友梨奈は顔を曇らせながら、嫌々お弁当を受け取りながら冷たく返事をした。
「わかったわ。渡しておきます」
「じゃ、わたしはこれで失礼します」
「はい、ごけげんよう」
桜井は帰ろうとして玄関から数歩去りかけて、立ち止まった。
(もしかしたら、この女はお弁当を渡さないで捨ててしまうかもしれない)
そんな不安が頭をよぎった。
桜井は念を押すように、友梨奈の方を振り返った。
「あの、本当に先生に渡してくださいね。サトシ先生によろしくお伝えください」
「はい、渡します。では、さようなら、ごきげんよう」
「さようなら」
桜井は不安に思いながらも、サトシの家から去って行った。
友梨奈がお弁当を持ってサトシの部屋に戻ると、サトシはベッドから上半身だけ起き上がっていた。
「誰か、お客さんだったかい」
「ええ、これ、サーちゃんにって」
友梨奈は、誰からとは教えずにサトシにお弁当を渡した。
「名前は言ってなかったのか?」
「うーーん、忘れちゃったぁ」
「そうか」
サトシには、そのお弁当を持ってきた人物に想像を巡らせ、それはもしかしてという期待感に変わった。
さっそく、風呂敷をといてお弁当箱の蓋を開ける。
すると、きれいに盛り付けたおかずの中にタマゴ焼きがあった。
西京味噌でトマトサラダも、弁当サイズに小さく切って入っていた。
(これが食いたかったんだ)
サトシは、箸を持ってお弁当を食べ始めた。
(美味い! 卵焼きが甘いのがいい! これは食が進む)
「サーちゃん、食欲あるんだね」
友梨奈に声を掛けられても、無言で食べていた。
夢中で食べているうちに、気が付くと完食していた。
サトシが、お弁当を完食したのを見て友梨奈は不思議に思った。
「サーちゃんには、このお弁当を誰が作ったのかわかるの?」
「ああ」
「どうして? どうしてサーちゃんにはわかるの?」
「さあ、どうしてかな?」
サトシはペットボトルの水を飲みながら、お弁当に大満足していた。
(愛情かな?)
愛情という言葉を心の中でそっとつぶやいてみた。
いかがでしたでしょうか。
「面白い! サトシ先生が気になる」
「この続きはどうなるの? この先の美柑を読みたい!」
「サトシ先生、更新したら通知が欲しいです!」
「先生、応援の仕方を教えてください」
「では、先生から応援する方法を教えましょう。
面白いなぁと思った生徒は、こんな方法があるからよく聞くように。
ブックマークや、『☆』を『★★★★★』に評価して下さると作者のモチベーションアップに繋がります。はい、ここ重要ですからね。テストに出まーす!わかりましたかー?」
「はーい」
「よろしく頼みますよ、みなさん」




