第21話 テスト監督中、何を考えている
一学期の期末テスト期間に入った。
今日のサトシには、テスト監督の仕事が回って来ていた。
教務主任から、テスト監督の仕事は割り当てられる。
基本、自分が作ったテストを監督することはない。
なぜなら、出題のミスや質問があった場合、テスト中に修正を通達して回らなければならないからだ。
サトシの割り当てられたのは、受け持ちではないクラスで社会科のテストだった。
テストは始まりが肝心だ。
チャイムが鳴ったと同時にスタートしなければならない。
サトシは、テスト監督に当たったクラスのまで、封筒に入ったテストを持って移動すると、生徒たちに早めに声掛けをした。
「はーい、みんな早く席についてくださーい」
生徒たちは、テスト開始のギリギリまで教科書やノートを見て、最後のあがきをしている。
「机の上の教科書やノートは、カバンの中に入れてくださーい」
「先生、机の中に閉まっちゃいけないんですか?」
「竹山しないようにカバンの中にいれてください」
「竹山?」
「ちょっと、意味がわからない」
「カンニングっていう意味じゃないの?」
「オヤジギャグ、さっぶ!」
オヤジギャグと言われてしまったが、サトシはそんな声はスルーして、テスト用紙を配り始めた。
テスト用紙を全員に配り終えて、静かになったところで、ちょうどチャイムが鳴った。
キーンコン、カーンコン……
「では、テスト、始め!」
テストが始まり、ここから50分間、サトシはテスト監督をするわけだが、実を言うとこれが暇でしょうがない。
テスト時間中は、正直やることが無い。
一応、生徒の間をゆっくりと歩き、不正行為をしていないか見て回るけれども、50分間も教室内をぶらぶら歩くのにも、限界がある。
かといって、読書をするなどもってのほかだ。
ちゃんと生徒たちを監視しているんだぞというオーラを出しつつ、鉛筆のカリカリ音だけが聞こえるシーンとした教室にずっといなければならない。
サトシはその間に、今後の業務をどうやって効率的に進めようか考えていた。
(ああやって、こうやって、……そうだ、採点作業に追われる前に、あの準備だけはしておこう)
脳内では今後のスケジュールを、いろいろ考えていた。
考えているうちに、教務主任の五十嵐先生に注意されたことが、ふと蘇ってきた。
(なんで、女子校は腐女子率が高いんだろう。異性と接する機会が無いからだろうか。俺と工藤が、生徒たちからそんな目で見られていたなんて軽くショックだ)
サトシは、生徒を厳しく監督しているような厳しい目をしつつ、脳内では腐女子についての考察をしていた。
(男同士の恋愛小説や漫画を楽しむなんて、男子がエロ本楽しむのと同じレベルじゃないか。
特に誰かがいじめられているわけでもないし、生徒が妄想しているだけで実害がない。
生徒は妄想しているだけなのに、噂をたてられるなとか意味が分からない。
それによって、友達同士でコミュニケーションがとれ、学校に来るのが楽しいのであれば、それでいいんじゃないか。
それだって、青春の一ページだろ。男子生徒が下ネタで盛り上がるのと変わらない。
そっと妄想させてやればいい。と、俺なら思うけどなぁ。禁止できるものでもないだろ。)
こんな、しょうもないことを脳内で考えていた。
生徒たちは、真面目にテストに取り組んでいるというのに、テスト監督は腐女子の考察中とは不謹慎である。
(俺と工藤が付き合っているという噂はどこまで広まっているんだろう。
俺が受け持っているA組の生徒は知っているんだろうか。そんな様子は感じないけどなぁ。もし、そんな噂を知っていたら、夏梅なんかは真っ先に事実確認に来そうなもんだ。今のところそれはない。ということは、桜井も知らないということか……、あれ? なんで桜井。関係ないだろ。俺は何を考えているんだ)
それでも、50分間は長い。
サトシは、腐女子についての考察を止めて、もう一度、生徒の様子を監督しながら教室を歩くことにした。
(あれぇ、この子、もしかして解答欄が一段ズレていないか? ああ、早く気が付けよ。
おいおい、この子はほとんど白紙だけど大丈夫なのか? この教科を捨てる気だな)
「はい、残り20分でーす。解答欄がズレていないか、確認してくださーい」
(あの子、やっと解答欄がズレているのに気が付いて直し始めた。よかった、急いで直せよ)
「残り10分でーす」
生徒たちは、見直したり書き直したり、ラストまで時間を無駄にしない。
「はーい、もうすぐチャイムが鳴りますよ。名前をちゃんと書いてあるか確認してくださーい」
終了のチャイムが鳴った。
長い50分間分間の、テスト監督としての仕事は終わった。
「はーい、終了です。鉛筆を置いて下さい。では、解答用紙を回収しまーす」
回収された解答用紙を封筒にまとめ、欠席した生徒の名前を記入して、サトシは職員室まで持ち帰った。
テスト期間中の職員室で先生は何をしているかというと、自分の教科のテストの採点だ。
約200名分の採点が終わると成績表を作らなければならないし、夏休みの補習の準備もしなくてはいけない。
はっきり言って、男同士で恋に落ちる暇などない。
教務主任から注意を受けても、サトシはいつも通りに工藤と接するつもりだった。




